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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第4章:混沌に蠢く求道者
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110.剣の王国軍壊滅

 残りの鬼人兵を騎士団のみんなに任せた僕はティーラを連れて他を見に行くことにした。


「そういえばアル様。サラ達はどこに行ったのですか?」


 いつもなら常に僕のそばに控えているはずのサラ達の姿はここにはない。というのもお使いを頼んでるからだ。


「この戦争を早く終わらせるために食糧庫を回ってもらってる。

 ちょうど僕らは奴らの後方から来たから」

「あぁなるほど」


 腹が減っては戦は出来ぬ、なんて言葉があるように戦争を継続するには食料が必要不可欠だ。万を超える軍隊を支える食料ともなれば馬車数十台分にも及ぶので戦争の際には近くの砦に保存しておきつつ小分けしたものを陣の最後尾にて厳重に管理されている。

 でも厳重とは言ってもサラが忍び込めない程ではないし、キャロとエンジュが突破出来ない程ではない。今頃は砦の方は誰にも気付かれずに倉庫が空になってるだろうし、輜重隊も焼き討ちにあって壊滅状態だろう。敵は今、鬼人化騒動でそれどころではないし楽々任務達成して来れるはずだ。


「さて、それで敵軍の様子はっと」

「槍の王国軍は完全に離脱したようですね」


 異変を察知して早々に距離を空けた手際はなかなかのものだ。多分最初から何かあれば離れるつもりで居たのだろうけど、それを指揮した将軍の手腕があってこそだ。


「そして剣の王国軍は……軍としては死んでるね」

「そうですね。鬼人化していない兵もまだ1万人以上居るようですが、余りの事に呆然としてますね」


 そりゃあね。自分たちの仲間が突然魔物になってしまったのだから仕方ない。しかも魔物になった者たちは自分達を襲わずに盾の国に突撃を仕掛けている事から、誰の仕業かも少し考えれば分かってしまう。

 近年の魔物騒動と併せて自分達の国が実は悪の手先だったんだと明確な証拠付きで見せられたのだからもう何を信じて良いか分からないんだろう。


「あ、さっきの王子がなんか喚いてるっぽい」

「きっと今こそ勝機だとか言って兵を鼓舞しようとしてるんでしょう」

「何とも残念極まりないね」


 何よりもその言葉で誰一人動かせていないことが残念だ。あれはもう放置してれば勝手に自滅するだろう。こちらから手を下すまでも無い。僕らが向かうべきはあっちだ。


「僕は盾の国の第一王子アルファスである。この軍の大将は誰か!」


 西に避難していた槍の王国軍の陣地前で声を張り上げれば、慌ただしい物音の後、壮年の騎士が共を2人連れて出てきた。僕の前で膝をつき最敬礼の構え。それは決して敵国の将を迎える様ではなかった。


「わたくしは遠征軍の総大将を務めるホウテンと申します。

 此度の件は全て私のせきに……」

「此度は災難であったな!」

「……ん?」


 だから僕もちょっと鷹揚に構えつつ将軍の言葉を遮った。


「此度の出陣は剣の王国に脅されて致し方なく参集したと聞き及んでいるがそれで相違ないな!」

「はっ、それは、いえ、その……」

「幸い我が軍は大した被害も出ていない。

 それに我等の共通の敵は人に害をなす魔物だと思うがどうか」

「その通りでございます」

「槍の王国の武勇は此度の演習・・でしかと見せて頂いた。今後は大切な国と民を護るために力を合わせていければと思っている」

「ははっ。わたくしも国に戻った後、すぐに王に奏上致しましょう」


 やはりこの将軍は頭が良い。僕の言いたい事をきちんと理解してくれたようだ。多分この先人間の国どうしでいがみ合っている場合じゃなくなる。今回のことは本番さながらの演習ということにして責任の追及とかは無しにするのがお互いに都合が良いと言うものだ。


「剣の王国はどうやら一部魔物に取り込まれてしまったようだな。流石に全てではないと信じたいが」

「そうですな。

 如何でしょう。あの魔物の討伐を我等槍の騎士団に任せては頂けませんか」

「いやそれでは剣の王国と禍根が残ってしまう。

 どうせあと1時間と掛からずに魔物の掃討は終わる」

「はあっ!?あの化物の集団をたった1時間で!!」


 遠目にも盾の王国軍に衝突した魔物たちはその防衛線を崩すことも出来ずに着々と数を減らしているのが分かる。そしてあの魔物たちは元は人間だ。多少なりとも人間だった頃の感情が残っているはずだ。


「お、魔物たちの進撃が止まった」

「どうしたのでしょう」

「ん~~。あぁ、どうやらキャロが騎士団に合流したみたい」

「『がおおお~~~~』」


 僕の言葉に答えるようにキャロの雄叫びが戦場に響き渡った。僕にとっては愛らしい声なんだけど、鬼人兵たちにとってはそうは聞こえなかったようだ。

 なにせ種族とかは違うけど圧倒的上位種からの威圧だ。人としても魔物としても本能がそれまで受けていた命令を上書きした。


「鬼人兵たちが剣の王国軍のところに帰って行くね」

「そうみたいですね。このまま撤退してくれるのでしょうか」

「いや剣の王国としてもあれに帰って来られても困ると思うよ」


 どう考えても頭がやられてしまっているあの鬼人兵を元に戻す薬は存在しない。だから故郷に帰っても困らせるだけ、というより魔物の本能によって暴れる危険が高いから帰す訳にもいかない。

 それになにより、見た目からして元の人の姿からはだいぶかけ離れてしまったから。


「うわぁぁぁ、来るな化物!!」

「うがあああ!!」


 剣の王国軍と鬼人兵による同士討ち?が始まってしまった。ただ人数こそ王国軍の方が多いけど既に士気はゼロに等しい。組織だった行動は出来ず逃げ惑う者がほとんどだ。これじゃあ王国軍が全滅するのは時間の問題だな。1割2割は散り散りになって逃げだしてるから生き延びそうかな。

 まあ僕らにしてみればどちらも敵だ。割って入って助ける気は無い。

 だけど。

 組織的な抵抗が無くなった頃合いを見て、どこからともなく黒ローブの集団が集まってきた。どう見ても怪しいそいつらは、多分結社の者なのだと思う。このタイミングでこんな場所にきて一体何をするつもりなのやら。



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