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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第4章:混沌に蠢く求道者
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111.生まれ出るものと天の声

 剣の王国軍が展開していた一帯は死体だらけの地獄絵図となっていた。そして生き物が死ねばそれが内包していた魔力は瘴気となって放出される。人間、とりわけ軍人は魔力を鍛えている関係上、死んだ後に残る瘴気の量も多い。故に戦場跡というのはいつだって濃い瘴気溜まりになってしまう。

 それを見越してやってきた結社の狙いは何なのか。


「一応教皇から推測は聞いてるんだ」


 盾の王国の陣地に戻りながら僕は隣を歩くティーラに説明することにした。


「ってアル様。呑気に話してますけど止めなくて良いのですか?」

「うん、まぁ。どうせ本当の意味で成功はしないし。

 瘴気自体は処分しないといけないから手間が省けて良いかなと思ってる」


 別に結社としては最初から剣の王国が勝とうが負けようがどっちでも良かった。剣の王国を唆して今回の侵略騒動を起こさせた結社の狙いはまさにこの大量の瘴気だからだ。

 僕の知る限り結社がこれまでやって来たことと言えば、鬼人薬の作成や死者蘇生、魔物を強化して操ったり合成魔獣を造ったり。果ては癒しの国の超大型魔物を生み出してみたり。あ、ちなみにあの鳥の大型魔物だけど、解体してみて分かったのはあれも合成魔物の一種だった。数百体の鳥の魔物を合成することであの馬鹿げたサイズに仕立て上げてたみたいで解体してみれば心臓も100個以上出てきたし部位ごとに肉質が違ったりしてた。お陰で料理によって使うお肉を変えられるし同じ鶏料理でも肉質を毎回変えられるので飽きることが無い。

 って話が逸れたけど、一連の結社の行動はすべて1つのことを達成するための実験に過ぎない。


「彼らの真の目的は、邪神龍の復活なんじゃないかって」

「邪神龍の!? ならなおさら止めないと大変じゃないですか」

「いやだから無理だから」


 200年前に倒された邪神龍を復活させる。それもただ復活させれば良いのではなく自分達の支配下に置く。以前キメラの実験場では失敗してたみたいだけど、あれから改良を重ねて多分いい結果が出たんだろう。


「さて問題です。邪神龍を復活させるために必要な要素はなんでしょう」

「それは、えっと……邪神龍の身体の一部とか」

「うん、それも必要だね」


 記録に残っている限り、決戦の地から邪神龍の死体を運び出すことに成功した人は居ない。6英雄が去った後にあの場所は特殊な結界が張られて出入りが出来なくなったらしいし。

 なら結社はどこから邪神龍の一部を取って来たのか。答えはきっと交戦中に砕いた爪や鱗の破片を拾い集めたんだと思う。当時はかなり派手に戦ったし数キロ先に破片が飛び散っていても不思議じゃない。

 その破片を触媒に、瘴気をエネルギーに、肉体は何か近しい魔物を集めてきたとして、混ぜ合わせて繋ぎ合わせて1つにしたら邪神龍になるだろうか。答えはならない、だ。なぜならそこに魂が無いから。形だけ真似てもあの邪神龍になるはずがない。

 そうこうしている間に奴らの儀式が始まった。

 よく分からない呪文を唱えながらかなり広く取った円の中に魔物の肉体とか何かの薬液とかを積み上げている。

 すると円の中が黒い光で満たされ、同時に空にも暗雲が立ち込めまだ昼だと言うのに辺りが薄暗くなった。なかなか格好いい演出だ。

 そして光が収まると円の中には巨大な魔物の影があった。


『グオオオオオオッ』


 大地を揺るがす産声を上げたそれは、確かにドラゴンと呼ぶに相応しい姿をしていた。呼び出した結社のローブ達は揃って喝采を上げた。


「我らの悲願がついに!」

「これで世界を浄化することが出来る」

「さあ邪神龍よ。我に従い我らの敵を殲滅せよ!!」


 両手を掲げ声高らかに宣言したその男は、次の瞬間ぱっくりと邪神龍モドキに食べられた。


『ガウッガウッ』

「き、教主様!!」

「どういうことだ。なぜ命令に従わない!」

『ガウ~』


 黒ローブの言葉など完全に無視して邪神龍モドキはすぐ近くに居た黒ローブ達を次々と食べて行った。きっとあれだね。生まれたてでお腹が空いてたんだね。お腹が空いた子供が人の話を聞く訳無いし。

 それと暗くてすぐには分からなかったけど、あれは邪神龍というよりドラゴンゾンビとかの方が近いと思う。結社としては4体の巨大魔物を生み出した実績から邪神龍も問題なく生み出せるだろうと考えたんだと思うけど、一部の素材が極端に高品質だったために拒絶反応が起きてしまったようだ。

 結果、ボロボロの肉体のかなり無残なドラゴンの形を模した魔物が出来上がった。

 そして黒ローブを食べ尽くして多少は小腹が満たされたのだろう、邪神龍モドキが翼を広げ上空を見上げた時、次なる事象が起きた。


『はーはっはっはっは。愚かなる人間どもよ。

 我はこの世界に混沌を呼び起こす魔王である!!』


 突如上空からそんな声が響き渡った。これは僕ら宛てではなく世界中に声を届けているのだろう。

 魔王。はるか昔に魔物を率いて世界を恐怖に陥れた者をそう呼んだ。その魔王がこのタイミングで現代に蘇ったというのか。まるで狙いすましたかのようだ。


『貴様らなど我が尖兵たる魔物の餌となるのが相応しいがそれではつまらぬと言うもの。

 精々足掻いて我を楽しませよ』


 どことなく楽し気に語るその声を聞いて、僕の脳裏には豪華な椅子に座り足を組みながらワイングラスを持つ姿が浮かんだ。


『おおそうだ。人間の中でも特に自殺願望が強かったと見える結社が遺したおもちゃは我が預かろう』


 その言葉を理解したのかは分からないけど邪神龍モドキは翼を羽ばたかせて上空に舞い上がり、何処かへ飛んでいった。


『仮に貴様らが生き延びたとして、我の元に辿り着く者が現れるのに何百年かかるだろうか。

 我は約束の地にて、そんな無謀なる勇者が現れるのをのんびりと待っておるぞ』


 魔王の話が終わると、空を覆っていた雲も消え去り青空が戻ってきた。邪神龍モドキが周囲の瘴気を全部吸い取って行ってくれたから戦場跡とは思えない程、さわやかな風が流れてくる。もっとも、僕らの心情はさわやかとは程遠いけど。

 まあいい。今やることは1つしかない。


「ティーラ」

「はっ!

 総員帰還する」

「「ははっ!!」」


 この軍の総大将であるティーラの掛け声で全軍が帰還の為に移動を開始した。

 最後まで色々あったけど、まずは王都に帰ろう。魔王や邪神龍モドキをどうするかは、それからゆっくり考えればいい。さっきの話が本当なら魔王の方から出てくる気は無さそうだし。



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