100.癒しの国での謁見
僕らが王城に呼ばれたのはそれから3日後だった。お陰で王都観光はバッチリだ。ついでに最近のこの国の様子を聞いて回ってみたんだけど大体同じ答えが返ってきた。
曰く『アルフィリア教のお陰でこの国は安泰だ』というもの。それに対し王様や貴族様達はどうかと尋ねてみれば『アルフィリア教の教えを守り、しっかりと国を運営してくれている』と返ってきた。つまりこの国はトップに新アルフィリア教が居て、その下に王家があるような認識のようだ。
そして今、謁見の間にて玉座に座る50代の壮年の国王に向かって膝をついている。
「アルファ商会、商会長のアルと申します。
この度遠く盾の国までお声がけ頂きありがとうございます」
「うむ。癒しの国の王、レス・ヒールである。
よくこちらの呼びかけに応えてくれた。
長旅で疲れているであろう。客間を用意させる故、ゆっくり休んで欲しい」
「ははっ。お心遣い感謝いたします」
見た感じの王の印象は、暴君という事も無く、金使いが荒かったり女に溺れていたりすることも無い、ごくごく真面目な人という感じだ。これならもっと国民に親しまれていてもおかしくないと思うんだけど、影が薄いということなのかな。
「そうそう。盾の国と比べてこちらの国はどうであろうか」
「はっ。魔物や盗賊の姿も無く、実に治安が良いと感じました」
「そうであろう。
すべてはアルフィリア教の教えを守ってきたからこそである」
どうやら王様自身もどっぷり新アルフィリア教に染まっているようだ。それが悪いとは言わないけど、トップが何かに盲目的だと治世が乱れるのも世の常だ。幸い新アルフィリア教は表向きは善政を敷いているので大丈夫なようだけど。
ただ気になるのは、王様は神兵のことをどこまで把握しているのか、だな。
「ここへ来る途中、神兵の方々を拝見する機会を頂戴いたしました」
「おぉ、それは僥倖であったな。
以前はともかく最近では月に1度程度しか見かける機会がないのでな」
「あれは陛下が指揮を執られているのですか?」
「いやいや。あれは神事に関わること故、王家といえど口出しはしないことになっている。
だがしかし、神兵が台頭してから治安が良くなったのも事実。
どうですかな。盾の国もアルフィリア教を国教としてみては。
さすればきっと治安も良くなり国家も安泰になること間違いなしでしょう」
「はっ。確かにそうであろうとは思いますが、1商人の身では何とも」
実際には商人であると同時に第一王子でもあるのでそれなりに国に発言力はあるんだけどね。だけどそうだったとしても国の中枢に宗教を入れる気は無い。僕自身、国に蔓延る悪人は自分で摘んできたのは事実だけど、だからといって命を駒や兵器として扱おうとは思わない。
と、そうだ。神兵繋がりでなぜ僕らが呼ばれたのかも確認しておかないと。
「しかし神兵様がいらっしゃればこの国は安泰。私どもの出番は無いように思えるのですが」
「ん、いや、まあ確かに国内に限って言えばそうである」
なぜ言葉を濁したんだ?それじゃあまるで自分の考えじゃなかったと言っているようにも聞こえる。
「だがしかし癒しの国としては人類社会全体に貢献すべきと考えておる。
隣国の剣の国も魔法の国も今だ魔物の被害も多く、治安も悪化する一方だ。
そこへ我が国から治癒魔法を得意とする部隊を送り支援しているのだ。
アルファ商会の薬学もその支援に一役買ってくれるものと期待している」
「なるほど、そうでしたか。
治癒魔法と言えばやはり教会でしょうか」
「うむ、そうなるな」
……そうか。ある種鎌かけのつもりで聞いたんだけどあっさり頷かれてしまった。
癒しの国は、どうやら200年前から随分と変わってしまったようだ。少なくとも200年前の癒しの勇者が居た頃は王家こそが治癒魔法の権威だった。教会は人々の心のよりどころという意味合いが強くて実務には積極的に関わっていなかった印象なのだけど、いつの間にかそれが逆転してしまったんだな。
まあそうじゃなければ僕らが呼ばれることも無かったか。なにせ癒しの勇者には当時の僕の薬学を伝えてあったんだから。それが現代まで伝わっていれば今更たかが商人に薬学を学びたいとは言って来なかっただろう。
そうして内心落胆していたところで奥の扉が開き、女性が1人謁見の間へと入ってきた。
「謁見中失礼致しますね」
鈴を鳴らしたような綺麗な声でそう言った女性は、人とは思えない美貌を湛えていた。腰まで伸びる金髪に透き通るような肌。男性のみならず女性であっても振り向かずにはいられない美しさはまさに神々しいと呼ぶ以外にない。
その女性を見た瞬間、玉座に座っていた国王が慌てて立ち上がった。
「こ、これは教皇猊下。このようなむさ苦しい場所にいかがなされました!」
教皇。つまり教会のトップだ。でもそれにしては随分と若い。普通教皇と言えば老獪と相場が決まっているのだけど人間でいう所の20代前半にしか見えない。
そしてだからこそ謁見の間に突然やって来ても咎められることがないんだな。なにせ見るからに国王よりも偉いのだから。彼女は国王の態度を気にすることなくにっこりとほほ笑んだ。
「こちらにアルファ商会の方々が来られていると聞いてご挨拶に来たのです。
そちらの方々がそうですね。
ようこそ癒しの国、そしてアルフィリア教へ。
私は教皇のルリエルと申します」
「!!」
ルリエルと名乗ったその女性がこちらを見た瞬間、僕は全力で護りを固めた。その瞬間目に見えない津波のような魔力が僕達を飲み込んでいった。これ少し対応が遅かったら僕はともかくサラ達は危なかったな。彼女がそれをみてクスクスと笑っているのは今のがほんのお遊びだったということだろう。
「あらあら。初見で見破るとは大したものですね」
「幸い知り合いに魅了が得意な者がおりましたので」
実際にはフィディが使っていた魅了の魔法なんて児戯に思える程強力な洗脳の魔法だった。去年までの僕だとギリギリ防げたかどうかってくらいだ。そんな事が出来るとは流石教皇と言うべきか。
ただ、その教皇が僕の顔をじっとみて首を傾げた。
「……あなた、以前どこかでお会いしたかしら」
「生まれてこの方、癒しの国に来たのは初めてです」
嘘は言ってない。前世はともかく今世では初だからね。
たとえ200年前にも今と同じ姿の彼女を見ていたとしてもそれは別の話だ。




