第172話 ドロップキック
「お前早く言えよな」
「あれ……ワシ説明しておらんかったか?」
「してねーよ!」
「オヌシはたまに忘れるからのぅ……」
「聞いてねーし!」
俺とリリスが、ギャアギャア騒いでいるのをリーランは不思議そうな顔で見つめた。
(カリアースの時以来だわ。こんなに楽しそうにする母上を見るのは)
「あの母上……」
「なんじゃ?」
ニコニコ。
リリスはリーランの顔を嬉しそうに見つめた、可愛くて仕方ないという感じだ。
「母上、この少年をヤマトと呼んでいますが……」
リーランと呼ばれた少女は、そういうと改めて俺の顔を凝視した。
(こ、この至近距離で見つめられると照れる。やばい、超可愛いこの子)
「リーラン、応えてやりたいのだが……。いまは説明している時間がないのじゃ。すぐにリューグーに入らねばならぬ」
そういわれたリーランも、微笑しながら同意した。
「そうですね。申し訳ありません。はい、いまは急ぎましょう」
「うむ。さすがリーランじゃ。聞き分けが良いのじゃ……」
そういうと、リリスは慈愛のこもった目をリーランに向けた。
(もしかして、リリスって子煩悩?)
リリスは我に返ったように、指示を出す。
「ヤマト。急ぐのじゃ!魔王が解放された以上、早く里に入る必要がある」
「だから、里だとややこしいから!」
(たしかに、あの気色悪い魔王ってやつ。あれはヤバい……)
俺とリリス、リーランは、里という名の空中戦艦に入ることにした。これにより、龍人族が実に数千年ぶりにリューグーに入ることになる。
気をとりなおして、リリスは巨石でできた門の前に立っている。よく見ると、石柱と石柱の間には、さっきポッカリ黒い空間ができている。さっきまでそんなのは無かった。
「うむ、転移門が開いておる。ここに入って転移するぞ」
「おい?……これは入って大丈夫なのか?異次元空間みたいになってるぞ」
「エルフの国でも体験済じゃろう。同じ仕組みじゃよ。これは、地中に埋まっておるリューグーの入り口じゃ。無事転移門が開いておる。さぁ入るぞ」
やはり、この石柱で囲われたものは転移門だったらしい……たしかにエルフの里で見たものと同じだ。ここからリューグーという艦の中に転移するのか……。
「お、おう……(空中艦って……どんなんだよ)」
「なんじゃ、ビビっておるのか?」
「び、ビビってなんかいねーよ」
「さぁ、入るわよ。ヤマ……ト」
リーランは俺のことをヤマトと呼ぶことに違和感があるのか、若干ためらいながら俺の名前を呼ぶ。
「うん……」
と俺が応えると、リーランは嬉しそうな顔をして、さっさと転移門に入ってしまった。
「ま、まってくれ……」
恐々と、俺も門から中に入る……そこは……。
・
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真っ暗だった……。
おい……、空中艦とかじゃねーのかよ!真っ暗じゃねーかよ!
俺は暗闇の中にいることへの恐怖からリリスのことを呼んだ。
「なんも見えない……。おい、リリス!リリス!!」
「なんじゃい。うるさいのぅ」
(ほ……)
「私もここにいるわ、ヤマト」
リーランも、リリスも、そこらにいるらしい。暗くてみえないけど……。でも安心したぞ。
「ここ何?真っ暗で何も見えないぞ?」
「母上、私も暗くて見えません」
リーランも不安そうだ。
「もうリューグーの中なのじゃが……。少し待て……確かここらへんに照明スイッチがあったはずじゃ」
スイッチ?空中戦艦なのに主電源みたいのがあるのか?なんなの一体……
……ごそごそ……
リリスが何か探している音がする。暗いから不安が駆り立てられる。
「おい、リリス?何してる?」
「・・むぅ……たしかこの辺りに」
リリスは何かを探しているようだ。おそらくスイッチを探しているようだ。空中戦艦でスイッチって……。
俺も暗闇の中、スイッチとやらを探すことにした。
「リリス、どんなスイッチなんだ?」
「「入/切」のボタンがある、カチカチするスイッチじゃ」
(なんかテンション下がるな……俺の故郷の室内灯スイッチみたいだな)
たしか、このあたりからリリスの声が聞こえたような……あのあたりにスイッチがあるのか?
……むにゅ……
「あん!……だ、誰じゃ!?」
俺の両手が何かに触れたようだ。なんだこれ?……俺は確かめるために手を動かしてみる……。
むにゅ、むにゅ……
(え?これって何なの?なんだか柔らかくて気持ちいいぞ?)
サワサワ……もみもみ……。
「ああん!あん。や、やめるんじゃヤマト……あ!スイッチがあった!……あん・・」
そして、明かりがついた。
パ……
「こ、これは」「これは!?」
3人が3人とも違う反応だった。
明るみのなか、俺はリリスの胸をまさぐっていた。
「あ……あうん……やめるのじゃ。ヤマト……」
悶えるリリス。
「な、な、な、」と、状況を凝視するリーラン。
「こ、これは……違うんだ……リーラン」
「なにしとるかーーー!!!」
顔を真っ赤に怒るリーラン。
「ちが!これは!」
俺が弁明する暇もなく、リーランの反応は早かった。
シュン!!
「え?」
リーランは、高速でしゃがみこんだかと思うと。そのまま跳躍した。そしてロケットのようなスピードで俺に向かって飛んできた。
あまりの早さに対応できない俺。
「うわぁぁ!?はえぇ!!」
ドゴォ!!!
リーランのドロップキックが俺の腹に決まる。
ボキボキ……。
俺は、自分の肋骨が折れる音を聞いた。
「ぐぼぉ!?」
俺は血を吐きながら吹っ飛び。壁に叩きつけられ、俺は気を失った。
・
・
・
「ヤマト!?起きた!?」
意識を取り戻したときには、俺はリーランの膝まくらの上で謝られていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!まさかステータスも記憶も全てなくしていたなんて」
平謝りのリーラン。
どうも俺はリーランのドロップキックにより瀕死の重体に陥ったらしい。そして、血を口から流して倒れる俺をみて、慌てたリーランは、すぐに治療したとのこと。
「ち、治療って……どうやって治したの?」
俺は膝まくらされながら、腹や胸のあたりをさすると、まったく痛み感じないことに驚いた。さきほど確かに俺は肋骨が折れる音を聞いたのだが……。
「私、光魔法使いだから……治療は得意なの」
リーラン自身の光魔法で治してもらったらしい。それにしても、すごいドロップキックだった……。
「いや、破廉恥なことしてしまってたのは確かだし、いいんだけど。むちゃくちゃ強いね?リーランさん?」
「リーランでいいわよ。私もヤマトって呼ぶから」
聞けば、リーランは龍人族の中ではそれなりの戦闘力を持っていて、人族で言えばSランク冒険者10人分くらいの力を持っているらしい。さすが龍人族……。
ちなみに俺の頭は、リーランの膝の上に乗っている。なんだか柔らかくて気持ち……。名残おしいが、リーランの膝まくらから俺は起き上がる。
「あ……ヤマト。大丈夫?」
リーランは心配そうな顔をして俺の体を気遣った。というか……、この人、さっき俺にドロップキックをした張本人なのだが……。
「うん、大丈夫だ。リーラン……膝まくら有り難う」
俺はリーランに、呼びつけをするのを躊躇ったが、頑張って呼んでみた。
「ふふ、いいえ」
リーランの笑顔は殺人的に可愛かった。俺はドロップキックされて死の淵をさまよったことをすっかり忘れてしまった。チョロい俺……。
さて、改めて周りの状況をみてみる……。




