忘れていた過去
「……快、これからどうする?」
「どうするって?」
だいぶ楽になったところ、良にそう聞かれた
「正直、桜ちゃんがあそこまでやるとは思わなかった。」
それは分かる。だからこそ、あれから震えが止まらなかったし、吐きそうにもなった。……でも、どうするとはどういうことだろう
「快。もし怖いなら、もうこの町から出よう。お前の親だって、初めはお前を連れて行きたがってたのにお前がここに留まるって言ったから留まらせてくれたんだろ?だったら、親について行けばこの町から出られる。」
……本当にそれで安全なのだろうか?今日の桜を見ていると、例え地球の反対側にいたとしても安全には思えない。それに……
「いや、ここにいる。」
「快……。」
「怖いし、死ぬのは嫌だけど、やっぱり桜には謝りたいんだ。」
「……そうか」
なるべく怯えていないように気をつけながら良にそう言うと、良は諦めたように言った。
「じゃあ、そのやる気があるうちに最後の殺人を止めるか。次は≪ゴールは近い。早く見つけてご覧。奪う命はあと2つ。次は裏切り者。お金は大切。でも、絶対のものではない。お金に眩んだその目はいらない目≫だな」
おそらく、良は俺の強がりに気づいているけど、何も言わないでくれた。
「これはまた怖い文だな」
文の意味的に、たぶん目を取られる。
「今度も泥棒ってことか……」
たぶんそうだろう。『お金に目が眩んだ』ということは、騙し取ったりしたということだ。
「……でも、小学生の俺や桜からお金を騙し取ることなんてできるのか?確か、俺も桜も小遣いは中学生から貰い始めたはずだけど……」
「それが問題だな。そもそも、金があっても人見知りの桜ちゃんが金を渡すわけがないし、小学生の快が知らない人に会った時、桜ちゃんを守るためにその相手に賄賂として金を渡すなんてことをするとは思えない。」
ならどうやって金を騙し取る?本人から直接が無理なら間接的に取るしかない。……でも、どうやって?
「……なあ。例の【NO NAME】のメールのヒントはどうだ?」
「たぶん駄目だな」
良はそう言いながら、解読した文が書いてある紙を見せてくれた。今までのところを抜き取ると『ヘル』としか書かれていない
「ヘルって……地獄ってことか?」
「まあ、そうなるな。でも、それって相手は死人ってことになる。いくらなんでも死人を殺すなんて無理だ。」
確かに、それは無理だ。じゃあ、相手は生きていることになる。それなら『ヘル』の意味は?これまで『場所・殺し方』の順に書かれていたのに、最後は場所のみ。それもありえない場所。何か、他にも見逃しているヒントがあるのか?俺は携帯で元の文章を開いて何度も見返した
≪今、私は貴方とグラッジが2日まえ、の夜に始めて貴方にメールをしたことしか知らない人、グラッジは明日から人を殺す。が、回数は6回つ、いに最後に死ぬのは快誰か止めてこ、のは人を殺、人す、る。本、当に天、に祈る、お、父、さんお母さん救、って。病、、、院、、へ来てさ、あす、ぐに。人。ヘ、ル、≫
『、』の1つ前の文字の先頭を読み、『。』で1つの文が終わる。……駄目だ。何もヒントがない。このメールに全部が書いてあるはずだ。まだ見つけていないヒントがあるはずだ。何か……
「……良。思ったんだが、この文、最後の『ヘル』は続きがあるんじゃないか?」
ふと、そう思った
「え?」
「ほら。最後は『。』で終わっていない。」
「ああ。そのことか。俺も考えはしたが、この辺りに『ヘル』が付く場所なんてない。……というか、その名前が付く場所なんて聞いたことすらない。」
気づいてるなら言って欲しかった……。けど、確かにそんな場所は聞いたことがない。ヘル……。英語にすればあるのかもしれないが、ここまで途中から無茶苦茶な文になっても続いてきたのに、いきなり英語にするとは思えない。いくらでも無茶苦茶な文にして、日本語にするはず。ということは…………場所じゃ……ない……?ヘルの前に『人』。これはなんで『。』で囲まれてるんだ?……まさか『ヘル』って……
「良。……これ、『ヘルパー』なんじゃないか?」
「は?」
「ほら。ヘルの前に人が『。』で囲まれてる。ヘルで続く単語は人の職業を表すんじゃないか?」
「……確かに……。だけど、ヘルパーがなんで泥棒と関係があるんだ?」
「それは……」
ヘルパーは介護とほとんど同じようなもの。なら、そのヘルパーがどう関係あるんだ?…………ヘルパー。なんだ?何か引っかかる。ヘルパー。ヘルパー。……どこかにヘルパーの知り合いなんていたか?
「どうしたんだ?」
「いや……」
心配 そうに良が聞いてくるが、気にしていられない。何かを思い出しそうだ……。これを思い出せたら、俺が桜に恨まれる原因が分かるかもしれない。……でも、昔の人見知りの桜がヘルパーと関わりがあるはずがない。……そういえば。俺はあることを思い出し、両親の部屋へ行った
「おい、勝手に漁っていいのかよ」
俺はそこである物を探すために、そこらじゅうを漁った。昼が過ぎても、探し回った。そして、とうとう、奥の方から長方形の鍵がついた箱を見つけた。
「なんだ?それ」
「昔、父さんが見てたんだ。何かなって聞いてみたら、『お前は知らなくていい』って言われたんだ。見たところ何かの書類みたいだったけど、もし俺の違和感が正しかったら、この家にはヘルパーがいたと思う。」
昔から家を開けがちだったうえに心配性な両親が俺だけを置いて行くはずが無い。俺は箱を開けようと無理矢理何度も引っ張ってみた。けど、開く気配はなく、凄く頑丈に作られていた
「相当硬い作りだな。箱自体も金属で出来てるし、鍵がないと開かないようになってる。よっぽどお前に見せたくないものらしいな。」
例え父さんが見せたくないものでも、俺は見ないといけない。この中に入ってるのは見当違いのものかもしれないけど、見てみるまで可能性はある
「良。何か開ける方法はないか?」
「そう言われても……。もう、鍵をなんとか破壊するしかないだろう。」
俺は急いで小さなハンマーを持ってきた
「そんなハンマーで壊せるのか?」
「大きければいいってものじゃない。このぐらいなら外すことなく叩ける。抑えててくれ」
良は箱を抑えると、俺は鍵に向けて思いっきりハンマーを叩き付けた
≪ガン!≫
それを何度も何度も繰り返す
≪ガン!ガン!ガン!ガン!≫
しかし、一向に壊れる気配などない。どれだけ丈夫なのか分からないけど、相当丈夫なものだ。それでも何度も何度も叩きつけ、数十分後、ようやく壊れた。
「やっと開いたな。……中に何が入ってるんだ?」
俺は予想通りに入っていた何かの書類を取り上げ、見てみた
≪採用書
氏名 橘 葵
性別 女性
年齢 46歳≫
他にも電話番号や住所などが書かれていたが、俺は顔写真で思い出した
「この人……確かに俺の家に来てた……」
「何!?」
よくは覚えてないけど、確かにこの人は来ていた。家を開けがちだった両親の変わりに夕飯を作りに来てくれていた人。俺と……桜の分を作ってくれていた。
「ちょっと待て。この人がこの家のヘルパーだったことは分かったけど、なんでお前の親はこれをお前に見せたくなかったんだ?それに泥棒ってのも納得がいかない。」
そうだ。なんでこの人は泥棒なんだ?俺の家に金目の物なんてない。ヘルパーを雇えるぐらいだから、多少は金持ちの部類なんだろう。……けど、この部屋を見渡したって、金目の物なんてない。……それとも、昔はあったのか?……今は考えても仕方がないか
「とりあえず、人は分かったんだ。すぐに探そう。」
「けど、どうやって探すんだ?」
どうやって……。そういえば、なぜ父さんはこの書類を持ってるんだ?もしかして、父さんはずっと探していた?ならどうやって探し出す?
「…………この人、俺の家の近所の真田さんじゃないか?」
考え込んでいると、良がそう口にした。
「真田さん?でも、この人の苗字は橘だぞ?」
「ああ。……けど、似てるんだよ。近所付き合いとか凄くいいから、よく覚えてる。特にほら。この絵の鼻の横にあるホクロ。珍しいからよく覚えてるんだ」
見てみると、確かにホクロがある。……けど、そんな人は探せばいるし、何より名前が違う。
「……よし。ならこうしないか?今から真田さんに会いに行く。その時、後ろから『こんにちは、橘さん。俺のこと、覚えてます?』と言って、反応があれば当たりってことだ。」
そんな簡単なことで分かるのだろうか?……けど、やらないよりかはマシだな。そう決めると、俺と良は出かける準備をして、真田さんを探しに行った。真田さんは簡単に見つかり、近所の人と話をしていた。遠目からでも、真田さんは確かに橘さんに似ていた。写真より老け顔だが、8年も経っているので、本人なら写真よりは老けていて当然だ。少し見ていると、真田さんは話を終えたのか、他の人とは反対方向に歩き出した。俺たちは気づかれないように後をつけながら、周りに人がいないことを確認すると、行動に出た。
「こんにちは、橘さん」
なるべく不自然にならないように、気軽にそう声をかけた。そもそも、俺自身は成功するとは思っていなかった。……けど、真田さんの反応は予想外だった
「え!?」
その声は知られたくないことを不意打ちで知られた時のような驚いた声で、振り向いた顔は鬼でも見るかのように、恐怖に染まっていた
「あ……ああ……まさか……深峰さんの所の……」
まだ何かを勘違いしている可能性はあったけど、俺は確信した。この人は俺を知っている。
「っ!」
突如、真田さんは反転したかと思うと、走り出した。俺はその行動に驚いたが、すぐに追いかけた。真田さんの足は50代とは思えないほど速く、なかなか距離は縮まらない。それに、角を曲がるばかりするので、向こうが有利過ぎる。何度も良が先回りして捕まえようとしたが、そのたびに逃げ回り、なかなか捕まえられなかった。しかし、それもついに終わった。いくら追いつけなくても相手は50代10代の俺と良の2人で追いかけられてたら、いつかは疲れる。真田さんは諦めたように止まった。その場所は回りに誰も来ないようなビルに囲まれた場所で、2回前の事件の時に通ったような所だった。
「橘葵さんですね?」
俺は念のためにそう確認した。真田さん…もとい橘さんは観念したのか、息を荒くしながらも認めた
「…………」
しかし、ここまで来て俺は何も言葉が見つからなかった。そもそも、ヘルパーさんを見つけて何をすればいいんだ?次に殺されるのはおそらくこの人。なら、桜に殺されることを言えばいいのか?それとも、強盗の件について責めればいいのか?
「……貴女は、昔、俺の家のヘルパーさんでしたよね?」
出てきたのは確認の言葉だった。もうこの人しか昔のことを思い出す手がかりはない。まだ時間もある。なら、この人から聞けることを全部聞かないと
「……そうよ。8年前まで、貴方と天野さんの所の娘さん……確か桜ちゃん?その子の夕飯を作るために通ってたわ」
やっぱり、俺の家には8年前までヘルパーさんが来ていた。……それも、桜の分の夕飯も作っていた。
「……なら、8年前に何があったか覚えてますか?」
「別に教えてあげてもいいわ。……けど、その前に私も聞きたいことがあるわ」
「なんですか?」
「最近の殺人事件。……あれ、全部貴方がやってるの?」
なぜそんなことを聞くのだろうか?……もしかして、桜に狙われてることを知ってる?
「……いいえ、違います。犯人は桜です」
「そう……あの娘が」
「……で、教えてくれますか?」
「……ええ。いいわよ。……ところで、貴方はどこまで覚えてるの?」
「……何も知りません。」
言ってて虚しくなる。自分のことなのに、何も知らない。
「何も知らないのになんで私が分かったの?」
俺の返事は予想外だったようで、橘さんは驚いていた。俺は桜から送られたメールや桜と話したことを話した。橘さんは納得したようで、立っているのも疲れたのか、下が地面なのも気にせずに座り込んだ
「まず、最初に火事で殺された人。昨日殺された人。私は知り合いなの。残念ながら他は知らないけど。……昔ね。あるお金持ちの……そう、貴方の家に泥棒に入る計画をたてたの。」
橘さんの言う計画は簡単だった。
初めは、まず家に火を付ける。その後、金目の物を取る。火をつけるのは、子供を逃がして、見られないようにするためらしい。
……けど、たまたまヘルパーの仕事をしていた橘さんにその家からヘルパーの依頼が来た。3人は喜び、さっそく橘さんを送り込み、毎回、こっそり家から金目の物を盗ませようとした。……しかし、元々子供が好きでヘルパーになった橘さん(元の計画で子供を逃がすのはこの人の案らしい)は俺と桜……特に橘さんは小さい女の子が好きならしく、桜を気に入り、盗もうなんて気がしなくなった。だから他の2人に『金目の物はない』と言い、泥棒を止めさせようとしたが……橘さんは裏切り者とされ、他の2人だけで元の計画を実行することになった。
「……そうだったのか。……それで、その後はどうなったんですか?」
「……この先は2人の愚痴から推測することになるけど……」
橘さんの推測によると、子供を逃がす気がない2人は、火を付けずにそのまま1人が強盗に入り、1人は見張り。1人が家に入って数分後、地震が起きたらしい。凄い揺れで、地震が収まった時、橘さんの裏切りもあったせいかイライラしていた外の見張りは、まだ中に仲間がいるのも気にせずに家に火を付けたらしい。中の1人は驚いたらしいが、金目の物が見つけれてないまま出るわけにもいかず、探していたところ、男の子……つまり俺と気絶している桜にあったらしく、俺に金目の物のありかを吐かせようと近づいた瞬間、錯乱していた俺は咄嗟にその男を近くにあった包丁で刺したらしい。驚いた男は俺を振り払い逃げようとしたが、子供にそんなことされるとは思っていなかったらしく、腰を抜かしてしまったらしい。そのすぐあと、後ろで気絶していた桜が起きて、俺の体を掴んで何かを言おうとした瞬間……俺が桜を叫びながら刺したらしい。そして瓦礫に押し付け、何度も何度も刺している間に、男は今なら逃げれると思い、逃げたらしい。
「……そうだったのか……」
「その後、なんとか隠れ家から逃げた私は貴方たちが気になって家に行くと、家が燃えてたの。……そして罪滅ぼしにと家に飛び込み、2人を助けたの。」
橘さんはそう言いながら、長袖だった袖を捲くると、下には火傷の跡が続いていた。もしかしたら、全身に火傷の跡があるのかもしれない。
「……これで全部」
橘さんは満足したようにそう呟くと、ゆっくり立ち上がった
「……どうするんですか?今の話を聞いた限りだと、そこまで罪は重くないんじゃないですか?謝れば、桜も許してくれるんじゃないですか?」
今の話が本当なら、この人は命の恩人ということになる。それなら、桜だって殺さないかもしれない。
「いいえ。」
けど、橘さんの考えは違った。
「桜ちゃんはね、このことを知ってるの」
「なっ!」
「貴方と桜ちゃんが入院してる時にね、2人の親には合わせる顔がなかったけど、2人には謝らないとと思って、会いに行ったの。貴方には会えなかったけど、桜ちゃんには会えたわ。桜ちゃんに火事のことなんかを話したとき……どういう顔をしたと思う?」
……予想できなかった。昔の大人しかった桜がそのことを聞いたとき、どういう行動に出るのか。もし、今の俺の状況で聞けたら、笑って『いいえ。貴方は命の恩人です』と言えたのかもしれない。……けど、昔の信頼していたヘルパーさんに裏切られた桜の気持ちは分からなかった
「桜ちゃんはね、話したとき、放心状態……というより、本当に魂が抜けたような感じだったの。それに耐え切れなくなった私はそこから抜け出して、二度と会いには行けなかったの」
橘さんは、まるでそれを悔いるかのように言った。もし、そこで桜に何か言ったり、毎日通ったりすれば、まだマシな結果だったのだろうか?
「だから、私は桜ちゃんに殺されてもいいの。……むしろ、ずっと会ってなかったからどんな風に成長してるのか楽しみだわ。さっきは貴方から逃げてしまったけど、成長した貴方に会えたことや謝れたことが嬉しいわ。」
橘さんは笑いながらそう言った。……けど、俺は納得できなかった
「そんな!命を助けておいて、その助けた人から殺されるなんておかしいですよ!」
「快君。大人が大人を騙すのと、大人が子供を騙すのは違うの。子供は傷つきやすいの。そして、その傷はなかなか直らないもの。昔……その傷を直す努力さえしなかった私へのこれは罰なの。」
橘さんは俺にそう諭すように言うと、時計を見た。
「もうすぐ6時。そろそろ桜ちゃんはくるかしら」
そして、橘さんがそう言った直後、足音が聞こえてきた。まるで、初めからここにいることが分かっていたかのように。……いや、もしかしたら、ずっと追ってきていたのかもしれない。
「こんにちは、桜ちゃん。大きくなったね」
「こんにちは、橘さん」
笑顔で挨拶をする橘さんとは対象に、桜は冷たい目を向けた。
「こら。駄目でしょ?せっかく可愛く育ったのに、そんな無愛想な顔しちゃ。」
橘さんは叱っているのに、その顔は楽しそうだった。どんな形でも、大きくなった桜に会えたのは嬉しいのだろう
「…………もうすぐ、この無愛想な顔もなくなりますよ」
「そう。…………けど、年寄りをあんまり甘く見ないほうがいいわよ。桜ちゃんにはそんなことはできない。」
「……私には殺せないって言うんですか?」
橘さんの言葉で、桜の目が更にキツクなった。でも、さっきまでの橘さんの運動神経なら、逃げることだけならできそうなのも確か。さっきは2人で追いかけたけど、今度は桜1人。逃げられないこともない。
「そうよ。」
橘さんがそう言った瞬間、桜は飛びつこうとした。……だが、そんなことをすれば避けられるのを分かっているのか、すぐにその動作をやめた。そんななかでも橘さんは余裕そうで、桜が飛びつこうとしたにも関わらず、初めから飛びつこうとしないと分かっていたように動かなかった。
「別に桜ちゃんが私を殺せないとは言ってないわよ。」
「……どういうこと?」
「ん?それを快君の前で言っていいのかしら?」
どういうことだろうか?俺の前で言えないこと?見てみると、桜も迷っているらしく、考え込んでいた。そして出した結論は
「いえ。止めておきます。」
桜は橘さんが何を言いたいのか分かったのだろうか?
「そう。……けど、その結末はお勧めしたくないわね。世の中ハッピーエンドじゃないと。」
「……いいえ。無理矢理にでも実行します。」
「ふ~。仕方ないわね。年寄りが言えることじゃないし。3人に任せようかしら」
橘さんは諦めたようにそう言うと、「さて」と話を変えた
「桜ちゃんも暇じゃないんでしょ?さっさとやってね。……ああ。快君と良君。2人は見ない方がいいわね。子供に見せられる状況じゃあないから。」
桜もそれが分かってるのか、目でどこかへ行くよう合図している。……けど、俺は離れる前に説得したい
「桜!この人が命の恩人なのは知ってるだろ?それでも殺すのかよ!」
「知ってるよ。……けど、許せないの。結果はどうであれ、お金のために動いたことが」
「けど……!ちゃんと改心してるじゃないか!」
「失礼だとは思ったけど、さっきまでの話、全部聞いてたの。それで、橘さんが言ったように子供の頃の傷はなかなか直らないの。別に言い訳をするわけじゃないけど、殺しでもしないとこの気持ちはもう落ち着かないの。何度も何度も殺そうと思って、私が出てきて。そのたびにいろいろな方法で落ち着かせてきた。……けど、もう無理なの。殺したい人が全員この町に集まった状況。殺せる状況」
桜が今までどれだけ我慢してきたかは分からないけど、無表情から諦めたような目で俺を見てくる顔からは、それまでの苦労がよく分かった。
「だからごめんね」
桜はそう言うと、橘さんに近づいていく。
「快君。良君。早くここから離れなさい。子供が見るには過激すぎるから」
やっぱり橘さんは笑いながらそう言った。俺も良もその忠告に従い、橘さんに背を向けて、走った。何分経っても後ろから悲鳴なんて聞こえなかったけど、おそらく桜は橘さんを殺しただろう。