惨殺
朝起きると良が下で寝ていた。聞いた話では、良はいつも早起きらしく、俺が起きる頃にはもう起きてると思っていた。俺はとりあえず、良を起こさないように移動し、私服を取り出し、部屋を抜け出した。別に男同士なので気にすることはないのだろうけど、とりあえず着替え中を良に見られるのは嫌だ。良の方も、俺の着替えなど見たくないだろう。と、いうわけで、1階で着替えを済ませた後、何か良のために朝食を用意しようと冷蔵庫を開けたが
「……見事に何も無いな」
肉や魚はあるものの、料理はできない。すぐに食べられるものは数日前に食べた。
「……仕方がない。良自身に作ってもらうか」
正直、客である良に料理をさせるのはどうかと思ったが、食べるのは良だけだし、相手は良なのでいいかとも思えた。
良は9時ごろになると起きてきた。もし授業に出るつもりだったのなら、普通に遅刻だ。
「良、起きたばかりで悪いんだが、すぐに食べられる物がないんだ。もし何か食べるんだったら、肉や魚があるから、自分で調理してくれないか?」
「ん……?いや……いい……。俺は朝食べないから……」
良が昨日の夜以上に眠そうな感じで返事をしてくる。なんだか新鮮だ。いつもシャキッとというか、元気な感じなのに……。それに、良が朝ごはんを食べないのも驚きだ。そう思っていると、良は俺が何を考えているのか分かったのか、答えてきた
「いや……。俺の両親が朝弱くて、妹が作ってたんだけど、それが不味くてな……。」
俺個人としては、どれだけ不味い料理なのかを食べてみたい気がしたが、口には出さないでおいた。
「じゃあ、もう少し目が覚めるまで待って、それから今日のことを考えよう」
それから30分ほどボーとした後、今日のことについて考え始めた。しかし、いくら考えてもいい案はでない。2人目と3人目。どちらもハズレではない気がするし、どちらもハズレの気もする。いくら考えても分からず、ついにそろそろ決めないといけない時間になった
「……仕方ない。もう、快が言ったように3人目に的を絞ろう」
これ以上考えても無駄だと考え、良はそう言った。俺も当然それには賛成で、すぐに家を出て病院へ向かった。……しかし、病院に着いてその人のことを聞いたとき、予想外のことが起きた。
「その患者さんなら、数時間前に退院したわよ?」
俺と良は一瞬顔を見合わせた後、良はすぐに走り出した。俺も驚いたが、すぐに良を追った。後ろから看護婦さんに走るなと言われたが、俺と良はかまわず走った。
「どうしたんだ、良!?」
「殺す場所は病院だ。だから、まだこの中にいるはずだ。2手に別れて探そう。全身に火傷の傷がある中年男」
「分かった。」
病院内を走り続けた。エレベーターなど使わずに1階から屋上まで、階段を上がったり降りたり。フラフラおぼつかない足取りの老人。骨折して松葉杖を使う青年。ベットで寝る女性。いろいろな人がいる。……けど、全身に火傷の跡がある中年の人なんて見当たらない。
「いたか!?」
一通り全部を見て回った後、良を見つけて話しかけた。その間も探すのをやめない。
「いや、いない!全部見たはずなんだが……」
俺自身も全部見たと思う。意図的に隠れているなら別だが、そうでないなら見つかるはずだ。他に探していない場所なんてない。
「!快、病院の外……周りの森は調べたか?」
「いや、まだだけど、そんな場所にいるのか!?起こすのは病院だぞ!?」
「周りの森も病院の敷地内だ。可能性はある。」
「わかった。今から行こう」
他に探す場所もなく、とりあえず病院を出て森に入った。逸れたら不味いので一緒に探し、どんどん森を進んでいく。時間がもうない。もうすぐ時間が来る。そんなとき、声が聞こえた
「ギャァァァァァ!」
「っ!悲鳴!?まだ時間はきてないはずだぞ!?」
俺は時間を確認してみると、良の言ったとおりまだ時間は数分ある。この時計は正確なはずだから、間違いはない。
「くっ!急ぐぞ!」
良は更にスピードを上げ、声の方へ走っていった。そして、だんだんと森が開けていき、その先に桜がいるのが見えた
「桜!」
その場所には、木で見えなかったが、桜の視線の先には全身を火傷した中年男性がいて、背中から血が出ていた。そして、桜の手に持っている包丁には血が付いていた
「……来たの」
桜は少し俺たちの方を見た後、またすぐ後に痛さで呻いている男に目を向けた。
「た、助けてくれ!殺される!」
男は立ち上がることも出来ず、ビクビク震えながら俺たちにそう懇願した。けど、俺たち自身も動けなかった。今の桜が、あまりにも怖すぎた。前までの桜はまだ情けとかそういう感情が少しは見えた。……けど、今の桜には何も見えない。ただ自分の腕時計を見て、無表情に時間が来るのを待っている。おそらく、さっき刺したのは何か不都合なことをこの男がしようとしたから。そして、あと1分もすれば、桜は俺たちの前でも容赦なくこの男を刺す
「桜やめろ!この男が何をしたか知らないけど、もう昔のことだろ!?警察に引き渡して、そこで罪を償わせろよ!」
「快は黙ってて。」
俺の言葉に桜はそう答えた。昔の……俺の知っている桜なら絶対にだせないような、……もし自分が殺される対象なら、これから死ぬんだと思えるほどの威圧感と一緒に……そう答えた
「でも……そうだね。もう初めの予定を話すけど、私、初めは何度も何度も死なないようにこの男を刺して、苦しませた挙句に殺すつもりだったけど……快がいるからね。もし貴方が私に何をしたのか覚えてたら、一刺しで殺した挙げる。」
「なっ!」
結局、桜はこの男を殺すのをやめるなんて考えはなく、淡々とそう言った。
「覚えてる?貴方が私に……私たちに何をしたのか」
「は……え……あ……」
「あと30秒あげる」
男は意味が分からず、ただ驚くだけだが、桜はそんなことにかまわず、時計で30秒を測り始めた。その間も男はようやく自分がどうなるか理解したのか、一生懸命思い出し始めた。
「30秒」
しかし、男は何も思い出せないまま、30秒が過ぎた。男はその言葉を聞いた瞬間には立ち上がり、桜とは反対方向へ走り出した。しかし、桜は慌てることなどせずに、その手に持っていた包丁を……投げた。その包丁はまるで吸い込まれるように男の背中に向かっていき、ごく自然に、当たり前であるかのように刺さり、男は突然の痛みに呻きながら倒れた。
「ね、快。彼は自分が何をしたのかすら覚えてないの。」
普段の桜なら確実におびえているであろう状況の男を前に、桜は既に分かりきっていたように、無表情にそう言った。桜はそのまま男に近づくと背中から包丁を抜き、また刺した。そして抜き、また刺す。それを何度も繰り返した。俺と良は呆然と見ているしかできず、桜が立ち上がった頃には既に数分前から呻き声すらでず、人でさえないような声を出していた人が転がっていた。桜は最後の止めのように立った状態から首に包丁を落とし男の首に包丁を刺した
「じゃあね」
そして桜は終わると、俺たちの方へ歩いてきて、俺の横を通るときにそれだけを言って、歩いて行ってしまった。俺たちはそこで起こったことが現実離れしていて、少しの間動けなかった。分かっていたことなのに、『今まで知っていた桜が容赦なく人を殺す』その現場を見たか見てないかの差なのに、震えが止まらなかった。あと一回。その後には自分もああなるかもしれない。初めは助けてと叫び、次第に意味のない叫びに変わって、その後には人でさえないような叫びに変わり、殺される。今、目の前にいる首に包丁が刺さった男のように……
「大丈夫か?快。」
心配した良にそう声をかけられたが、返事ができなかった。今口を開けば吐いてしまいそうだった。俺は口を押さえながら、ゆっくりと男に背中を向けて、病院の方へ歩き出した。良も後から付いてきたが、結局喋れるようになったのは2時間後だった。




