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6)脳筋令嬢と壁の花

 旦那様はダンスが苦手らしく、一度も踊っている姿を見たことが無い。

 むしろ皆がダンス中は必死にオーラを消そうとしているようにすら見えた。


 今も口を閉ざし、腕組みして壁と同化しようとしている。いや、出来てませんからね?

 推しの神々しさは隠せてませんからね?


 目立つのが嫌なのだろうか……? 考えてもわからんので本人に聞いた。


「踊らないんですか?」

「……」

「踊らないんすか?」

「……」

「踊らないんでゲスか?」

 そこで旦那様がキッと此方を見た。


「なんで、だんだん下品になってゆくんだ!」

「何か答えてくれないと、どんどんゲスモブになる仕様でヤンス」


 そこで旦那様は渋々、教えてくれた。


「……ダンスは苦手なんだ。学院でも成績が悪かった」


 あ、普通に苦手な人だったわ。


(う~ん……。それなら……)


 私は一つの案を思いついた。

 めっちゃ怒られる可能性もあるけど……。


 でも、推しが尊いってのは、皆に知ってほしい!


 そこで私は旦那様の手を取った。

 そして会場へ引っ張り出す。


「私に全部任せて、力を抜いてください!」

「な……!?」


 驚いてよろける旦那様に私は華麗にターンして、まるで旦那様がリードして情熱的に踊っているように見せかける。

 更にドレスの裾を踏みかけた旦那様の足を素早く避け、見えないように旦那様の足をスカートの下から調整して紳士的に足さばきしているようにして見せた。


 周りで踊っていた男女から歓声が上がる。


 何を隠そう、私のダンスの成績は特A!


 語学とか数学は壊滅的だったけど、体育は得意なのよ!

 脳筋令嬢とよばれてたくらいですもんね!(誇れない)

 体格差がある旦那様のリードだって、楽勝楽勝♪


 そうして旦那様を『リードしているように見せる』ことなんて簡単なのだ。

 旦那様は脚も長くてスタイルが良いので、ダンスが更に映える映える!


 いつしか宴の間では私と旦那様の独壇場になっていた。

 ターンで拍手が起こり、うっとり見惚れている令嬢もいる。おい、私の旦那様だぞ。


 そうしてダンスを終えた時、会場中に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 紳士淑女が噂する。


「誰だ、公爵が踊れないなんて言っていた奴は」

「素晴らしかったですわ!」

「なんて情熱的で美しいダンスなんだ!」

「次はわたしと!」


 ダンスの申し込みが私にも旦那様にも殺到したけど、私は旦那様の腕を組む。


「申し訳ありません♥旦那様は私以外の女性とは踊りませんの。オホホホホホ」


 正確には「踊れません」だけど、まぁ、間違っちゃいない。

 周りは「今度の奥方様は相性が良いんだ」と思ってくれたみたい。せやろ?


 では旦那様の代わりに、この私と踊りましょうか~……と、ダンスの誘いにのろうとする。

 他の男性の手をとろうとしたら、旦那様に肩をぐいっと抱き寄せられた。


(え……?)


 口下手な旦那様だから上手く言えないみたいだけど、旦那様が一睨みしただけで、私に群がってた男性陣は蜘蛛の子を散らすみたいに去って行った。


 私が旦那様を見上げると、顔を赤くして(耳まで)ぼそぼそと呟く。


「……悪い気は、しなかった」

「!」

「ただし、もう1度やれと言われれば、御免だがな」


 そう言いながら、灰色の髪を揺らして壁へと戻ってゆく。

 そして、指でちょいちょいと自分の横を示した。


 どういう意味か、はかりかねてると「……此処に居ろ」と言われた。


「君は目を離すと何をしでかすかわからないからな」

「キャ♥うれしーい♥」

「褒めてないぞ!」


 こうして初の舞踏会は大成功で終わったのだった。

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