9節 宰相のお仕事 其の二 ⑥
「……こいつぁ、かなりカオスだな」
廊下の至る所で戦闘が繰り広げられている。とはいえ地下は広いので、廊下も上階の広間くらいの幅はあり、戦闘するだけの余裕はあるのだが。敵と味方が混在し、周囲や敵の被害を抑えねばならず、強力な攻撃ができない。上級・中級はまだしも、下級魔族は対応に手を焼いているようだ。
鎮圧対象は一体一体の戦闘力は低そうだが、なにしろ数が多く、ゾンビも人型の弱いものから魔族や魔獣素体らしき強力なものまで様々。ただし共通しているのは、下級のものであるということ。上級アンデッドは知能を備えており、術者に操られなくとも活動できる。エリゴスがいい例だ。
さて、エイジはざっと見回し戦況を確認。そして、ここには本来ノクトが来る筈だったことを思い出して__
「宰相エイジ、幹部ノクトに代わり只今参った! ここからは私が指揮を執る‼︎」
声を張り上げ自身に注意を向けさせ、幹部の代わりを伝えて説得とする。
「正面を開けろ! ここは私が一人でやる‼︎ 諸君らは他での戦闘に加勢しろ! その際は仕切り直させ、一対多にさせないのを忘れるな‼︎」
指示を出すと、矢と魔術を数発撃って退却の援護をする。魔族達が退いていくのとすれ違うようにゆっくりと歩を進め、敵地の中央に立つ。そして__
「一対多になるなと言った手前アレだが……まあこれで、心置きなく戦える!」
人差し指を前に向ける。指の腹からはレーザーサイトの如く赤い光線が出ており、それで狙いを定めると__
「くらえ、バーン!」
ビームが撃たれ、アンデッドの頭部を貫いた。しかし威力が余り、後ろの壁が少し焦げついてしまった。
「少し威力高かったが……ま、こんなものか」
素早く狙いをつけ、二秒に一発のペースでやや遠めにいるアンデッド達から貫いていく。
「悪いなノクト、ここは要所だ、殲滅させてもらうぞ」
そんな風に正当化しながらも、内心は憂さ晴らしに暴れられるとウキウキ。戦いを楽しむ気満々であった。
短剣を呼び出し、指に挟んで聖属性の魔力を充填する。そしてそれを投擲、せずに一度仕舞ってから、再召喚して飛ばす。短剣投げはまだ練習中なのだ。短剣は狙い易い腹部に放ったが、直撃すると同時にアンデッドの全身を光が包み、ジュッという焼けるような音がすると消滅、若しくは只の死体と化した。
「へえ、素体無くってもゾンビって作れるんだ」
聖属性の効力を確認したところで、アロンダイトを召喚。暫くは魔力を流し、刀身が仄かに光を放ちだしたところで漸く動き出す。軽やかに舞うように辺りのアンデッドを斬りつけていくが、刀身に高密度に凝縮された聖属性は、掠っただけでアンデッドを灰に変えていく。そして、エイジ到着からものの四分で__
「ふぅ……よし、アンデッド掃除完了」
あれだけ魔族たちが苦戦していたものを、容易く総て片付けてしまった。武器を仕舞い、外套を軽く叩いて埃を落とす。
「さて、次はゴーレムか」
ゴーレムは石、粘土、鉱物と様々な素材でできていた。粘土製はのっぺり、石製金属製は岩が組み合わさったような見た目である。パーツはわりかし人型に近い。顔には穴が空いていて、その奥が様々な色に光っている。それ以外の目立った特徴は、無し。
「さてと、どう倒すか」
ゴーレムはアンデッドと違い、属性のような明確な弱点は無い。切り落とすことは容易だが、エイジの得意技である投擲は刺突になるため効きが悪く、魔術も無機物であるため単純な破壊力でゴリ押すしかない……と考えたところで__
「あれ……敵が無機物?」
そんな状況は滅多にないため、これまで考えてこなかったが、ある能力が使えるのではないかと思いつく。
「……試してみますか」
目の前のゴーレムの脇を潜って裏に高速で回り込み、背面に張り付く。そして__
「物体変形能力発動!」
能力を使う。すると、触れているものの構造が頭に入ってくる。
これもまた効果の一つ。変形させるだけでなく、物の構造が分かり、その組成もなんとなく分かる。範囲は触れている物単体(一体のゴーレム、一本の剣)、若しくは触れているところから一定の範囲(壁や巨大な構造物など)。有機物(特にタンパク質)は組成が複雑で変形もしにくいため能力は効かないが。
「ほほう? 心臓の辺りにコアか」
構造を把握したことで狙うべき場所が分かった。序でに別のことも試してみる。
「成程、魔力で動いてるだけあって普通より抵抗力があるか」
やや苦戦しつつも関節あたりを弄って、動けなくさせてみた。
「うん、これが機械だったらもっと通じただろうなあ。回路や歯車めちゃくちゃにしてやったり。まあいいか、とりあえずコアを破壊していこう」
分析を終えると飛び降り、先程と同じ要領でビームを撃ち、ゴーレム達のコアを射抜いていく。時折貫手も交えながら。色々と実験的なことをしていた所為で時間は掛かったが、実際の戦闘時間は十分もなかっただろう。特にダメージを負ったりなどの苦労もなく、楽々と一掃できたので、気持ちよく戦えた。
「さて、殲滅完了。他の援護に向かうか」
広い廊下での殲滅が終わったエイジは、再度周りを確認し本当に片付いたか確認すると走り出した。
隣のエリアでの戦闘を確認すると、右手にアロンダイトを持ってアンデッドを斬りつけ、左手人差し指から光線を撃ってゴーレムを沈黙させる。余裕があったら破壊でなく拘束に止めておき、魔族達への指示も忘れず与える。
一帯が終わると次のエリアへ、壁を蹴って魔族の頭上を飛び越えながら進む。苦戦しているところを確認すると割って入り瞬殺、危ない時は抱えて大きく後退、怪我している者がいたら回復魔術をかける。廊下、広間、そして保管室内を縦横無尽に駆け巡り、斬って撃って助けていく。幾つかのエリアで活動すると、再び元の場所に戻って敵が来ていないか確認し、負傷した者や疲労した者の誘導を行う。
そして、それを数度繰り返していると__
「悪いな、待たせた!」
「レイヴン……増援か。まったく、随分と遅かったじゃないか」
総司令によって統率された、正規の戦闘員魔族達による増援が到着した。
その後は、レイヴン指揮下の魔族達によってアンデッド並びにゴーレムの制圧と先行隊の救援がなされ、それに遅れること二十分、それら全てが途端に活動を停止した。
「止まった……ふう、終わったか」
「ああ、その様だ。ご苦労だったな」
「はいはい、ホントご苦労ですよーだ……」
敵性体の完全沈黙が確認されると、エイジはつい座り込んで悪態を吐き始めた。
「どうだい? 止まったかな?」
そこにノクトがひょっこり現れる。
「ああ、止まったようだ。んで、こうなった原因は分かったか?」
「指揮系統に改竄がされていたんだ。というより、破壊といった方が合ってるかな。で、それをプログラムし直していたから時間掛かっちゃって。でも、一つ言えることは、明らかに人の手が加えられていたということ。つまりこれは、人為的に引き起こされた事件だよ」
「……そうか。ところで外は?」
「エリゴスとエレンが向かったよ。城内程の混乱はないし、二人とも強くて統率力あるから問題ないはず」
「分かった……昼になったら、オレが原因究明に乗り出そう。その時に報告が欲しいから、夜のうちに被害の調査を行なっておいて欲しい。取り敢えず今は、少し休ませてくれ」
「うん、おつかれさま〜」
「後処理は俺達でやっておく。おやすみ、エイジ」
二人の労い、そして魔族達の感謝の声を背に、彼は寝室へと戻っていった。




