5節 エイジの肉体改造計画 ③
「さて、試してみるか」
鏡の前に立つエイジは、そう意気込むと目を瞑り、集中する。手術が終わった後、彼は自室に戻ってきていた。種族の力を使い慣らす練習のために。
二十秒、瞑想が終わり彼が目を開けると、彼の体から翼や尻尾などといったものは、全て消失していた。
「よし、読み通り。成功だ。これなら少しずつ馴染ませていける」
彼が発動したのは制御能力。それで種族としての能力を封印したのだ。それと同時に、さっきまで感じていた違和感や苦痛がキレイに消えた。もっと早くにやっていれば、術後の苦しみも和らいだかもしれないが、ハッキリ言ってそこまで考えが至らないというか、思いついても出来ない程に辛かった。
「目の色は……戻らないか」
手術前までは黒かった彼の目。その後右目は紅く、左目は紫になったが、魔族の要素を封印し魔眼も封印しても、目の色が戻ることはなかった。
「まあ、いいか。さて、鍛錬は……よし、明日からやるか」
手術が終わった頃には、日が暮れかかっていた。それに施術直後で、体に強い負荷がかかったばかり。今酷使すれば体を壊すことになると踏んだエイジは、身体的特徴が顕れない程度に封印を解放して寝ることにした。少ない負荷で体を馴染ませるためだ。完全に封印していては、適合は進まない。
「さてと……じゃあ、やっかぁ!」
頬を叩き気合を入れる。施術の翌日朝、エイジは鍛錬場にいた。服装はいつものから、外套だけ省いたもの。彼の服は魔力を通すと形状を変化させられる。そのため尻尾や翼を生やす際変形させて穴を作るので、いちいち脱いだり服をダメにしたりすることはない。
そして鍛錬場にはやや似つかわしくない物、エイジの自室の鏡があった。鏡を見て確認しながら行うのだが、加減を間違えると部屋が傷つく可能性もあるので、自室でやろうとは思えなかった。因みに、今日の鍛錬場に人気はない。
「まずは、発現と制御訓練だな」
昨日やったのは、纏めて発現率を調整しただけだ。今日は個別に発現できるよう訓練する。特殊能力を扱うのはそれから。
彼がその身に宿す種族の力は、聞かされているだけでも悪魔、吸血鬼、夢魔、飛竜、イヌ・ネコ科獣人、そして堕天使だ。これ以外にもサプライズで入れておいた、とも聞かされている。そんなことで苦痛が増したのだから、堪ったもんじゃないが。兎も角、この種族を一つずつ、時には同時に発現出来るようにしなくてはならない。
鍛錬開始より、最初のうちは困難を極めた。あれが出たらこれも出る。これを封じれば別も縛られる。必死に集中することで、やっと一種だけの解放ができるようになった。
「ふう、やっとできた……え、もう二時間⁉︎」
休み休みとはいえ、完璧に一つの種族を解放するだけで、こんなにも時間が経っている。
「こりゃ、今日はこれだけしかできないな……間に合うか?」
統括部の休暇は六日間。初日は休み、二日目に手術をしたので、期限は今日を含めて四日間しかない。それが明ければまた仕事が忙しくなり、鍛錬に集中していられなくなってしまう。
エイジは自身の手に目を落とし、握っては開き、また握って開く。
「……なんとなく、わかってはきたかな」
深く息を吐いて、目を瞑る。開いて鏡を確認すると、堕天使の羽と悪魔の尻尾が。再びやると今度は角とネコ尻尾が。しかし次は、鋭い牙だけが生え他は発現しなかった。また試すと、ケモミミと皮膜の翼、だが今度は、堕天使の羽のみとなる。
「成功率は間違いなく上がっているな」
一時間前の成功率は一割、今は四割。着実に成長しているが、十割にしなければならない。それに身体の変化を抑えたまま完全解放したり、0か1ではなく中途に解放したりと、制御一つとっても出来るようになるべきことは山積みで。更にここから、特殊能力の扱いも物にしなくてはならないのだ。
「ふう、少し疲れたな。仮眠を取ろう」
今はお昼前。軽い昼寝には丁度いい。鏡を収納すると、自室に戻って行った。
「起きてくださいませ、ご主人様!」
「い、一時間半、経ちましたよ……!」
「ん、ううん………もうそんなに経ったのか……」
双子メイドのフィリシアとフェルトに起こされ、呻きながら起き上がるエイジ。寝過ぎてはならないと思い、二人に目覚ましを頼んでおいたのである。
「すまないな……寝起き悪くって」
伸びをして、大欠伸しながら二人に感謝するエイジ。
「あの、ご主人様は今休暇中のはずですが、午前は何をされていたんですか?」
「ちょっと鍛錬をな。ああそうだ、見せてあげよう。そこに立ってて」
双子の間に鏡を置くと、それと対面するように立ち、集中する。そして__
「いくよ。ハッ!」
エイジが気合を入れると同時に、堕天使の羽がバッと広がり、頭上に崩れかけの輪っかが浮く。
「次は、こうっ!」
羽と輪が引っ込んだと思うと、次はケモミミと尻尾が生える。双子は呆気にとられていた。
「そして、こうだ!」
飛竜の翼、側頭部の角、悪魔の尾に、吸血鬼の牙が生える。
「す……すごい、です……!」
この変化に双子は目を丸くして驚いていたが、
「あ、あれ……? できちゃった?」
エイジも驚いていた。今、完全に思った通りの発現ができたのだ。
「やっぱり、休憩って大事なんだねぇ……」
感嘆した後、少し考え、午後の鍛錬に向けて動き出した。




