7節 関門たる試練 ②
円卓の部屋にて__
「……ということがあったのです。まっことたまげましたなぁ、ハッハッハ!」
エリゴスが、ベリアルに事の顛末を説明した。
「ふむ、本気のエリゴスから一本取るとは大したものだな……さて、エイジよ。そろそろ頃合いであろう。お前の秘密、その不思議な力についてを、話してほしい」
__遂にこの時が来たか。あまり手の内は明かしたくないんだが__
「はい、承知しました」
信用を得るためには仕方ない。隠し通せるものではないし、使わなければ宝の持ち腐れ。
エイジは一呼吸おいて頭を整理し、話し始める。
「ですが、私がこの世界に来た経緯、まだ説明していなかったですよね」
エイジが話し始めたことで、注目される。
「互いに信頼関係もできてきたので、もうそろそろ明かしたいと思います。この説明をしないと能力についてうまく話せないので、まず話させてください」
__さあ、オレの能力を知ったら、彼らの表情がどうなるか。見物だなぁ__
内心ワクワクしながら、エイジは種明かしを始める。
「私はこの世界に来る前、自身を神の遣いである天使だと名乗る、姿の隠蔽された正体不明の存在と接触しました。つまり、元の世界から直接来たのではなく、その者が言うには天界を経由しました。ですが、ご安心下さい。彼らと接触したのはその時だけで、今は関係ありませんし、あなた方と敵対せよとも言われておらず、自由にしてよいとのことでしたので」
信用七割、疑い三割といった視線だ。まあ実際、幾らか虚偽が交えられているが。
「その時に天使から、この世界にそのまま行くのは可哀想だ、という理由で、転移前に力を授けようと言われまして、その時に私は幾らか能力を得ました」
「……その天使を名乗る者は、どうやら我々の知る種族としての天使とは違うようだな。とはいえ、その件の詳細については後で聞くとしよう。今最も知りたいのは、能力についてだ」
愈々(いよいよ)能力の話だ。今迄の話もとても興味深いが、今一番知りたいことになる。幹部達は喉を鳴らした。
「では、まず一つ目。それは、『全ての体系立った言語に対する知識の理解、及び自動翻訳』。話し言葉にも書き言葉にも対応します。本来私とあなた方が話す言語、読み書きする言語は違うのですが、難なく話せるようになったのはこの能力のおかげですね。頑張れば動物や、人より知性の劣っている魔族達とも、言語の概念さえあれば会話できるかもです」
この能力が無ければ、まず魔族語を学ぶ必要があり、この世界について等を直ぐには理解できなかっただろう。それ以前に、転移直後にレイヴンに殺されていたかもしれない。
「そして二つ目、『自身の所有物を召喚、及び収納する能力』です。自身の所有物を私専用の亜空間に収納したり、それを手元に喚び寄せたりできる能力です。喚び出す時には、亜空間の孔を開けて、そこから取り出します。若しくは孔を開けずとも、直接取り出すことも可能です。更に、手元に喚び出すだけでなく周囲に展開し、能力で指向性を与えて飛ばして、間合いに関係なく直接攻撃することもできるのです。更に、一度ここに収納した物は、余程遠くにない限り離れた所にあっても回収できます。飛ばした武器は、これで回収していますね」
「それが、先ほど披露した能力なのだな。ならば、今までの方針にも合点がいく。多くの武器を扱わんとしたのは、この能力があるからこそ。瞬時に武器を交換することで、不意打ちは勿論、有利な武器種に切り替えて戦える。その特徴を最大限活かした形が、あの戦法であると」
「ほほう。ところで、弱点はあるのか?」
__うっ、言いたくないな。だが信用を得る為だ、仕方ない……__
「ええ、当然ありますとも。まず、使用する度に魔力を消費しますね。更に、検証していないからまだ分かりませんが、生物は収納できません。収納したら多分ですが死にます。恐らくですが、亜空間は生物の生きられる領域ではないかと。怖いので実験したくはないですし、入れる気もありませんが。ただ、有機物がダメというわけでもないようです。食品を収納することができましたから。そして、重要なのが『自身の所有物』という点です。自分の魔力を流し込む、元い私専用の特殊な印をつけたり、暫く持ち歩いたりすることで、それは私のものとなります。つまり、収納するまでには手間や時間が掛かります。なので、他人の物を奪うことはできません。例えば一人の人間に長期間使い込まれたり、他人の魔力が強く残っているような物は、物自体が拒むので、これも収納不可ですね。実はこっそりエリゴスさんの剣で試してみてわかった事です。印を刻もうとしても、直ぐに掻き消されました。まあでも、この能力があれば、兵站の面に於いて大きなアドバンテージになるかと」
更にこの能力、亜空間について念じる(考える)と、中に何が収容されているか分かる。何を入れたか忘れたり、何を取り出そうかと迷うこともあまりない。容量はほぼ無限だが、念じることで亜空間の大きさを変えることができ、仕切りを作って分類することもできる。端的にいえば、ゲームの持ち物欄のような感じだ。エイジは整理が大好きだから、こういうのとても助かっている。
「もう驚いておられる様ですが、こんなの序の口ですよ。三つ目は強大な魔力です。具体例を出さなかったので、詳しい総量は分かっていません。今使えているのは、ほんの一部です。そして、そんな強大な魔力を制御するために四つ目の能力、『自己封印・制限能力』です。これにより、出力の調整が容易く行えます」
どよめきが広がる。それが収まるのを待ってから、口を開く。
「そして、これが最も重要な能力、『千里眼』です。この能力があれば、現在世界で起こっていることの全てを見通し、未来すら予測可能です」
この場にいる全員が、あり得ないモノを見たかのように凍りついた。
「な、そんなの無敵ではないか‼︎」
流石の魔王様すら声を荒げる。
「しかし、残念ながら今の私には扱えません。何となく使い方が分かっただけで、現在視は精々遠見の魔術、未来視に至っては全く発動条件がわかりません。少し前に紛れで発動しましたが、望んだ通りの時間や出来事を見ることはできませんし、意識的に発動したら、中々の魔力を持っていかれました。しかも、前回任意発動した千里眼で見えたのはたった数秒先。身に付けるには相当時間が掛かりそうですね」
「そ、そうか……それは少し残念であるが、安心もしたな」
「これで以上です。どれもとても有用なのは間違いないですし。千里眼はいざってときのとっておきなので、あってないようなものと思って下さい」
彼が隠している能力はまだあるが、言いたくないのと、使い方がまだよく分からないとで言う気はないようだ。千里眼だけ明かしておけば十分信頼されるだろう、一番の強みを曝け出したのだから、と判断してのこと。
__まあ、他のは気が向いたら明かそうか。そしていずれ、全ての能力を十全に扱えるようにしなければね__
「成程、辻褄は合う。一先ず、お前の話は信じることとしよう。では、次に与える試練で以ってお前の能力を測り、その結果次第でお前を信頼し、宰相の座に就く者に値するかを決めよう。エリゴス、彼はもう実戦に出られるかな?」
「おう、十分過ぎる程ですなぁ」
「ふむ、エリゴスのお墨付きがあれば問題ないだろう。ではエイジよ、勅命を下す。明日より我らの前線拠点に赴き、戦果を上げて見せよ! 然すれば汝を宰相と認め、執政を任じよう。急なことで悪いがな」
魔王様直々の命令である。どうやらそれ次第で、本当にエイジを認めるようだ。
「喜んで拝命いたします、陛下」




