バカバッカ
なんか、予約投稿をミスってたみたいです
連続投稿 1/4
「ふーん。結局、召喚者がここに来るのを止められなかった訳か」
「……返す言葉も御座いません」
今、俺の目の前でワイマールの王女サマが土下座している。
王女サマだけでなく、お付きの人間全員がだ。
こうやって土下座されるとよく分かる。
土下座って、謝罪の押し売りだよな。
こういうことされると、普通の人間だったら許さざるを得ない。
普通なら。
「はっ、大概無能だな」
「!!」
俺のその言葉に、王女サマはビクリと身体を強張らせるが、一緒に土下座している人間のうち、騎士たちが土を握りしめるのが分かった。
「おいおい王女サマ、アンタの番犬、躾がなってねえぞ? 今にも俺に噛みついてきそうだ」
「なっ!? 止めろお前たち!! 絶対に逆らってはならん!!」
「ぐっ……は、はは!」
俺が騎士の行動を王女サマに教えてやると、王女サマは大慌てで騎士を止めてきた。
そんなに俺が怖いのかね?
「はぁ……で?」
「え?」
「なんでその召喚者一行を素通りさせたんだ? 俺はそもそもここに来させんなって言ったよな? それが蓋を開けてみれは素通りだ。そのくせこうして謝罪には来る。一体なにがしてえの?」
アドモスとワイマールは国境を接している隣国同士。
この森がワイマールの領土内にある以上、召喚者はアドモス国内に入国しないといけない。
アドモスとワイマールは先日戦争をしたばかり。
そんな中で召喚者が密入国なんてしたら、新たな火種になりかねない。
つまり、召喚者がここに来るということは、ワイマール国内に正式に入国したということだ。
「国境の警備兵に通達してなかったのかよ?」
「そ、それは間違いなく通達しておりました! しかし……その召喚者は、国境警備兵の目の前でその力を振るい、それに臆してしまった警備兵が彼らを通してしまったのです……」
なんとまあ。
力を見せつけて相手をビビらせるとか、魔族との戦争に駆り出されたって聞いたから実戦経験を積んだとは思っていたけど、思った以上に図太くなってやがんな。
それはともかく……。
「とんだ腰抜け兵だな」
「っ! か、返す言葉も御座いません……」
さっきからそればっかりだな。
「まあ、一般人に召喚者の相手しろってのも酷な話か。それで? そのまま召喚者が国を縦断するのを手をこまねいて見てただけか?」
「い、いえ! 召喚者一行が我が国内に入国したとの報告を受けたあと、急いで召喚者一行のもとに向かい説得を試みました! 我々は貴方様の支配下におかれたわけではないと! なのですぐに引き返して欲しいと! そう懇願したのです! しかしナラ殿……あ、此度の召喚者の名前ですが、ナラ殿は聞く耳を持って頂けず、逆に私たちを貴方様から解放してやると仰って……」
王女サマの話を聞いて、俺は思わず顔に手を当てて天を仰いでしまった。
「アンタさ……その、ナラ君? にどう言って説得したんだ?」
「え? えっと、我々は、マヤ殿の支配下に置かれているわけではないと。彼の方は世間で言われているような極悪人ではないので、即刻国に引き返して欲しいと、そう頼みました」
うわぁ、予想通りだぁ。
「うん。そう言われた方はさ、どう思う?」
「どう、とは?」
「俺のことを『彼の方』とか言っちゃってるじゃん。それで支配下に置かれてないと思う方が無理があんじゃね?」
「……あ」
「もうやだこの世界……馬鹿ばっかかよ……」
本当に馬鹿ばっかりで泣きたくなってきた。
「も、申し訳ございません……完全に無意識でございました……」
「はぁ、もういいよ。で、そのナラ君はアンタたちが俺に支配されてると思い込んでて、それを解放しにここに来るわけね」
「そ、そうなってしまいました……」
まあ、実力行使をしたところで、実戦経験を積んだナラ君たちを止められねえだろうし、もしそうしていたらワイマールが俺の支配下に置かれているという話に信憑性が出てしまうだろうし、また戦争になりかねない。
まあ、元々召喚者をここに来させんなっていうのはコイツらに対する嫌がらせみたいなもんだしな。
ここらで許してやるとするか。
「それにしても、正義のミカタ気取り君かナラ君は。面倒臭えなあ」
そう言ったところで、俺はあることに気付いた。
「ん? そういや、今回の召喚者ってもう一人いるんだよな? そいつの名前は?」
俺がそう訊ねると、王女サマはフルフルと首を横に振った。
「それが……どうやら今回は同行していないようなのです」
「同行してない? 二人揃ってる方が勝率高いだろ。なに考えてんだ?」
「も、申し訳御座いません。私には分かりかねます」
あー、なんか自分が責められてると思ってんなこれ。
「別にアンタのことを責めてるわけじゃねえよ。そもそも、他国のそんな事情知る術もねえだろ」
「は、はは。寛大なお言葉、痛み入ります」
……いや、王女サマさあ……。
はぁ、まあいいや。
「ともかく、一度そのナラ君と話してみるか。森の入口の警備兵にナラ君たちが来たらそのまま通せって言っといて」
「は、はは! かしこまりました!」
「じゃあ、もう帰っていいよ」
「はは! 失礼いたします!」
王女サマはそう言うと立ち上がり、お付きの人間を伴って帰って行った。
そんな王女様一行を見送っていると、後ろに人が立つ気配がした。
「……あの噂、間違ってねえじゃん」
「……同時者たちが否定してんだから、間違いだ」
「いや……その言い訳は苦しくね?」
「うるせ」
そんなの分かってんよ。
あの王女サマの態度。
あれ、完全に俺のこと上に見てるよね?
勝手に支配下に入ってきてるよね?
そりゃ、あんな態度が滲み出てたらナラ君だって勘違いするわ。
はぁ……本当にこの世界の王族は馬鹿ばっかりだ。
カクヨムにて先行投稿しています