昼下がりの庭先で
「あぁ……こんな生活してたらダメ人間になっちまう……」
ある日の昼下がり、メシを食ったあと庭先にあるリクライニングチェアに寝転がりながらアイバーンがそんなことを言った。
「そんなら仕事をやろう、さっさと魔族国に行って情報を集めてこい」
俺がそう言うと、アイバーンは嫌そうに顔を顰めた。
「なんでわざわざ人族とバリバリ敵対してる魔族国に行かなきゃなんねえんだよ」
「魔族国が新しい召喚者の排除を目論んで進軍を開始したんだろ? どれくらいの規模なのかとか、魔族がどれくらい本気なのかとか、色々調べることあんだろ」
「あるけど……勘弁してくれよ。今、魔族国内は人族立ち入り禁止。見つけ次第逮捕、投獄だって話なんだ」
「人族ってだけで?」
「そう」
「そりゃまた、横暴な施策もあったもんだな」
魔族国の過剰なほどの対応に驚いていると、アイバーンがジト目を向けてきた。
「原因がなんか言ってるわ」
「ん? 俺のせい?」
「そうだよ」
マジかよ。
あれからもう二年は経ってるのに、恨みが根深いなあ。
「でもあれは、騙してたリンドアが悪い。そもそも俺がこの世界の事情なんて知らねえもん。だから、俺は悪くない」
「それはまあ、そうなんだろうけど……魔族国の人には関係ないからなあ」
魔族国の人、ねえ。
「なんだよ。お前人族なのに、随分と魔族に配慮した言い方すんのな」
俺の言葉に、アイバーンは呆れた顔を見せた。
「当たり前だろ。メイリーンさんもモナさんも魔族じゃねえか。そんな二人がいるのに魔族を蔑ろにするような台詞言えねえだろ」
「そうなの?」
「お前が異常なんだよ」
別に異常でもなんでもないだろ。
「メイリーンはメイリーンだし、モナはモナだろ」
種族で人を見るんじゃねえよ。
そう言うと、アイバーンはなんか納得した様子を見せた。
「まあ、お前ならそう言うか。そもそも、お前って人族なのか魔族なのかよく分かんねえ存在だしな」
「ていうか、そもそもこの世界の人間じゃねえよ」
「確かに」
そんな話をしたあと、改めてアイバーンに聞いた。
「で? 結局のとこ、魔族国の動向ってどうなのよ?」
「あー、アドモスに向けて挙兵したってのは聞いたんだけどな。戦況がどうなってるとかの情報はまだ入ってきてないな」
「召喚者が出たって話も?」
「聞いてない」
「ふーん」
できることなら、召喚者たちには戦場に出て欲しくない。
別にこれは、同郷の人間だからシンお会いしているとかではない。
「戦闘経験を積まれると面倒臭えなあ」
「前に言ってたやつか」
「ああ。そこが俺と新しい召喚者との一番大きなアドバンテージなのに、それがなくなるのは面倒臭いだろ」
「まあ、確かに実践は人を成長させるからな。そんな状態でここに乗り込んできたら……」
アイバーンはそう言ったあと、俺を見た。
「ユリアとアイラとレオンを連れて速攻で逃げるわ」
「最低だな、お前」
実際はそうした方がいいとはいえ、それを堂々と俺に宣言すんな。
そう思っていると、アイバーンが笑い出した。
「ふはは。言ったろ。俺は自分に正直に生きるって」
「そういや、そんなこと言ってたな」
「その結果だ」
そうか。
まあ、レオンも連れて逃げてくれるんならそれでもいいか。
レオンは確かに可愛いし大事だけど、メイリーンとは比べられない。
むしろ、メイリーンから産まれたからこそ可愛いってのもある。
もしものときはレオンを残してしまうことになるけど、まあ……アイバーンなら任せても大丈夫か。
「ま、そんときは頼むわ」
「おう」
そんな話をした数日後だった。
召喚者たちが戦場に駆り出されたという話を聞いたのは。
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