第二話 序
私の住む市は人口八千人ほどで、平均年齢は三十二歳。就労者の半分は農業や漁業などのいわゆる一次産業職のとても活気のある町です。
少子高齢化、農家不足などが問題視される日本と比べると発展途上にあるという印象を抱かれるかもしれませんが、実際のところ生活をするうえで最低限の家電や車、電車などはしっかり充実しているのです。
なんでも私の前に日本から転移してきた方がここまで発展させるのに偉大なる貢献をしたとか……。私も詳しくは知らないんですけどね。
とにかく私もその偉大なる某さんの恩恵にあずかっているわけです。
神の気まぐれか、それとも罰か。無慈悲なる転移によってえんもゆかりもない世界に飛ばされた私。どの世界でも共通しているルールは働かざるもの食うべからずということです。
転移前はアルバイト経験すらないダメな大学生だった私は、親切な方の紹介で、何とか市局の市民相談部という部署に就職することができたのです。
市局というのは日本における市役所のようなもので、私が所属する市民相談部の市民相談課というのは市民の相談に乗る課です。なんともざっくりしていますが、そうとしか説明できないのだから仕方ありません。
私の普段の仕事の様子をお見せしましょう。以下、VTRでお楽しみください。
「住民票が欲しいんだけど」
「市民課へお越しください」
「親の介護のことで相談が……」
「高齢者障がい者介護課へお越しください」
「夏休みの宿題の相談がしたいです」
「学習支援課へお越しください」
「結婚相手を探していまして」
「結婚相談課へお越しください」
こんな感じでほとんどが他の課へと案内することが仕事になっているのが実際です。
市局内では窓際部署のような扱いで、案内課だの中継課などと呼ばれているとの噂もあるとか……。ですが私としてはこのぬるま湯に浸かっていることに不満はなく、天職だなぁなどと気楽に考えていたのです。
しかし幸せというのは往々にして長くは続かないもの。私はそれをわかっていながら目を逸らし続けていたのです。
そしてまるで必然かのように前触れもなく『その日』は訪れたのです。