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浴槽の人魚  作者: 骨魚
9/9

よるのうみにはきみがいた




「……高丘(たかおか)八城(やしろ)。なんでここに」


 夕飯を買って、真っすぐ家に帰ろうとしていた。

 が、家の前では思わぬ客が僕を待ちかまえていた。


「どうもこんばんは、片桐(かたぎり)先輩。ちょっと一緒に飲みませんか?」

「ごめんねー、急に来ちゃって。酒もつまみも買ってあるからさ。入れて欲し」

「駄目だ」


 入れるってどこに?

 僕の家に? この2人を?


「うわ、冷たいな片桐先輩。オレら寒い中ずっと待ってたんですよ?」

「部屋を片付けるくらいの時間は待つからさ。それにあんまり気にしないよ」

「まぁ片桐先輩だったらいつも片付いてそうなイメージもありますけどね」


 拒絶の言葉をまるで気にしていないように、2人は笑っている。

 僕は少し苛立ちながら、2人を押しのけて家に入ろうとした。


「家には絶対に入れない。どこかで埋め合わせはするから。帰ってくれ」


 ポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。

 部屋の中へと体を滑り入れようとして


「……片桐先輩、やっぱりなにか隠してますね?」

「……倒れるほどまで自分を追い詰めてるひとを、見逃せる訳ないでしょ」


 失敗した。

 2人は閉まる扉に腕を挟み込んで無理矢理押し入ってくる。

 まさかこんなにも執念深くやってくるとは思わなかった。


「やめろ! 帰れ!」


 パンパンのレジ袋を持ち、2人はズカズカと家に上がり込んでくる。

 風呂場を通り過ぎたのは良かったが、あまりにも恐ろしい状況になってしまった。


 もしも2人が人魚の穏月(しずく)を見てしまったら。

 彼女を今まで隠してきたのがバレてしまったら。


 彼女が連れ攫われてしまうかもしれない。

 なんていったって人魚だ。どうなるかなんて想像も出来ないし、したくない。

 僕は唾を飲み込み、2人を追ってリビングに向かう。

 なんとかうまく立ち回って、早く帰ってもらわなくてはいけない。

 僕が穏月を守らなきゃ。穏月を守れるのは僕しかいないのだから。





「片桐先輩……もうちょっと飲んでくださいよ。全然進んでないじゃないですか……」

「や、僕はもともとそんなにお酒に強い方じゃないからね」

「嘘ばっかり! お酒好きでしょ? なに? もしかして禁酒中?」

「あー。うん。そうそう禁酒中。そうなんだよ」

「じゃあなんで飲んでるんですか?」

「いや、飲んでると言うか、飲まされてるっていうか……」


 なんとか2人を満足させて帰ってもらおうとしたけど、どうやら2人は僕を酔わせたいみたいだった。

 僕を酔わせて何をするつもりなんだ?

 まさか、穏月のことをもう既に知っているのか?

 そんな不安が頭を過る。


「すみません片桐先輩。ちょっとお手洗い借りても良いですか?」

「ん、あぁ、トイレは向こうの扉……の」


 言いかけて、はっと口を噤んだ。

 僕の家のトイレは脱衣所を挟んだ場所にある。

 つまり、トイレは風呂場の目の前。ということだ。


「あの扉っすね。ありがとうございま」

「やっぱり駄目だ!」

「……は?」


 不味い。非常に不味い。どうすればいいんだ。


「え、トイレ使っちゃ駄目なんですか……?」

「あぁ、トイレに近付くのも許さない」

「……ちょっと、静海(しずか)。あんたやっぱりおかしいよ」


 おかしいのはお前たちの方だろ。こんな夜更けに乗り込んできて。

 そう言い返そうと振り向いた瞬間に


「そっちになんかあるんですね。片桐先輩」


 八城はガシリと、背後から僕を羽交い締めにした。


「こっちはガチで催してるってのに……! 高丘先輩! 確認頼みます!」

「わ、分かった!」


 一瞬の内に高丘は僕らの間をすり抜けていく。


「待て!!」


 脱衣所の扉が開く音がした。


 ……風呂場の扉が開く音が


「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああ」


 悲鳴が聞こえた。


「!? 高丘先輩!?」


 八城が僕を放り出して駆け抜けていく。

 僕も慌てて後を追った。見つかった。見つけられてしまった。


「は? なんだ……これ……」


 風呂場の前で呆然と佇む2人を強引にどかす。


「静海、ねぇ、なんでこんなにお風呂場、真っ赤なの?」

「片桐先輩。あんた、絶対におかしいです。……ソレ。なんなんですか」


 僕は浴槽の彼女を引き上げる。


「ソレじゃない。穏月だ。……逃げるよ、穏月」


 2人を睨みつけ、僕は家から駆け出した。

 ……いや、駆け出そうとした。


「話を聞いて下さい、片桐先輩。深谷(みたに)さんは死んだんですよ」


 肩を掴む八城の腕。


「……静海。ごめん。わたしのせいだよね。深谷さんを眺めながら、自分を傷つけてたんだよね」


 体を震わせながら僕の前に立ちはだかる高丘。


「穏月は死んでない、ここに居るじゃないか」


 人魚になって。

 僕の腕の中に納まっているじゃないか。


「っ、現実を見ろよ片桐! そんな血まみれの遺影抱きかかえて! きもちわりぃんだよお前!!」


 八城が叫んだ。

 彼の手が、僕から彼女を奪い取る。


「え」


 そのまま彼は大きく腕を振り上げて。


 彼女を、床に


 床に、彼女が


 彼女が


『……にんぎょひめは、あわになって、きえてしまいました』


 砕け散って





 彼女がどこにも居なくなってから、数日が経った。

 会社は休んでいる。


 お風呂場は綺麗に流されてしまって、彼女の痕跡ひとつ見つからない。

 どこにも彼女は居ない。


「こんばんは、静海」

「……どうも」


 今日も2人がやってきて、食事やらを押し付けて行った。

 食べずに捨てた。


「穏月」


 カラカラの喉で、彼女の名前を呼ぶ。

 窓から夜空を見上げると、綺麗な月が昇っていた


「……僕は、ずっと月を見ていたい」


 何処に行くわけでもなく、ふらりと外に出た。


 月を追いかけるように、ただただ歩く。


 歩いて、歩いて、歩いて、歩いた。


「あ」


 たどり着いた先で、月の終着点を見つける。


「あぁ、なんだ、こんなとこにいたんだ」


 海の上で僕を呼ぶ(彼女)に誘われるようにして

 僕はその波の中に身を躍らせた。


 ずっといっしょだよ。


「  」


 彼女がすぐ傍に居ることを感じて、僕は幸せな笑顔を浮かべた。


はっ、どうもいらっしゃいませ。ささ、どうぞ、粗茶ですが(ソッ


最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

楽しんで頂けたのであれば、これ以上なく嬉しく思います。



12月18日の誕生花『モミ』 花言葉『永遠』

12月19日の誕生花『ゴボウ』 花言葉『いじめないで』

12月20日の誕生花『クリスマスローズ』 花言葉『中傷・発狂』

12月21日の誕生花『ストック』 花言葉『永遠の恋』


きみにあいにいくよ。

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