くるしみをオレにわけて
その日の業務を終えると、オレと高丘先輩はすぐさま会社を出ました。
片桐先輩も足早に帰宅しようとするから、オレ達は更に早く回り込まなければいけません。
しかも酒を持って乗り込む必要があるから、オレはまるで一種のタイムアタックゲームでもしているかのような気分でした。
「先輩、タクシー使いましょう。金ありますか?」
「大丈夫! あるよ!」
「乗りましょう! もし足りなかったらオレ出すんで!」
目の端で片桐先輩がコンビニに入っていくのを捉えながら、オレ達はタクシーに乗り込みました。
運転手さんに「出来るだけ急いでお願いします」と言い、先輩に片桐先輩の家の近くを伝えてもらいます。
「っっはー、これで酒を買う余裕も出来ましたね」
「はぁぁ……なんだかドキドキしちゃった」
息を乱しながらそう答える高丘先輩にドキリとしつつも、2人では改めて作戦を話し合いました。
「えー、まぁ、とりあえず、タクシーが着いたら、近くのお店で酒を買って、片桐先輩んとこのマンション待機。本人が帰って来たら無理やりにでも乗り込みましょう」
「上手くいくと良いけど」
「オレの経験上、ここまでやってこられたらなんだかんだ家に入れてくれるもんですよ。幼馴染なら尚更ね」
高丘先輩は意外にも会社の飲み会とか付き合い以外ではあまり遊ばないタイプのようで、オレの話を聞いても「そういうものなんだ?」みたいな表情をしていました。
「でも、片桐先輩、早退とかしなかったんですね。こっちとしては先回り出来てありがたいんですけど」
「あいつ、ド真面目だからね」
「……ま、雰囲気からしてエリートな感じですからね」
「あはは」
話がひと段落すると、車内は突然静かになってしまって。
なにか振る話題はないかなと考えていると
「ね、八城くんは無理してない?」
と、高丘先輩が問いかけてきました。
「無理って?」
「静海みたいに、1人で抱え込んでたりしない? 痛みを隠してたりしない?」
「……あぁ」
そっか、オレも噂の1人だったから。
「もしもそうなら言って欲しい。そういうの、わたしにだけは隠さないで欲し」
「……先輩」
「え?」
「それ、誤解にもなりますからね? 『わたしにだけは』って言うの」
一瞬揺らぎかけた心を押し戻して、先輩へ念を押す。
まったく悪気のない、本心だからこそある意味質が悪いなとオレは心の中で苦笑しました。
「? ……あぁ! いや、そういう意味とはまた違って!」
「あはは、分かってますってば、ちょっと思っただけですよ」
「八城くん、わたしをからかってるの?」
本当に、先輩はいい人なんだろうな。
オレを選んでくれたらどんなに幸せだっただろう。
「いいえ、そういう訳じゃないですよ。まぁ、オレも一時期はへこみました。
でも、情けないなって思って。そもそも、オレらしくないんで」
でも、深谷さんの訃報から、会社の空気を変えようと一番動いてくれたのは高丘先輩でした。
彼女の穴を埋めるためにと今まで以上に仕事を引き受けるようになったし、困っている人には進んで声を掛けてくれていたから。
だからオレもこのままじゃいけないと思うことが出来たんだと思います。
「ずっと高丘先輩が頑張ってきたの知ってますから。だからオレ、力になりたいって思ったんです」
「…………。」
「あれ、先輩?」
「あ、ううん。……ありがとう。八城くん」
先輩は一瞬呆けたような顔をして、そこから戸惑うようにお礼を言いました。
「かっこいいね。凄いよ。八城くん」
眉を下げてそう言う高丘先輩は、いつもよりどこか寂しそうに見えて。
「せんぱ」
「あ、ここだよ。やっぱりタクシーだと早いね。いくらですか?」
先輩はしれっとオレの分の代金も出してしまって、そのまま車を降りて行ってしまいました。
寧ろ奢りたかった……とぼやくと、運転手さんから謎のエールを受けてしまい、なんとも恥ずかしい気分になりながらお礼を言って、先輩を後を追いかけました。
「待ってくださいよ先輩! オレが帰れなくなったらどうするんですか!」
「そんなに離れてないでしょー? あ、ここで買っていこうか。ビール!」
先輩はそう言ってコンビニに入っていきます。
オレも続いて入店しました。
お酒と、つまみと、後は適当にお菓子とジュースをカゴに入れてレジに向かうと。
「なんだかお泊まり会でもするみたい」
そう言って先輩は笑いました。
やっぱり先輩は笑顔が一番可愛いや。とオレもつられて笑いました。
……でも、オレ達に待っていた現実はそう甘いものじゃありませんでした。
12月20日の誕生花『クリスマスローズ』
花言葉は主に5つあるらしいです。
『いたわり』




