2章・9二学期の始まり
楽しい夏休みは瞬く間に終わってしまった。
終業式直前のこと。あたしの懇願とアンディのアシストにフェルも父様も折れてくれて、アル、レティ、ジョー、ウォルフ以外とも遊べるようになった。
おかげでいつメンやウォルフ以外の、委員会メンバーやクラスメイトたちともお互いの屋敷を行き来したり、ピクニックに行ったりした。昔、お茶会すら行かせてもらえなかったのが、夢だったんじゃないかと思うほど。
アンディとも街歩きをたくさん楽しんだ。ウォルフにはお決まりのお説教をされたけどさ。
もういっそ一緒に行こうと誘ったけど、それは嫌だと断られてしまった。なぜかアンディはくっくっと笑い、ウォルフは口をへの字にして黙るばかりだった。
後でアルが教えてくれたのだけど、ウォルフはあたしと二人で出かけたかったらしい。その許可がおりないのはつまり、自分が半人前と判断されているから。
なるほど。つまりウォルフのプライドに障るってことだ。男子って面倒だ。
そして始まった二学期。やっぱり日本人が作ったゲームの世界だからなのかな。なぜか体育祭、文化祭、おまけにクリスマス会がある。フェルには委員会漬けの日々が始まるよ、と脅された。
ゲーム製作者が忘れたのか意図的なのかわからないけど、生徒会がないこの学園。すべてをクラス委員会が中心になって行うんだって。
それ、委員会決めの前に教えてほしかったよ…。
ゲームの中であった行事は文化祭とクリスマス会のふたつだけだから、それまでは気を抜けるかな。
あまり関わり合いたくないマリアンナ。彼女は夏休み中、地獄の特訓が辛かったのか、だいぶ痩せてしまっていて、さすがにかわいそうになった。だけど。
キンバリー先生が言うには、毎日泣きながら寮に帰ってきたらしい。そして
「あたし、選ばれた子なのに!正式な《癒す者》になったらあんな男、国外追放にしてやる!」
と数少ない居残り寮生に息巻いていたそうだ…。
それなら心配しなくても大丈夫かな。
◇◇
しかし体育科目もないのに、体育祭でなにをやるんだろうと不思議に思っていたらば。
なんと、まさかのダンス対決だった!
学園のほとんどの生徒が貴族の師弟だ。舞踏会用のダンスで点数を競いあうらしい。着るのは制服だけど。そこは庶民出身の生徒への配慮なんだって。審査員はなんと貴族のご婦人たち。けっこう辛口らしいから、体育祭でまではダンスの授業もやるそうだ。
あたしはダンスは苦手ではないんだけど。なにしろ引きこもりだったから、ミリアムとレティとしか踊ったことがない。レティはジョーと組むし、ミリアムはアルと組んでもらいたい。
あたし、どうしよう?
まさかウォルフに女の子役をやってもらうわけにはいかないし。
…実は一応、念のため聞いてみたんだけどね。馬鹿か!と怒られてしまったよ。
ミリアムはあたしと組むといって聞かなかったけど。王子であるアルと組めるのはミリアムしかいないとレティとジョーと、アルの侍従とで説得しまくった。
実際、下手に適当な女の子と組んだら、その子が妬まれたり、逆に婚約者候補かと騒がれたりして大変なことになってしまう。小さい頃から友達のミリアムなら、なんの問題もおきないもんね。
ここで二人にはぐっと距離を縮めてほしい。
そもそもレティの婚約が決まっていて、なんでアルの婚約は決めないのかが不思議だったんだけど。卒業ギリギリまで、王妃にふさわしい人物を探したいんだそうだ。
すぐ隣にいますよ!ってさりげなくアピールしてみたんだけど、わかってくれなかった。アルの目は節穴らしい。
それともゲーム設定どおり、知らないうちに女性へのトラウマを持ってしまったのかな。
で、話は戻ってあたしのダンスの相手。
クラスの女子たちともけっこう仲良しなんだけど、声をかけても「あたしなんか…」と断られてしまう。
一応、イケメン(ゲームとしてはね。最近自分でも違うんじゃないかと不安になってきた)の公爵子息なのに、相手をしてくれる女の子がいない!
ウォルフですら早々に決まったのに。
で、落ち込みまくったあたしだったんだけど。ミリアムがアルはやめてあたしと組むと言い出して。すったもんだのあげく、見かねたのだろう、ひとりの女子が名乗りあげてくれた。
小さくて、こりすみたいにかわいい女の子。クララ・サラス。お菓子の好みなんかも似ていて好きなケーキ屋さんも一緒。夏休みも何度か遊んだ仲だ。
彼女が組むと言ってくれて、ほっとしたよ。
ミリアムは、アルを好きなはずなのに、あたし優先ってどうなんだろう?たまに勘違いだったかなと思うけど、注意深く観察していれば、そうじゃないことはわかる。
あたしが頼りないから優先しちゃうのかな?あたしに恋人ができれば安心するのかな?
ミリアムのことは誰にも相談していない。あたしにすら隠していることを、他の人に相談するのはなにかが違うと思っていたからだ。
あたし自身、隠されていることがショックだったせいもあるかも。お互いなんでもオープンにしてきた、と思っていたから。
でも双子だからって、いつまでも一緒、何もかも分かりあえて秘密はなし、なんてことは無理な話だよね。さみしいけどさ。
あたしはミリアムが大好きで、いつも幸せでいてほしい。あたしが彼女の足枷になるのは嫌だ。
それならこのモヤモヤを誰に相談すればいいんだろう?
レティ?でもミリアムにもアルにも近すぎる気がする。うまくいかなかったら板挟みになっちゃうよね。
フェル?超絶過保護なフェルが、ミリアムの恋愛話を冷静に受け止められるかな。
いつものアンディ?乙女心がわかるとは思えない。なにしろ婚約者に逃げられている。
キンバリー先生?すごく頼りにはなるけど。おそらく結婚から縁遠い先生に恋愛相談していいのかな?
◇◇
そんな訳でダンスの授業が始まった。苦手な魔法の授業よりよっぽど楽しい。
未経験者チームと経験者チームに別れてそれぞれに男女一組の先生がついたんだけど、経験者チームの先生はキンバリー先生だった!
先生が言うには
「上手いからじゃないよ。女の先生少ないでしょ?三学年合計九クラスを受け持てる体力のある教師が他にいないだけ」
なるほど。でも先生は抜群のスタイルの美人さん。一緒に組む男の先生は、明らかに普通の授業のときよりにやけている。ついでにクラスメイトの男子も集中できてないよ。キンバリー先生、気づいているのかな?
ちなみに未経験者チームの方は、外部からおばあちゃん先生が講師に来てくれている。
あたしが組んだらクララはダンスもとても上手で、すごく踊りやすかった。そう褒めると、真っ赤になって謙遜するところがかわいい。レティタイプだね。
こういう子を好きになれたらミリアムは安心してくれるかなという考えが浮かんだけれど。まあそれは置いておいて。
ミリアム・アルペアはびっくりするくらい、普段どおりの二人。真面目に練習したり、難しいターンをいれようかと相談したり。ミリアム、もうちょい甘い雰囲気を出しなよ!と言いたくなるくらい。アルだってさ。いくら幼なじみで長い付き合いとはいえ、こんなに可愛らしい子とずっと手を繋いで踊るんだよ。もっとドギマギしようよ!
一方で、怪しいのがジョー・レティペア。こっちは確実にジョーが何か仕掛けてる!おどっている最中にレティが何度顔を赤らめることか。いい加減、ジョーはレティが好きなのか、ただの天然なのか、はっきりさせてほしい。そんな二人をクラス中が生暖かい目で見守っている。
ついでにウォルフは無難、としかいいようがない。ペアになった子は昔からの友達らしいけど、その子のほうが上手。ウォルフは無難、というより無骨かも。動きが硬いって、先生に何度も言われていて、ジョーに鍛練ばかりしてるからだよと笑われていた。
それからマリアンナ。彼女は数少ない仲良し男子と組んで、未経験チームで大人しく真面目に練習をしている。チームが違うからレッスン場所も離れていて、おかげでわざとぶつかってくることも出来ない。あたしたちは安全だ。
そんなある日のダンスの授業中。
どうしたことか、魔法にしか興味のない変態ゲインズブールが顔を出した。
壁にもたれかかって(腹が立つことにそれだけで絵になる)、黙ってレッスン風景を見ていた。で、黙って出ていった。
なんだったんだとクラスはざわついたけど、キンバリー先生はマリアンナの体力を確認しに来たんだと言った。
「踊れる体力があるなら、特練をレベルアップしようっていう魂胆だと思うよ」
だって。おそるべし、ゲインズブール。見た目だけならイケメンなのに、中身は下衆すぎる。アンディとは別ベクトルで結婚できなさそうだ。
フェルが警戒していたのもわかるなあ。




