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悪役令嬢の双子の兄に転生したので、妹を全力で守って恋を応援します!《旧版》  作者: 桃木壱子


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番外編・星のお願い

かつては赤毛だった彼の、晩年のお話です。


本編から何十年も経っているので、それでも構わない方だけお読み下さい。






 長椅子に身を沈め、クリスマスツリーを見上げる。今年のもみの木も随分と立派だ。

 飾ったその日は赤をメインにした美しい飾りだった。日を追うにつれ、雑多な飾りが増えていき、今は雑然としている。だが店のツリーという訳でもない。これはこれで幸せなツリーだ。


 とことこと可愛らしく駆けてきたアンジェが、星型のカードを差し出した。

「おじいさまはもう書いたの?願いごと」

「ああ、書いたよ。アンジェは?」

「これから!だけど僕はまだ字が上手じゃないから、おじいさまが書いてくれる?」


 アンジェを抱き上げて、頭を撫でてやる。


「上手でなくていいんだ。神様はちゃんと読めるからね」

「そっか!」


「あ!アンジェずるい!」

 そう叫び声がして、わらわらと他の孫たちが駆け寄ってくる。

「おじいさまのお膝に座りたい!」

 僕も、私も、と口々に可愛らしくねだる。


「順番だよ」

 ひとりひとりの頭を撫でる。


「ねえ、おじいさま」と年長の孫。「星のお願いってやらないお家もあるのですって」

 孫たちが一様に驚きの声をあげる。

「そうだな。じいの友達が始めたことだから、やらない家のほうが多いだろう」

 ふうん、と孫たち。


「おじいさまが初めて書いたお願いはなんだった?」アンジェがキラキラした目を向けてくる。「ちゃんと叶った?」





 初めて書いた願い。

 それはもう、随分と昔のことだ。けれど今でもはっきりと覚えている。

『勝つ』

 そう書いたのだ。そしてその翌年も。




 叶ったかどうか、か。

 ここで幼子の希望を壊すのは、よろしくない。


「それは、どうだったかなあ」

 と、とぼける。

「忘れちゃったの?」とアンジェ。



「お母様の実家では星のお願いをしているわ」

 アンジェの姉が先ほどの年長の孫に話している。

「だけど私のお母様の実家も、お友達のうちもやらないわ!」と年長の孫。


 年長の孫の頭を撫で、次に姉を。そして話す。

「お前の母の母、つまりおばあさまがそれを始めた、じいの友達だからだよ」


「そうなのね!」

 二人の孫は納得したようだ。


 そうだ。アンジェを見る。

「思い出したよ。最初の願いは、叶った」

 途端に破顔するアンジェ。


 私の長男は、彼女とあの人の間に生まれた娘を妻にした。親たちの知らぬ間に、恋に落ちていたらしい。


 息子らが両家の親の前で、結婚したいと言ったときの、あの人の顔といったら。なんとも微妙な表情で、私をちらりと見た。


 後で二人きりのときに、私はけしかけていないぞと伝えたが、信じているかどうかは未だに分からない。


 そういう意味では、私はあの人に勝って、願いが叶ったと言えるのではないのだろうか。間接的にではあるけれど、あの人から愛娘を奪い、我が家にいただいたのだから。




 もっとも恋愛を勝ち負けで考えていた時点で、私は自分本位のお子様だったのだ。


 何十年も経ったのに、あの頃のことを考えると胸の奥底に燠火のようなものの存在を感じる。

 だけれどそれは、叶わなかった恋への未練や悔しさではない。私にとってあの初恋が特別なものだったから。ただ、それだけのことだ。


「おばあさま!」

 アンジェの声に我に返ると、老妻がゆったりとした足取りでやって来た。私の隣にいた孫がさっと立ち上がり、席を譲る。妻は優しく礼を言って、静かに座った。


「おばあさまが初めて書いたお願いはなんだった?」とアンジェ。

「おじいさまと幸せになれますようによ」

「それなら叶ったね!」


 ええ、と頷く最愛の人の手をそっと握りしめる。


 私の結婚は、貴族の嫡男としては遅いものだった。なかなか結婚しない私を、両親は黙って見守っていてくれた。ただ一度だけ父が言ったのが、『最高の伴侶に出会うために必要な時間なのだろう』という言葉だった。


 その通りだ。


 長い時間をかけて巡り会った妻は、誰よりも素晴らしく、愛しい。


 そういえば私が彼女とあの人に婚約を知らせたとき、二人は心底安堵した表情だったな。


「どうかしましたか?」

 妻が私を見ている。どうやら私は笑っていたようだ。

「いや、君と出会えて幸せだったなと思ってな」

 老妻が微笑む。

「私もですよ」



「いいなあ、らぶらぶ!」と孫のひとり。

「あら。どこでそんな言葉を覚えたのかしら」

「父上と母上がいつも言っているよ。おじいさまとおばあさまは、いつもらぶらぶで素敵だねって」

「まあ」


 楽しそうに話す愛妻と孫たち。


 目を上げ、もみの木を見る。どこかに私が書いた願いが下がっているはずだ。ここ数年、毎年書くのは同じ願い。





『一日でも長く、愛する妻と共にいられますように』


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