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第十二話 龍との会合

目が覚める。

昨日は、下の階層へ行く道中で的に遭遇したり、強酸の水流から穂澄と身を守ったり穂澄に助けられたり、ミミズみたいな魔物に食われて脱出したり、いろいろあり過ぎてすぐに眠ってしまったが、気が緩んでたとはいえ無警戒すぎた。

まあ、寝込みを襲われなかったからいいけど。


自分の身体に重さがかかる。光魔法で辺りを照らす。

すると重さの原因がわかった。

とりあえず、この状況をどうにかしよう。

昨日、穂澄と同じ布団で寝た。お互い、告白しあって晴れて恋人同士になった訳だ。同じ布団で寝たとはいっても、疲れすぎてすぐに二人とも寝てしまった。

そこまではいい、問題は今の体勢だ。昨日は二人並んで隣同士で寝ていたはずだ。なのに今は俺は仰向けになっていて、俺の腰あたりに穂澄がうえから覆いかぶさって抱きつきながら寝ている。


「お〜い、穂澄さ〜ん、起きてくださ〜い」

「……ん」


一向に目が覚める気配がない。

呼んでも起きないので、少し揺すってみる。


「起きてくれ〜」

「……ん、おはよう。灰利」


まだ寝ぼけているようだが一応やり取りはできる。


「おはよう、それでこの状況はどういうことか説明してくれ」

「ん?」


穂澄が目を擦りながら、自分の体勢を確認している。

すると、だんだん閉じそうだった目が見開かれていく。自分の体勢を把握した穂澄は、一気に真っ赤になりゆっくりと俺の上からどいていく。


「目が覚めたか」

「……ん、目が覚めた」

「それでどうして俺の上に乗っていた?」

「寝てたら横が温かかったから、最初はくっついてただけだけどいつの間にか抱きついてた」


最初は寄り添うようにして温まっていたけど、いつの間にか俺の上に乗っていたらしい。


「まぁいいか。とりあえず場所の確認だ」

「ん、」


まだ、赤くなってる穂澄が答えて場所の確認をする。

ここは、前にいたところよりも気温が低く、かなり下の階層に運ばれたみたいだ。


「けっこう下の階層に来たみたいだな」

「ん、探索する?」

「現状確認を先にしてそれから決めよう」


確認する。

ここは、前よりも遥か下の階層で光魔法を使わないと周りが見えないような暗闇に覆われている。

ミミズみたいな魔物が、ここに来たことからここに出現する魔物は、あのミミズ並の強さを持っていると思う。今の俺には倒せるだろうが、穂澄にはキツいだろう。

上を見るとミミズ魔物が通ってきた、でかい穴が空いていた。その穴の下には、ミミズの氷の破片が大量に落ちている。


「落ちてきた穴を調べるから穂澄は待っててくれ」

「わかった」


俺は風で浮き、氷の破片の真上にある穴まで飛んでいく。地上から穴のある天井まで30メートルぐらいの距離があった。穴に到達して穴の中を照らして進む。少し進むと、穴がそこで終わり岩で塞がれていた。降りてきて穂澄に教える。


「無理だ塞がっている」

「そっか」

「一緒に辺りを調べてみよう」


歩き出して周りを見ながら進む。

洞窟の形状は上の階とほとんど変わらない。

進むにつれてわかってきたが、ここは瘴気というか嫌なものが漂っていて居心地はあまり良くなかった。


「気持ち悪い」

「ああ、ここは最悪だな」


分かれ道もなく、途中で曲ったりねじれたりしていたが一本道だった。まるで、なにかにおびき寄せられているみたいに。

そして、何故かここに魔物はいなかった。

瘴気のせいか、それともほかの何かなのか検討もつかないが、この場で戦うよりはいない方がいい。


「なにか見える」

「何かって?」

「扉?かなりの大きさのある扉だと思う」


俺の魔法での探査は、敵の位置や道の形は分かるがはっきりと何が見えるわけではない。そんな時は、穂澄の視力がかなりの役に立つ。一緒にいて分かったが、穂澄はこの世界に来て魔力によって視力がかなり上がったらしい。片目を失ったのがホントに残念だ。


「扉か、そこまで行って大丈夫そうなら、開けて中を見よう」

「ん、」


巨大な扉に向かって歩き進める。道を進むにつれてどんどん瘴気が濃くなって、気分が悪くなってくる。早く抜け出さないとおかしくなりそうだ。


「あれか、扉っていうのは」


やっと、俺にも暗闇の中から穂澄の言っていた扉が見えてきた。扉は両開き扉と同じ形だった。


「うん、どうする?」

「瘴気はここから出てるみたいだな」

「入る?引き返す?」

「入ってみよう、瘴気の正体もわかるかもしれない」


扉に片手を掛けて力を入れる。動かない。

穂澄も両開きの反対側に手を掛けて手伝ってくれる。


「いくぞ」

「ん、」

「「せーの!」」


二人で同時に力を入れて押してみる。

すると、重々しい音を立てて地面を少しずつ削りながら開いていく。


扉が開く。

そこには大きな台座があり、その上に骨があった。

龍の骨だ。

西洋のような竜ではなく、東洋の話に出てくるような蛇に手足の生えたような龍だった。


"汝、ここに何をしに来た"


頭の中に直接声が響く。


「…この声はお前なのか?俺の名前は灰利 十だ」


やはり声の主は、龍の骨だった。

思念で会話をしてるのだろうか?


"ああ、いかにも我の声だ。お前はここに何をしに来た、カイリとやら"


「俺たちは進んでたらここに着いただけだ」


"むやみに進むだけではここにはつかないぞ。ここの道に繋がる階層の道は、すべて我が閉じたからな。本当のことを言え"


「本当も嘘も、今言ったことが本当だ」


"はっ、まぁいい。今までの事を思い浮かべるだけでいい。頭の中に思い浮かべてみろ、それだけで分かる"


俺と穂澄は今までの事を思い浮かべる。

この世界に呼ばれたこと、仲間に裏切られ落とされたこと、腕を失ったこと、今までの事を余すことなく思い浮かべる。


"本当の事だったのか、疑ってすまなかった"


「大丈夫だ、俺でも言われたら信じられないことの連続だったからな」


"それで、これからカイリはどうするつもりだ"


考えてなかったな、穂澄と地上で二人で暮らすことは決まったけどそこから先は特に決めてない。


「穂澄、これから地上で暮らすことを決めたけどそこから先、何をしたい?」

「私は、正直に言うと地球に帰りたい」


"そうか、残念だがそれは無理だ"


「なぜだ?」


"正確に言うとできないこともない、が。今は絶対に無理だ"


やはり、魔族との戦争を終わらせないといけないのか?だけど魔族との戦争を終わらせたところで何かが起こるとも思えない。戦争ってのは、簡単に言うと国と国同士の喧嘩だ。終わったところで、帰れるかはわからない。シャイスィ王国が、嘘をついている可能性もある。魔族側が帰還するための魔法を知っている可能性もある。魔族側がそれを知っていたら、教えてもらいに行くだけだからどちらかと言うと魔族が知っていた方が楽に済みそうだ。


"お前達のいた国は帰還の魔法は知らない。そして、魔族側も知らないだろう"


「どちらかが知っているんじゃないのか?シャイスィは、以前呼んだ者達が帰ったと言っていたぞ」


龍は、「少し話をしよう」と言って語り始める。


"もしかしたら、誰かが知っているかもしれないが、可能性は低いだろう。なぜなら、神と呼ばれる連中がその魔法をこの世界から消したのだからな。我がこうなったのはそいつらのせいだ。アイツら神たちは、邪魔なものを排除し、自分を信仰する者を利用する。異世界から呼ばれた者達は、神の奇跡やら神の力を預かりし者、神の使いとして利用される。だが、帰還の魔法がその信仰の邪魔をした。異世界人は、戦争を終わらせて帰還の魔法で元の世界に帰ってしまったのだ。異世界人が戦争を終わらせて平和を取り戻した。それから平和が続き、それが当たり前になってきて神への信仰が減ってきたのだ。神たちは、それに危機を感じ帰還の魔法を、人間と魔族の間から気づかないうちに消していた。召喚と転移の魔法は残してな。そうすることで、崇められてる異世界人は帰れなくなり、神への信仰が衰えることはなくなった。それもそのはずだ、異世界人がいることで、まだ危機が去ってないのでは、と考える者達がいるからな。そのおかけで、神たちは異世界人から貰える信仰と、直接的な自分たちへの信仰を奪うことに成功した"


「なぜ、神たちはそんなに信仰を得るようにするんだ?」


"神たちにとって、信仰は力だ。それがあればあるほど、地上に干渉する力が増え思うように操作できる"


なるほど、神に元から力がなくとも少ない力で、異世界人を〔神の使い〕と国の重鎮一人にでも言わせれば、民衆の中でそれを信じるものがでてくる。遂には、直接神を崇めるものが出てくる。それが教会などができることによって、経済的にも潤いさらに信仰が増したということか。


"だが例外として、異世界人は神たちからの干渉を受けない"


干渉されなくても、この世界の人に干渉すればそれで異世界人の立場はなくなる。


「どうすれば……」


穂澄の表情が曇る。


''そう言えばお前達はあの木を食べたらしいな"


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