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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
兄弟、巡り合い編
200/200

連載200回記念 初めての喧嘩 前編

連載200回を記念して本編とは関係ありませんが、ちょっとした小話を入れてみました。まあ、200と言ってもキャラ紹介などで200話まではまだですが………。


 これは、とあるカップルの間で起きた小さな小さな事件である。


 「タクミ君のバカ! もう知らない!! タクミ君なんて大っ嫌いなんだからッ!!!」

 

 瞳から涙を零しながら、目の前に居る少年から走り去っていく黒髪の少女。

 

 「あ……」


 自分の元から離れて行く少女を止めようと思わず手を伸ばす少年であったが、その手は少女に届く事なくむなしく空を切った。

 どんどん距離が離れ、彼女の姿が見えなくなるまで手を伸ばし続ける少年。


 「………」


 二人が言い争っていた場所は放課後の学園の廊下であったため、数人の生徒が二人のやり取りを目にしていた。そして、少年が一人寂しく残された後は見ていられなかったのかその場でそれまでは二人のやり取りを眺めていた野次馬はそそくさとその場から離れて行った。


 「………」


 残された少年は虚空に伸ばし続けていた手を力なく下ろすと、その場で思わず俯いた……。


 少年、久藍タクミは初めて恋人と喧嘩をし、その上怒らせてしまった事にどう対処すればいいか分からずその場からまるで石造の様に動けなくなってしまっていた……。







 「ぐす……」


 一方その頃、タクミと喧嘩をしてしまいその場から逃げてしまった少女、黒川ミサキは学園の校舎裏まで逃げて来るとその場で座り込み泣いていた。


 「……ぐすっ…ひっく……」


 少し泣いた後、目元をこすり涙を拭う。

 涙は止まってくれたが、未だに彼女の心は悲しみで満ちていた。


 二人が喧嘩をした理由は些細な…本当に些細な事であった。

 何気ない会話から些細な意見…というたいそれたものでもない僅かな食い違いから始まり、それがどんどん大きくなっていき、遂にはあそこまで大きな言い争いにまで発展してしまっていた。

 自分たちが言い争っていた理由は今にして思えばあまりにも馬鹿々々しい。何故あの程度の事で自分たちはあそこまで激しく衝突することになったのか落ち着きを取り戻した今では分からない。それ位にどうでもいい事からこの喧嘩は始まったのだ。


 「どうしよう……」


 ひとしきり泣いて落ち着いたミサキは自分のした事を心の底から後悔した。

 

 「私…とんでもない事言っちゃった」


 その場で体育座りをして膝に顔を埋める。


 するとそこへ――――


 「あ~らら……予想通りの反応だ」


 聞き覚えのある声がミサキの耳に聴こえて来た。

 顔を上げると、そこには自分の予想通りの人物が立っていた。


 「たくっ…仕方のない親友だなぁ」

 「……レン」


 そこにはヤレヤレといった様子で自分を見ている親友の赤咲レンが立っていた。







 学園の廊下を当てもなくふらふらと歩き続けるタクミ。

 彼の瞳には光が宿っておらず、今も何の目的も無く学園を徘徊していた。


 「はあ……」


 彼の口から吐き出されるのは後悔の念が籠ったため息ばかり。

 まるでゾンビの様に力なく、そして意味も無く歩き続ける少年。彼の全身からは負のオーラが漂っており途中ですれ違う生徒は皆が彼とは眼を逸らす。


 しかし、ここでそんな彼に声を掛ける生徒が現れる。


 「よお、しけたツラしてどうした?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこには自分と同じクラスに所属している生徒である津田マサトが立っていた。


 「どうしたよ…死人みてーなツラして……」







 学園の校舎裏、そこではレンがミサキの隣に座り話を聞いていた。

 

 「一部始終は見ていたけどさ…珍しいね、ミサキがタクミ君と喧嘩なんてさ」

 「……」

 「それで、何で喧嘩したの? もしかしてエロい要求でもされたのかなぁ~」

 「……」

 

 口元を隠しながらニヤニヤと笑って場を和ませようとするレンであったが反応はない。

 

 「(あ~~…こりゃマジで悩んでいるな)」


 普段のミサキならタクミ絡みの事でからかえば中々良いリアクションを返してくれるのだが、まるで無反応。流石に今はおふざけを言うべきではなかったなと内心で反省するレン。

 ここから先は真面目に話を聞く事とする。


 「冗談はさておき、何があったの……?」

 「……」

 「私は途中から二人が何やら揉めていた現場を目撃したわけだけど、喧嘩の原因は何?」

 「それは……」


 中々理由を話そうとしないミサキ。

 その反応にレンは有り得ないと思いながらも彼女へと尋ねた。


 「もしかしてタクミ君が何か酷い事でも言った……まさか別れようとか…なんかそんな事……」

 「!? ち、違う!」


 それまでは反応を示さなかったミサキであったが〝別れる〟という単語に思わず反応して全力で否定をする。事実、ミサキは別れ話を持ち出されたわけではない。


 「でも…そこまで悩んでいるって中々重い内容で喧嘩していたんじゃ…」


 レンがそう言うと、ミサキはブンブンと首を振って否定をする。


 「違うの…喧嘩の内容なんて本当にどうでもいい事なの…気が付いたらあそこまで発展していたっていうか……」

 「ふ~ん…」

 「ただ…私……タクミ君にとんでもない事を思わず言っちゃって……」

 「とんでもない事?」


 レンが聞き返すと、ミサキの瞳には再び涙が溜まり始める。

 

 「ああっ! ちょっ…落ち着きなって!! どうどうどう!!」

 「ぐす…私…馬じゃないもん」




 レンが必死にあやしてなんとか落ち着きを取り戻したミサキは、改めて話を続けた。

 

 「私…タクミ君に酷いこと言っちゃったの。それでどうしようかと思って……」

 「酷いこと……」


 レンの脳内ではミサキがいったいどのような発言をしたのか、彼女の中で色々と想像される。


 ――――『もう最悪! どうしてアンタみたいなつまらない男なんかと付き合ったのかしら!!』


 ――――『このド変態野郎!! 私の胸ばかりチラチラ見やがって! 体目当てで私に近づいたの!? 本当に最低ね!!!』


 ――――『アンタなんてもう知らないわよ! 二度と私に話し掛け、いや視界にすら入ってこないで!! このブタ野郎!!』


 レンの脳内に居るミサキがタクミに様々な暴言を吐いている場面が思い浮かぶが、すぐにそれを否定する。


 「(いや…流石にこのレベルの暴言は言ってないか…)」


 そもそも口調自体違うじゃんと自分の脳内イメージに自分でツッコミを入れるレン。

 だが、ここまで思い悩む親友の姿を見ると中々に酷い事を言ってタクミの事を傷つけたのかもしれない。


 「私ね…頭が真っ白になってタクミ君から離れる間際にこう言ったの……『タクミ君なんて大っ嫌いなんだからッ』…て……」

 「うん…それで……」

 「え…? それでって……?」

 

 ミサキが不思議そうな顔で自分の顔を見つめる。

 逆にレンは何故そんな反応を取るのか解らず首を傾げる。


 「いやだから、その後には何を言ってしまったのさ? タクミ君に」

 「だから…大っ嫌いって言っちゃったの……」

 「………(。´・ω・)ん?」


 思わず間抜けな声を出してしまうレン。

 だが、当のミサキは心底悩んでいる様子であった。


 「どうしたらいいんだろう…大っ嫌いなんて。私を何度も救ってくれた人に対して…」

 「……え~っと~……」

 

 この時のレンの心中はこうであった――――この娘は何を言っているんだろう?


 「あのさミサキ…その『大っ嫌い』以外には何か言った…?」

 「え…ううん…」


 首を横に振るミサキ。

 つまり、彼女がここまで苦しんでいた理由は恋人に対して『大っ嫌い』と拒絶の言葉を投げてしまった事が原因だったようだ。


 それを知ったレンは思わず――――


 「あ~~~………」


 呆れた様にため息を吐きながら、屋外でありながらもその場でゴロンと横になる。


 「え? レン?」

 

 友人の謎の行動に戸惑うミサキ。

 しかし、レンは友人の向ける視線など気にすることなくぼそりと聞こえない程の声量で呟いた。


 「アホくさ~~~」


 なんだか少し真剣に悩んでしまった自分が馬鹿々々しく感じる。

 そして当のミサキは地面に転がる友人に戸惑い続けるばかりであった……。




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