*エピローグ 冬のゆりかご
風の喇叭が鳴っている。
「パパぁ! 変な音がするよ」
小さな娘の声に彼が窓辺に近づく。
タン ト タタン
風の太鼓も鳴っている。
「外を見ちゃだめだよ」
彼は優しく言って、娘を抱きあげた。
「夜は妖魔と、夜出歩く動物達のための時間だ。人の子は眠るものだよ」
「まだ眠くない」
「じゃあお話をしてあげよう。病気のお姫様を助けるために、氷狼を探しに行く王子様の話だ」
それから、
彼はこちらをチラッと見てつけ加える。
「そして、氷狼の呪いにかかった王子様を救う、勇敢なお姫様の話」
やわらかな声が物語を語る。
二人の物語を
やがて小さな寝息が聞こえた。
「やっと眠った」
彼が微笑む。
「おいで、俺のトムボーイ」
彼の唇が優しく重なり
愛していると語りかける。
腕をのばし
彼の温もりを抱き
夜が更けていく。
窓の外では冬の嵐が吹き荒れ
鬨の声が聞こえる。
「狐火を燈せ!」
「風を吹き鳴らせ!」
大いなる冬の主たる氷狼を追い立て
妖魔の狩人達が野を駆ける。
冬はすべてを飲み込み
覆い尽くし
人の迷いを清めていく。
冬は冷たくも優しいゆりかご
来るべき春のために
生命溢れる春のために
――終わり――




