吸血【1】
いつもいつも、私はなんでこんな事を許してしまうのだろう。
立入禁止と主張するロープを超えた先の薄暗い階段の折り返した一段目、屋上に繋がる扉の曇りガラスから照らされる少女、心菜のシュシュで一纏めされた暗い茶髪が、固定されたようにつかまれた私の右腕にサラリと乗っかり、少しこそばゆさを感じた。
「陽向《ひなた》、本当に、するよ?」
「早くして」
顔を伏せたまま心菜の吐息交じりの確認に、被せ、何でもないように催促し、目を瞑る。
ホントに、さっさと終わらせて。
ザラリとした湿った感触が、二の腕に感じた。
「塩……、汗か」
「うるさい」
心菜の独り言に羞恥心が刺激され、反射的に頭を叩く。
「いて、」
少しの沈黙の後、もう一度ザラリと感じた。けれど今回は一度ではなく何度も、回数を重ねるごとに生暖かい液体が腕に溜まって、ツー、と液体が垂れて、ぽたりと靴下に落ちてきた。
そして、次の瞬間。
「いッ───」
右腕にチクリとした痛みが走る。けどそれは一瞬で、腕の中の異物感が少しづつ、薄まってきて、気持ち良さが、ブクブクと溢れるように表に現れてきて、、、頭の中でゾクリときた。
「もう、やめて」
声を上げるが、やめてくれない。またしてもゾクリと脳内が痺れ、、、弾ける。
咄嗟に目を開け、心菜の肩を掴み、揺らす。
けれど、腕をつかむ力が増すだけで、離れてくれなくて、
『怖い』そう思ってしまい。
「離れ、てって!」
思いっきり足を蹴り上げた。
「いっ、────」
心菜が私から離れた所で腕を胸に抱えながら、そのオーバーなリアクションに少し罪悪感を覚えて、私自身を正当化するような言葉を投げた。
「い、言うこと聞かないあんたが、悪いか、ら」
蹴りが脛にあたったのだろうか、立てた片足を抑え、うずくまっている。
「だい──」
大丈夫?そんな言葉が口先まで出てきて、やめた。
一度、浅く呼吸をし、冷えた頭で言い放つ。
「またね」




