デートとお買い物
「デート、デート、刹那っとデート♪」
瑠璃にお休みをもらい、刹那と出かけている奏音は、凄まじく上機嫌だった。
イケメンと美少女の組み合わせというだけで目立つのに、ギャルっぽい美少女の方がスキップなどしているものなので余計に目立つ。
すれ違った男性も女性も大抵振り返ってきた。
「どしたの刹那?」
「いや、少し恥ずかしくて……」
「? こんな美少女捕まえて、何が恥ずかしいと?」
「いや、奏音の容姿に不満があるわけではなく……。なんというか……、バカップルみたいに見えてないかと……」
「? バカになるくらい愛してるんでしょ? 凄く褒められてない?」
刹那は衝撃を受けた。
朱雀の女性の情愛は、思った以上に深いらしい。
「刹那! 前方にクレープ屋さんだよ!?」
確かに、前方にクレープさんがある。
刹那のネットの知識では、甘くて美味しいことになっている。
「刹那……」
「あ、食べるのか?」
ちょっと興味はあったので、刹那も不満はない。
「奢って」
「…………」
だが、刹那の動きが止まった。
「刹那……。ひょっとして、今、金欠?」
「いや、今というか、金を持ったことがない」
「へ?」
奏音がキョトンとする。
そして刹那の境遇を思い出した。
「このまま問題なく勤めて、瑠璃様が初任給をくれたら、人生初の給与となる予定だが」
「っ!!」
大真面目に答える刹那に、いきなり奏音が抱きついた。
ついでに奏音の好感度が上がった(85/100)。
「刹那……。キスしたい」
「え!?」
「でも今はムードがないから我慢する」
「あ、ああ……」
「だから、あんまり可愛いこと言わないで」
「か、可愛かったのか、今の!?」
恋愛初心者の刹那にはレベルが高すぎた。
「とにかく、刹那が奢れないのは、瑠璃のミスね!」
「る、瑠璃様に何を……」
刹那の方がビビっている。
「はい」
と、奏音が財布を差し出してくる。
「?」
「初任給」
「は!?」
「瑠璃には私から言っておくから」
「君と瑠璃様は、一体どんな関係なんだ!?」
刹那が悲鳴を上げる。
「現金はともかく、カード類なんかは使いようがないぞ……」
「そんなのは帰ってから返してくれたらいいよ」
「い、いやしかし」
「でも、これで、今日は刹那が奢ってくれないと帰りの電車賃すらなくなったね」
情愛が深いと評判の朱雀の美少女は平然と言った。
☆☆☆☆☆☆☆
「澄空様。どうされましたか?」
買い物に向かう道中、火野先輩に話しかけられた。
「ちょっと痛くて」
手をブラブラとしてみる。
モデルみたいなお尻なのに、いざ叩いてみると、さすがに天竜というべきか、こちらの手にダメージが入る仕様だったのである。
「でも、後半はお尻の力を抜いてましたよね?」
「抜きすぎて、涙目になってましたが」
天竜院先輩が途中で「これでは罰になりません!?」と力を抜く……というか、自分の内部にダメージが浸透する技を使ったのである。
「天竜を泣かせるとは、さすがは境界の勇者」
「お願いだから、麗華さんには内密に」
これ以上は、好感度云々ではなく、人間的に軽蔑される次元に突入してしまう。
何はともあれ、買い物に行けなくなってしまった天竜院先輩の代わりに俺が買い物に来ているのである。
「ご心配には及びません。透子様の買い物リストは私が把握しています」
「じゃあ、俺、要らなくないですか?」
「指揮をしていただく必要があります」
買い物リストを把握している貴女に、何の指揮が必要と?
「なお、水鏡を澄空様の影に潜ませているので護衛も万全です」
「俺、むしろ邪魔になっていませんか!?」
なんで連れてきた!?
「あ、でも、荷物持ちとかできます」
「我が主の主に荷物持ちなどさせられません。私が持ちます」
ほんとになんで連れてきた?
「買う物をカゴに入れていただくという大事な仕事が」
「ちいちゃい子じゃないんですから……」
もう少し色々できる子だと思うのです。
「……透子様が頭を冷やす時間が必要かと思ったのです」
「あ……」
た、確かに。
「お手数おかけします……」
天竜はスペックの割に残念仕様というが、従者はすこぶる頼りになるようである。
☆☆☆☆☆☆☆
「刹那、楽しかったねー」
「ネットで見た時には、身体を拘束して高速移動するアクティビティの何が面白いのかと思っていたが……」
「いたが?」
「……悪くはない」
「だよねだよね!」
ジェットコースターから降りた後、未就学児のような幸せそうな笑顔で刹那と腕を組む奏音。
あまりに幸せそうな様子に、子供も高齢者も皆振り返る。
「なにこれ。楽しー」
猫のように身体を擦り付けてくる。
確かにこれで浮気を試みるには、命をかける必要がある。
「ショッピングモールの併設施設とはいえ、小規模な遊園地くらいの広さはあるわね」
「中規模、大規模な遊園地はこれより広いのか……?」
ネットでは大きさが感覚として掴めなかったので、刹那は素直に驚く。
「可愛いことを言うなと言ったのに……。キスするよ」
そして朱雀のギャルに理不尽に絡まれる。
「よし! 今日は全部回るぞー」
「さ、三十施設はあるぞ……」
「大丈夫大丈夫。いざとなったら併設のホテルに泊まって連チャンすれば……」
「いや、さすがに帰ろう。瑠璃様に怒られる」
「瑠璃のことはいいって言ってるのに……」
不本意な奏音。
そこで、ふと、刹那の足が止まる。
「刹那?」
ハンバーガーショップの前である。
「…………」
もちろんネットの知識はある。
どんな富裕層でも定期的に欲しくなるというキングオブジャンクフード。
特に、そのポテトは【あのポテト】と言われるほど、ワンオフの性能を誇るらしい。
「入る?」
「い、いや……。さっきクレープを食べたばかりだし……」
でも食べたい。
「いいからいいから♪ お姉さんが奢ってあげる」
しかしお姉さんは財布を持っていない。
「……仕方ないわね。お姉さんが奢られてあげる」
だんだん何を言っているのか、良くわからなくなってきた。
「でも、食べ過ぎないでよ。大人のディナーもする予定だから」
「ポテトだけでもいい」
「……さすがにそれは。バーガーも1個頼んでシェアしよう」
「凄いな奏音。そんな発想、俺には思いつかなかった……」
「キスされたいんだね! そうなんだね刹那!?」
ギャアギャアと(奏音が)騒ぎながら、ハンバーガーショップに入っていった二人。
呆気に取られて見惚れていたうちの一人。スーツを来た男性がポツリと呟く。
「なんて、幸せそうなカップルだ……」




