炎の幻影獣
「マジか……」
このハイクアッドホテルパーティールームの天井はガラスで覆われている。
そのガラスを破りながら、次々に降下してくる影がある。
幻影獣共生派とかいうやっかいな連中のパーティ。
俺のクローンを擁する赤神陣営との邂逅。
嫌な出来事が起きそうなフラグを感じていなかったわけではないが、本当に幻影獣の襲撃を受けてしまった。
ただ、どうみてもBランク幻影獣というサイズではない。
このメンツなので、Cランクなら敵ではないはずだが……。
「オーク……?」
人間の身体と豚の頭を併せ持ったような外見は、ファンタジーなどでみるオークのように見える。
……ただ、全身が炎に包まれている。
炎を操るとか、炎を纏うとか、そういった格好いい感じではなく、現在進行形で体全体が炎上している。
「ファイアオークです!!」
賢崎さんが叫ぶ。
やはり何らかの攻撃を受けてああなっている訳ではなく、あれがデフォルト状態の幻影獣らしい。普段どうやって生活しているのだろうか。
「前川に通報はさせましたが、救援を待つような余裕はなさそうですね。そもそもここに首都の最大戦力が揃っているようですし。我々朱雀にも境界の勇者様の征伐を手伝わせてはいただけませんでしょうか?」
「…………」
どうしましょう、と賢崎さんを見て、貴方が回答するんですよ、と視線で怒られた。
「……よ、よろしくお願いいたします」
◇◆
この戦力なら楽な仕事だ。といった勘違いはすぐに正された。
「……マジか」
パーティ会場でカラドボルグを使う度胸はなかったので、魔弾で撃ったのだが、まったく効いていない。
「ファイアオークは集団ではBランク相当の難敵です。特に防御力が高く、見た目通りですが、炎はほぼ無効化されます」
「今使ったのは魔力的な弾なんですが」
「……少し異常な個体……。いえ、群体ですね。突然変異かもしれません」
言いながら放った賢崎さんの拳で、ファイアオークの腹に大穴が空いた。
……なぜに。
「干渉攻撃倍率は難敵特化なところもありますから」
そういえば、そんなチートスキルも装備してたな……。この人は他にチートが多すぎて忘れてた。
「いかがでしょう。強敵との闘いが宿命づけられた主人公には、私のような干渉攻撃倍率持ちの女性が合っているかと思うのですが」
戦闘中にいきなり口説かれても困るのですが……。
「ちょっと待ってナックルウエポン」
「いや、麗華さんがちょっと待って!」
カラドボルグを装備している。
さすがにこんなものを室内で振り回すのは……。
「大丈夫」
言い残して飛翔する。
ファイアオークの首に直接カラドボルグの刃を当て、そのまま振りぬく。
着地したと同時に、ファイアオークの首が綺麗に宙に舞っていた。
「威力を集中して、カラドボルグで直接首を落とせばいい。幻想剣を使える私達なら簡単なことだよ」
「…………」
簡単なのは貴方だけです。
同じBMP能力を使っているのに、全く麗華さんを参考にできない才能のなさが恨めしい。
「全く……。我が主にそんな曲芸を勧めないでいただきたいな」
さきほど俺のためにハイクアッドホテル製チキン南蛮を再現してくれると約束してくれた天竜が、腰から出る光の尾でファイアオークを締め上げている。
一方で、自らの剣に九尾を巻き付けて威力を高めている。
そして、九尾で身動きができないファイアオークが天竜院先輩に引き寄せられる。
「4式:魔人薙ぎ」
九尾を絡めた剣の一閃で、綺麗にファイアオークの首が宙を舞った。
「こちらならいかがでしょう。我が主」
……すみません。それも無理です。
☆☆☆☆☆☆☆
「火柱!」
地面から立ち上る前川の炎の柱が、火の魔人を包み込む。
だが、まったく効いていない。
「さすがにこれは相性最悪過ぎるね……」
黒木の着火でもおそらく無理だろう。というより、朱雀のBMP能力では無理だろう。
「この幻影獣、偶然とは思えんな。退いた方がいいのではないか?」
「さすがにここで退くと、幻影獣共生派の印象が悪すぎるよ。もう少し粘って澄空悠斗の情報も欲しいしね。お嬢様にはお逃げいただいたけど」
「その瑠璃様だが、本当に護衛に付かなくてよかったのか?」
「本人の希望だからね」
刹那の疑問に奏音が返す。
「見てのとおり朱雀のBMP能力だと厳しい感じだけど、刹那っちは何か良いBMP能力を持ってない?」
「……なくはないが、あのファイアオークの防御力を突破できて、かつパーティ会場で使えそうなBMP能力は難しいな」
すでに近隣にいたBMP能力者がかけつけて、応戦と救助に取り掛かっているが、まだ逃げ遅れた客も多い。
「じゃあ、私がするしかないかな……」
そう言って外に振りぬいた奏音の腕の動きに合わせて、大き目のチャクラムのような炎が出現する。
「近距離……いや、空間設置式のBMP能力か……? 珍しいけど……」
標的であるファイアオークまでの距離は10メートル弱はある。
「効くかどうか以前に、そもそも近づかないと攻撃できな……」
刹那の言葉が途中で途切れる。
蠱惑的なミニスカートをふわりと揺らし、華奢な身体を豪快に動かして、見事な後ろ回し蹴りを自らが生み出した炎の戦輪にぶつける。
「しゅーと♪」
蹴り飛ばされた炎輪はすさまじい勢いでファイアオークにぶつかり、その身体を呑み込んだ。
炎が炎を呑み込むという、俄かには信じられない光景だったが、数秒ののち、黒く焼け焦げた炎の魔人の死体が生産された。
「どう、刹那。凄い?」
「いや、ちょっと待て!!」
刹那が奏音の両肩を掴む。
「せ、刹那……?」
「一度身体から離れた炎を蹴って飛ばすなんて、まるで属性の重ねじゃないか!?」
「そ……そうなのかな?」
「しかも、炎耐性がある幻影獣を燃やし尽くすなんて、あの炎はどうなってるんだ!?」
「え、えと……。まず、後ろ回し蹴り主体の戦闘スタイルなのにミニスカートを愛用するなんてふざけるのか、的な誤解を解くところから始めたいかなぁなんて」
「BMP能力の威力は使用者のテンションに左右される! 戦闘には不向きでも、精神を高揚させるお気に入りの格好なんだろう! それくらいは俺にも分かる」
「そ……そうなんだ。分かっちゃうんだ……」
奏音の好感度が上がってしまった(40/100)。
刹那が道化師の銃を取り出す。
「せ……刹那」
「そのBMP能力。ぜひ、複写をさせてくれ」
「あ、あとで、じゃ駄目かな……」
「今、必要なんだ!」
「そ……それはそうなんだけど……」
黒木と音羽も、炎が全く効かない相手に、少しでも注意を引き付けようと戦闘を再開している。
「複写のためにその銃で撃たれると、結構痛いんだよね? 今、私が闘えなくなるのは困るんだけど……」
「回復するまでは俺が守る」
「っ! ……い、痛くはしない?」
「ああ」
奏音の好感度が上がってしまった(45/100)。
「じゃ、じゃあ、優しくしてくだ……ひゃあああ!」
その決断は少し遅かったようで、ファイアオークが吐く火球が迫ってきていた。
「せ…刹……。ひっ」
刹那が奏音をお姫様抱っこして、滑るような動きで火球をかわす。
「ち……着火……?」
刹那は足に炎を纏って、床をすべるように移動している。
間違いなく、先日、黒木から複写した着火である。
「移動にも攻撃にも使える良いBMP能力だな」
邪気のない笑顔で刹那が黒木を賞賛する。
「う……うん。刹那もちょっと格好いい」
顔を赤くした奏音は刹那にしがみつく。
奏音の好感度が大きく上がった(55/100)。




