93:腹黒王子から残虐夫妻への依頼
話が落ち着いたところで、突如大広間の方が騒がしくなった。
中央の階段からダンスの場に王族たちが降りてきたようだ。
国王と王妃、第一王子に第二王子、第三王子……
彼らを見た参加者の女性たちが「ぜひ一曲」と階段側へ殺到している。
この国の令嬢は積極的なのだ。
王女は全員他国へ嫁いでおり、この場には来ていなかった。
ゼシュテ国の王族は全員、催しの場で非常に社交的だ。
「うぇぇ、第一王子も来てる」
顔をしかめるクレアの背中を、エイミーナが押す。
「クレオ様、ご挨拶に行きましょう。彼から呼ばれたのでしょう?」
「そうだけどさ」
いつも無理難題を押しつけ、自分をからかってくる第一王子に、クレアは苦手意識を持っている。
「ふふ、第一王子殿下はクレオ様のことが、とってもお好きみたいですけど」
「……迷惑だ」
とはいえ、挨拶には行かなければならない。
クレアはエイミーナとサイファスを伴い、王族たちのいる場所に向かった。
普通は夫婦で共に行動するところだが、クレオはエイミーナの、クレアはサイファスの伴侶だ。
訳がわからない状態だが、一応二人とも連れて行く。
サイファスを一人にするのも心配だった。
再び、ティナのような令嬢が現れないとも限らない。
「おお! クレオじゃないか!」
さっそくクレアたちを発見した第一王子が、満面の笑みを浮かべながら歩いてくる。
「うげっ、気づくの早すぎないか?」
「はっはっは、両手に花とはクレオはモテモテだな。羨ましいぞ」
第一王子はサイファスとエイミーナを見て、爽やかな笑みを浮かべている。
だが、全然爽やかではない性格だということをクレアは把握済みだ。
ゼシュテ国の国王は健康そのもので、まだ次の王位継承者は決まっていない。
とはいえ、今いる王子同士の仲は良く、貴族の間では「順当に行けば第一王子が王位を継ぐだろう」と予想されている。
クレア自身もそう思っていた。なんせ、一番腹黒い王子だ。
「クレオ、このあと、私の部屋に寄ってくれ」
「剣術大会に引き続き、またですか……面倒ごとを押しつける気じゃないでしょうね」
「まあまあ、せっかく来たのだから、ゆっくりしていけばいいじゃないか」
含みのある言い方をする第一王子は、食えない表情を浮かべている。
せっかくルナレイヴから王都に来たのだから、もう少し滞在を延長しろと言いたいらしい。
「はあ、わかりましたよ。王子の命令には逆らえませんからね」
「物わかりが良くて助かる。辺境伯もぜひ一緒に来るといい。クレオを一人にするのは心配だろうからな」
サイファスはクレアと違って素直に頷いた。
「はい、そうさせていただきます」
※
エイミーナを馬車まで送り届けたあと、クレアはサイファスと第一王子の部屋に向かう。
すでに従者が待ち構えており、二人をまっすぐ主のもとへ案内した。
「待っていたぞ」
「それで、今回はなんの依頼ですか? 一度、帰らせて欲しかったんですけど」
そうすれば、代わりにクレオに面倒ごとを押しつけることができたのに……と、クレアは頬をふくらませた。
クレアの考えを読んでいたからこそ、第一王子はこうして二人を残したのだろうが。
「近頃、王都で大規模な誘拐事件が多発している」
「ああ、そうみたいですね。スラムの連中が被害に遭っていました。国外の街にも影響が出ているとか……巡回の兵士は何をやっているんですかね?」
「犯人を見つけ出した者は何人もいるのだ。ただ、追っている途中で毎回いなくなってしまう」
「兵士の一部が犯人とグルだったということですか? それとも普通に犯人から返り討ちに?」
「後者だ、相手は相当腕が立つらしい。兵士まで誘拐されて、こちらは形無しだ」
人数を揃えているにもかかわらず、犯人に誘拐されてしまう兵士ってどうなんだ……とクレアは突っ込みたくなった。
「平和ぼけしすぎて、なまっているんじゃないの?」
「それは反省すべきところだ。だが、今はそんなことを言っている場合ではない。被害がこれ以上広がる前に犯人を押さえる必要がある。貴族の娘まで誘拐されているのだ」
「ああ、そういうこと。それで捜査に躍起になっているんですか」
平民が攫われただけなら、ここまで捜査は大事にならない。
不平等な話だが、貴族としての面子を保つため、積極的な捜査に乗り出しているのだろう。
クレアには関係ないが。
「私の手駒を使うかとも考えたが、タイミング良く王都へ来てくれたクレオとサイファスに任せた方が確実だろう。私が知る中で最も強い二人だからな」
たしかに、この案件はもう一人のクレオには荷が重い。
腹違いの弟は頭を使う仕事はできるが、荒事はからきしなのだ。
「微妙なタイミングで王都に来ちゃったなぁ……」
「そういうわけでクレオにサイファス、犯人退治は任せた。詳しくは担当の兵士が知っているから、二人は戦闘にだけ手を貸してくれればいい。見返りは期待していいぞ。本来ならお前達に頼むことではないが、今回は時間がないのだ」
「……はーい」
「御意に」
クレアとサイファスは、揃って第一王子に頭を下げた。




