66:王都の剣術大会
クレアは、懐かしい王都へ帰ってきた。
馬車は土埃の舞う郊外の道から、石畳で舗装された王都の中心部に入る。
きっちりと区画整備された町並みを、馬車はゆっくりと進んでいった。
馬車の中、クレアとサイファスは景色を見ながら仲良く話をしている。
アデリオ以外の他人と長時間一緒にいることが苦手なクレアだが、サイファスと共に時間を過ごすのは、不思議と嫌ではなかった。彼の傍にいるのが心地いい。
「サイファスは、王都へ来たことはあるのか?」
「もちろんだよ。領主ともなれば、王城へ顔を出さなければならないときもあるからね。数えるほどしか訪れたことはないけれど」
「遠いもんな」
ルナレイヴから王都へ来るまで、かなりの時間を要した。
「先に、エイミーナを公爵家へ届けなきゃな。とはいえ、クレオ本人を向かわせると荒れそうだし……俺が男装して行くか。公爵なら、わかってくれるだろう」
「クレア、そんな無茶な!」
「サイファスも来るだろ? エイミーナを保護したのは、一応お前なんだし」
「うん、まあ。行くけど」
途中で着替えを済ませたクレアは、クレオとして公爵家へ向かうことになった。
その間、本物のクレオは愛人と伯爵家へ戻っている。
向こうも真実を公爵に告げられないので、クレアに投げることにしたようだ。
クレアはエイミーナを公爵へと引き渡し、クレオに扮したままでことのあらましを語った。
「……というわけで、エイミーナ嬢とすれ違いがありまして。俺の不手際で申し訳ありません」
やはりというべきか、公爵はクレアとの入れ替わりに気がついているようだが、特に指摘することなく「婚約は継続する」と言い置いた。
一緒に来たサイファスは、黙ってことの成り行きを見守っている。
「大体の事情はわかった。あとは、娘のエイミーナから話を聞こう。サイファス殿にも、面倒をかけたな。それはそうと……」
公爵はちらりとクレアを見た。何かを要求する顔だ。
「クレオ殿は、三日後に開かれる剣術大会に出場されるのでしたな」
「へ……?」
「娘婿として、ぜひ活躍してもらいたい。近頃は体調が悪いせいか、剣の試合は軒並み欠席されておられましたからな。王城で開催される今回の大会では、久々に貴殿の腕を拝めると聞いて楽しみにしていたのです。ぜひ、決勝まで進んでいただきたい」
「……善処します」
クレオとしてミハルトン伯爵家にいた頃、クレアには各地の剣術大会に出るようにと招集がかかることが多かった。
伯爵家を継ぐ身なので、そういった場での活躍が期待されていたのだ。
王都の軍に所属していた経緯もあり、クレアはなるべく大会に出席し、優勝していた。
今のクレオは頭は切れるようだが、荒事が得意ではない。
よって、これまでの剣術の試合は理由を付けて欠席していたようだ。
とはいえ、いつまでも欠席という姿勢は、他の貴族に不信感を抱かせてしまう。
王城で開かれる大会というからには、王族の誰かが出場するのだろう。
さすがに、そんな場所で仮病は使いづらい。クレオも断り切れなかったようだ。
そして今、公爵は全てをわかった上で、クレアに大会に出ることを要求している。
これは「クレオとして大会で活躍し、決勝まで進め」という命令なのだ。
今回のエイミーナの事件。非はミハルトン家にあるので、断ることはできない。
彼の要求を呑まなければならなかった。
(俺としても、今まで自分が培ってきた『クレオ』が醜態をさらすのは避けたいしな)
クレオが弱々しい姿を見せれば、ミハルトン家が侮られてしまう。
ここは、やはりクレアが出るべきだった。




