65:唐突に新婚旅行(サイファス視点)
結局どちらも折れず、かといって事態を放置もできず、クレアとサイファスは揃って王都へ向かうことになった。幸い、今は東の辺境も平和である。
留守の間の事務はセバスチャンが担い、兵の指揮などは、ミハイルやダレンが行うことが決まった。
「ほほほ、新婚旅行ですなぁ。屋敷のことは、我々にお任せくだされ!」
セバスチャンを始めとした執事一同は、大いに勘違いしていた。
「せっかくのハネムーンです。どうぞゆっくりなさってきてくださいね!」
ルナレイヴの皆から過度な祝福を受けたサイファスは、曖昧な微笑みを浮かべていた。
本当は王都へ向かうクレアが心配で同行するだけであって、彼らの言うハネムーンなどではないからだ。
クレアを引き留められず、彼女にすがりついて「一緒に行く~!」と無理に同行を決めただなんて……口に出せない。
でも、クレア一人で王都へ行かせるなんて、絶対に嫌だった。
クレアとサイファスは同じ馬車に乗り、エイミーナはマルリエッタやアデリオらと共にもう一つの馬車に乗り込む。
クレオと愛人も、別の馬車で移動していた。大所帯だ。
ゼシュテ国は、北が山脈で南が海、西が砂漠で東が他国という変わった位地にある。
東の果てから王都へ行くには、いくつかの街を通過する必要があった。
王都までの距離は、馬車で急いで一週間、ゆっくりだと二週間ほど。長い道のりだ。
(その間、クレアと馬車の中で二人きり)
狭い空間で可愛い妻と過ごす日々を妄想し、サイファスは勝手にドキドキした。
クレアは、馬車の中にせっせと酒を持ち込んでいる。
「馬車の中で、お酒を飲んだりして酔わないの?」
「酔わねえなあ。ルナレイヴへ来る日も、しこたま飲んでたけど?」
「……そうだったの!?」
今知った衝撃の事実。
(そういえば、初対面の時、やけにクレア側の使用人たちが、あたふたしていたような)
クレアらしいと言えばらしいので、サイファスは追求することを止めた。
この際、新婚旅行を満喫する心づもりである。
しばらく馬車に乗って進んでいると、隣の領地に入った。
無事に関所を通過すると、その先に大きな川が流れている。
「クレア。来た時は夜だったから、暗くて見えなかったけれど、ここは国で一番広い川なんだ」
「大きくて平たい木の船があるな。上にテーブルや椅子が並んでいるが……あれは、なんだ?」
「船の上で食堂を開いているんだよ。船を住居にしている者もいる。あちらの船では、酒も振る舞っているようだね」
「酒……いや、今は急いでいるし、寄れないな」
クレアが、船に乗りたそうにしている。
ここは、包容力のある夫ぶりをアピールするチャンスだ。
「クレア、帰りに寄ろうね?」
「……本当か!?」
クレアの珊瑚色の綺麗な瞳が輝いている。
(言って良かった!)
サイファスは脳内で両手を広げ、快哉を叫んだ。
新婚旅行、万歳!!




