五十一、遺産
「黙ってその白猫を差し出せば、君達は逃してあげるけど?」
「カナタさんに遺産を奪われそうだから焦ってるですか?です!
そんな口車に乗ると思ったら大間違いなのです!」
「その通りだ。
バロン王国、六獣騎士の名に誓い、絶対に聖獣様とこの扉は死守する」
「にゃは、所で君は誰かにゃ?」
「俺の名はアステリオス。
カナタとグランに救われた元禅鬼だ。
お前とは上で会ったな」
「にゃ?そうかにゃ?
強そうだにゃ〜。ならアスティも一緒に戦うにゃ!」
レオ達三人とアステリオス、そして白猫は黄金の扉の前にて構え、ロキやエキドナを迎え撃つ。
「マナが使えないからって僕を止められるつもりなのかな?
愚か者は嫌いだよ・・・。君達も、僕より先に扉に入ったあの二人も、ガルーの馬鹿も・・・、ああ鬱陶しい」
苛立ちを露わにするロキを前に、まず動いたのは白猫だった。
「聖獣様!?」
白猫は迷う事なくロキに飛び掛かり、鋭い爪を振り抜いた。
巨躯から繰り出される攻撃は、マナの使えないこの空間においてこの上ない脅威と成り得る。
だが、その攻撃がロキに届く事はなかった。
白猫とロキの中間に現れたのは黒竜。
真の姿を見せたエキドナが、白猫の前に立ちはだかったのだ。
鋭い爪はエキドナの分厚い鱗を削り、エキドナの太い蛇の尻尾は鞭のように畝って白猫の横っ面へ振るわれる。
だが白猫は巨躯に見合わぬ軽快さによりそれを躱すと同時、体を捻って後方へ飛び、黒竜となったエキドナから距離を置いて向かい合う。
「どういう事かにゃ?竜化や獣化にはマナを必要とする筈だにゃ」
にも関わらず、目の前のエキドナは実際に竜の姿へと変形して見せた。
その疑問に対し、大したことは無いとばかりにロキが種明かしを始めた。
「簡単な話さ。この黒竜こそがエキドナの真の姿。普段の魔人型・・君達で言う人型は、エキドナの擬人化によって保たれている姿なんだよ」
********
「どういうことだ・・・!?」
扉へ踏み込んだカナタ達を待っていたのは、一本の細い通路だった。
その壁の至る場所が氷に覆われている。
ニケの話によれば、死の穴は地下を流れる星の血ーーーー、所謂、マグマの影響により下層に行けば行くほど気温が高くなるという話だった。
にも関わらず、この極寒。
カナタが首を傾げる中、グランはそれを気にも止めず急かすように言う。
「どうだっていいよ!早く行くぞ!」
遺産を前に興奮しているのか、アステリオスやレオ達を心配してか、カナタも状況を把握したい気持ちを抑え足を踏み出した。
「だな・・・、皆んなが心配だ。急ごう!」
周囲を覆う氷は進む毎に分厚くなり、気温も下がって行く。
息が白く、などのレベルではなく、睫毛、そして耳の先までもが凍るような極寒。
カナタはふと思い出して宝巾着を取り出すと、腕を差し込んで念じる。
「おっ、やっぱりか!」
宝巾着が使えると言うことは、マナが使えるようになっていると言うこと。
取り出した狼の毛皮を纏うカナタの姿を見たグランも、そのことに気付いたようだ。
グランは環境の変化に強いのか、毛皮を受け取ろうとはせず、別の何かを気にしている様子だ。
「どうしたんだよグラン?」
「この先に居る」
「居るってまさか・・・」
それ以上何も答えようとせず、前を見据えるグラン。
数十秒後、それはカナタ達の目に飛び込んで来た。
凍りついた部屋、その中央には一体の巨大な竜の姿がある。
寝そべる蒼白の竜。
荒々しく削られた氷像のような体、その顔や背には何本もの角や棘があり、カナタから見ても分かるほど圧倒的強者の貫禄を漂わせている。
寝そべっているだけで空間自体が凍り付いたような緊迫感を与える氷の竜は、部屋の入り口で固まる二人を見るなり言った。
「待ち侘びたぞ・・・。友よ」
低いその声が振動となり、カナタ達の服や身体を震わせる。
「これが・・・竜神・・・」
声を発したカナタに視線を向けた氷の竜は、呆れたように言う。
「竜神?馬鹿を言うな。
俺は神の残した遺産を宿す者、それだけだ」
「遺産を宿す者・・・?なら遺産はお前の中に・・・」
「その通りだ。早速始めるか?
力を欲して此処へ来たのだろう」
ゆっくりと身体を起こした氷の竜はカナタとグランを交互に見据える。
「カナタ、逃げろ・・」
「グラン・・?何言って・・・」
「こいつには絶対に勝てねぇ。いいから逃げろ!」
全身を震わせるグランが声を張り上げ、カナタの前に一歩踏み出す。
それを見た氷の竜は言った。
「逃げられると思っているのか?」
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白猫と黒竜の壮絶な争いが起こるその横で、レオとネオは同時にロキへ攻撃を仕掛ける。
もう何度目になるだろうか。
ある時は攻撃の悉くを躱され、ある時は攻撃を真正面から受け止められ、その度にロキの掌底を受けて飛ばされるレオ達。
辛うじて致命傷を避けているのか、ロキがわざとそうしているのか、ダメージを負いながらも二人が攻撃の手を休める事は無い。
「アスティも行くです?」
それを扉の前でニケと共に見ていたアステリオスは、一歩を踏み出した。
「ああ、あいつらの闘い方は大体分かったからな」
レオ達がロキへ攻撃を仕掛けるタイミングを見計らい、アステリオスも床を蹴って踏み出す。
ネオが高速の剣撃でロキへ襲い掛かり、隙を見てレオが強烈な一撃を叩き込む。
それを躱して反撃に出るロキの背後から、アステリオスの大剣が振り下ろされた。
先ほどまでのアステリオスとは次元の違う速さと強さにて振るわれた剣は、完全にロキの虚を突き脳天へ叩き付けられる。
弟子を殺されたその怒りを込められた一撃は、ロキの身体を沈み込ませて床へ薙ぎ倒すと、小さな身体を壊れぬ床から跳ね返らせ高く宙へと舞い上がらせる。
一瞬何が起きたのか分からなかったレオとネオが、ロキが宙へと浮き上がったことに遅れて気が付くと、その更に上空には既にアステリオスの姿があり、再びロキに向けて大剣を叩き付けている所であった。
「お前ら、行くぞ!!」
アステリオスは剣で捉えたロキを下で待ち構えるレオ達に向け打ち出す。
ロキは腕を交差させて剣を受け止めはしたものの、その落下自体を止める手立ては無い。
レオとネオは自分達に近づくロキへ向け、渾身の力で剣を振り抜いたーーーー。
一方、エキドナはそんなロキの姿を遠巻きに眺めつつ、白猫の猛攻を受け続けている。
速さで圧倒的に上回る白猫はエキドナの攻撃を躱して攻撃を繰り出すも、そのどれもが分厚い鱗に邪魔をされ、致命傷を与えるに至らない。
マナを使えぬ事に苛立つようにその攻撃が苛烈さを増す中、床に転がるロキは何事も無かったように起き上がる。
「もういいや。お前ら全員、死ねよ」
*******
「何度も言わせるな。此処へ来た者に竜神の遺産を与える為に俺は待っていたのだ。
逃す訳にはいかんと言っている」
「だから!分かんねぇならハッキリ言ってやんよ!!
んなこと言ったって俺たちじゃどう転んでもお前には勝てねぇの!
お前から遺産を奪う力がねぇんだ!
遺産を託せねぇんなら、お前はまた此処で誰か来るのを待つしかねぇ。
だったら逃がしてくれたっていいだろうが!!
そうだ、なんなら扉の外にロキって名前の強えのが居てそいつも遺産が欲しいらしいから、連れて来てやるよ!
それでどうだ!?」
元はと言えば遺産を手に入れる為にやって来たカナタ達。
どういう理由かカナタ達は逃げたがり、氷の竜は力を託したがる。
暫く続いた口論の末、誤解が解かれることとなった。
「俺に勝てない・・・?何故勝つ必要があるのだ?」
「何故ってそりゃ、お前の中に遺産が眠ってんだろ?ならそれを奪う必要があんじゃねぇのか?」
「何故奪う必要がある?それにどうやって奪うと言うのだ?」
「そりゃ、遺産を受け取る資格があると証明するためにだな・・・・、どうって・・・、どうやるんだ?」
カナタは困ったようにグランを見る。
「さぁ・・・?ブッ殺せばいいんじゃねぇのか?」
「殺す・・・俺をか・・・・?」
全員が質問を質問で返した時、何か話が噛み合っていないことに気がついたカナタは、話を整理する為、氷の竜へ核心を質問をした。
「ちょっと待て、じゃあ俺たちはお前と闘わなくていいのか?
どうやって遺産を受け取ればいい?」
「闘う必要は無い。
そもそも遺産を受け継いだ俺に勝てる訳が無いだろう。
あの扉を開け、此処へやって来たお前には遺産を受け取る資格がある。
遺産は俺が渡してやるから、此処へ来てジッとしていれば良い」
そう言いながら氷の竜はグランを見て顎をしゃくり、自分の目の前へ出て来いと示す。
「ーーーオレが?何でだよ、扉を開けたのはカナタだぞ?」
「いや・・・・いい。
悔しいが、力を使うには霊核ってのが必要なんだろ?
ソフィーやグランの話を聞く限り、俺の霊核に余裕は無い。
それに、物質変形ですらまだまだ発展途上なのに新しい力なんて身に付けても使えっこねぇ。
二兎を追う者は一兎をも得ず、だよ」
「いやだけどーーーー」
「だけどじゃねぇ!
今の俺が力を受け取ってもロキには勝てねぇつってんだよ!
いいからグランが受け取れ」
「良い心構えだが黒髮の青年よ、お前は扉を開けた時、既に遺産の欠片を授かっている。
だから俺はそっちの小僧に来いと言ったのだ」
突如として氷の竜から語られる思い掛けない事実に、カナタは困惑する。
「俺が力を?どうやってだ?」
「扉の手形に手を押し当てた時、魔法陣が発動しただろう。
魔法陣が発動し終えた後、ゼンマイ仕掛けが扉を開く仕組みだ」
カナタは崩れ落ちた彫刻の魔法陣を思い出す。
あの時、遺産を?だがーーー、
「けど俺には霊核が足りてねえんじゃ・・・」
「あの魔法陣に込められて居たのは霊核そのものだ。
極々一部に過ぎんが、あの扉には俺の霊核を他者に授ける力が篭っていた」
「霊核を?」
「そうだ。
俺が竜神から授かったのは力や加護などでは無く
霊核そのもの。
竜神の遺産を他者に授ける時、必要な霊核を能力と共に受け渡すのが普通で、誰しもが遺産を受け取れるのはこれが理由だ。
だが俺の場合、竜神から授かった遺産は霊核そのもの。
よって俺が他者に授けられるのは、霊核のみだ」
「霊核のみ・・・?なんだよそれ、霊核だけ増えたって何の役にも立たねえだろうが!
まさか、この土壇場でそんな使えねぇ遺産に当たっちまうかよ・・・」
ロキを退けられるような力を欲している今、まさか受け取れるのが霊核だけなどとは思っていなかったカナタは、期待外れの内容に不満を爆発させる。
しかしグランは正反対の表情をして見せた。
「いや、違うぞカナタ」
「違う?何がだ?」
「霊核と一緒に能力を受け取っちまったら、その能力が使えるようになるだけだ」
「新しい能力が無条件で覚えられるんだからスゲェじゃねぇか」
「だから違うんだ。
自分が持ってる能力を使い熟せてねぇのは、自分の訓練が足りてねぇからだ。
逆に訓練すると能力が強くなんのは、練度が上がるからで、練度が上がるのは特訓すると霊核が少しずつ増えるからなんだよ。
特級魔法も加護も種族スキルも全部同じだ。
つまり、霊核が増えるってことはーーーー」
「今持ってる力が強まるってことかーーー?」
「ああ」
だとすれば下手な力を受け取るより、確実に強くなれる。
何も感じはしないが、自分の力も強くなっているのだろうか?
カナタは自分の体を見回し、そんな事を考える。
そんな中、氷の竜の目前にまで歩み出るグラン。
「一つ言っておくが、黒髮の青年よ。
この小僧に遺産を授けた直後から百六階層の環境が大きく変わる。
いいな?」
「変わるってーーー!崩れたりしねえよな!?」
「百六階層の壁が壊れることは無い。
ただ百六階層から上が少し暑くなって、マナが使用可能になるというだけだ。あの仕組みは俺のマナと古代魔法陣を使って作動させていたのでな」
まるでグランに力を授けた直後、自分が消えてしまうかのような言い分の氷の竜にカナタは引っ掛かりを覚えるものの、レオ達の命が危険に晒されているやも知れぬ今、これ以上時間を無駄にするわけには行かぬと、決心した。
「分かった。構わないからやってくれ」
「良し。
我が名は極氷竜アーガス。
竜神アルデバランより賜りしこの力をお前に託そう」
アーガスは眼下に佇むグランへ大きな手を翳すと、眼を閉じる。
直後、アーガスとグランは光に包まれたーーー。
「うお!!」
十秒程で光が治った時、其処には特に変わった様子の見られないグランと、宙に浮かぶレオ程の大きさとなった蒼い竜の姿があった。
「お前は・・・・、アーガスか?」
グランは目の前に浮かぶ小さな蒼い竜のを見て問いかける。
「うむ、その通りだ。我が名は氷結竜アーガス」
アーガスは宙に浮いたまま腕を組んで胸を張りそう答える。
声は高くなり、先程までとは打って変わって、威圧感も無くなっている。
「氷結竜・・・さっきは極氷竜とか言ってなかったか?」
「これが俺の真の姿だ。竜神の霊核を授かる以前の姿に戻ったまでのこと。
言っておくが、今は力を温存するために縮んでいるだけだぞ!
これから忙しくなりそうだからな!」
「これから忙しくってどういうーー」
「それよりお前ら、いいのか?
外では今、マナが使えるようになっているぞ?
この部屋の時の流れは外よりも少し遅い。急いだ方がいいかもな」
********
黄金に輝く扉の前、白猫とエキドナの勝負に決着がついていた。
白く美しい毛を赤く染める白猫と、地に伏して動かぬエキドナ。
力の拮抗していた両者の勝負に決着をつけたのは他でもないロキだった。
決まらぬ勝負に苛立ったロキは、黒竜エキドナの頭部を蹴り落として地に叩きつけると、硬直して痙攣するエキドナの手足が動かなくなるまで何度も何度も踏み付けた。
「使えない雑魚は早く死ねよ、バカ」
動かなくなったエキドナを見たロキは壊れた玩具に興味を失ったように、次の獲物を見定め地を蹴る。
姿を消したロキが現れたのは、レオとネオの前。
レオ達は既に蓄積したダメージにより、ロキの動きに反応することも出来ず、ロキの蹴りを受けると成す術なく黄金の扉に激突して血を撒き散らし、丁度ニケの立つ位置に崩れ落ちて気絶してしまう。
それを見て杖を握る手に力を入れるニケに、ロキが迫った。
「ほら、僕に攻撃するチャンスだよ?特級魔法だけあって、完全に取り込むにはまだ時間が掛かりそうだ。
ほら、その杖で攻撃してごらんよ」
「逃げろ、お嬢ちゃん」
馬鹿にしたように頬を突き出し笑うロキの背後から現れたのはアステリオス。
ロキは舌を打ってアステリオスの剣を掴み取ると、ニケ目掛けてアステリオスを投げ飛ばす。
「駄目じゃないか。せっかくその子に能力を取り戻すチャンスをあげてたのにさ。
強くなったと言っても、その程度じゃ前と何も変わらない。
調子に乗って僕の邪魔をするなら、君から殺すよ?」
「お前は、俺に取り戻されたシュライの力が欲しいはずだ」
「はぁ、舐められたものだ。確かにあの力は欲しいが、竜の遺産と比べればどうということは無い。
僕の邪魔をすれば殺す」
ロキは其れを示すようにアステリオスの元へ歩みよると黒い角を掴んで振り回し、壊れない床へアステリオスを何度も叩きつける。
顔面を真っ赤に染めるアステリオスを見たニケは、振り上げた杖でロキを止めようとするが、ロキは其れを避ける素ぶりも見せず振り替えると、手に持ったアステリオスを投げ捨てニケに詰め寄る。
「あぁ・・・、攻撃受けちゃったねぇ。
だけど、そんなんじゃ僕から力を取り戻すことなんて出来ないよ。
攻撃ってのは、こういうのを言うんだーーー!」
ロキはニケの頭を鷲掴みにすると、それを引き寄せ、ニケの鼻へ膝を叩き込む。
一撃で潰れて変形するニケの顔を眺めるロキは、嬉しそうに笑うと、ゆっくりとニケを引き離し、もう一度膝を叩き込む。
「ぎゃふ!!」
「あはぁああ!!いい声だ!!
僕から攻撃しちゃったら能力を奪った意味が無いんだけどさ、もういいよ。
今は竜の遺産と、散々僕の邪魔をしてくれた君達を痛めつけるほうが何倍も大切だ。
君から奪った力は返してあげるからね!」
「ぎゃふ!!あぁぐ!!」
「これで僕がこの階層から出たら、特級魔法は君に戻ってるはずだから楽しみにしててよ」
「ぎゃ!!がぁ!!ぎゅ・・!!」
顔面は潰れて晴れ上がり、ニケの面影など遠に消え去っている。
それでもニケは、師匠であるラミスから譲り受けた杖を決死に握りしめて離そうとはせず、僅かに開いた目でロキを睨みつけ、杖の先端をロキに振るい続けていた。
「生意気だなぁ・・・。もっと痛めつけないと分からないみたいだ」
「や・・・やめろ・・・!!もう、勝負はついているだろう!!」
ニケにトドメを刺そうとしたロキへ叫ぶのは、ニケ同様にボロボロの姿で倒れていたアステリオス。
「あれ?まだ生きてたんだ。
ほんと、これだから中途半端に強くなるもんじゃないんだよ」
ロキはニケを鷲掴みにしたままアステリオスへ振り替えると、ニヤケた顔でニケに攻撃を加え続ける。
そこへ、白猫の巨大な腕が振るわれた。
「ーーーーなんだっ!?」
なんと、その腕には雷が纏われていた。
そロキは百六階層の仕掛けが解けたのかと自分のマナで確認するが、やはりマナを使えるような様子は無い。
にも関わらず、白猫を覆う雷は次第に出力を増し、全身に広がって行くのだ。
白猫は紫紺の瞳に倒れたニケ達を映すと同時、雷速にて地を蹴り、ロキの背後へと現れる。
「ーーがっ!!?」
強力な電撃を浴びたロキは今までに見せた事の無い表情で攻撃を受けると、呻き声を上げて倒れこみ、そして立ち上がる。
その目には、本気のグランを前にした時とは比にならぬほどの焦りが浮かんでいた。
消えては雷光が光り、光っては消える。
マナの使えぬこの階層にて、何故か雷を纏い操る白猫。
ロキは空中で避ける術も無く猛攻を受け続け、感電により体を焼き焦がされて行く。
その時、黄金に輝いていた扉が石のように光りを失い崩れ落ちる。
何が起きたのかと白猫が視線を逸らしたその一瞬を、ロキは見逃さない。
攻撃が止んだ瞬間、体を捻って白猫の顎を蹴り上げると、白猫は強力な一撃により目の前を眩ませて地面に落ち、同じくバランスを崩してロキも落ちる。
そして一瞬早く次の行動に出たのはロキだった。
地を蹴り、頭を振る白猫の上部へ現れるとその頭部を蹴り落とす。
白猫は再び体勢を崩されるも、雷を纏い、それを放電して全方位を守りつつロキの攻撃を凌ぐ。
それにより追撃の手を緩めたロキは、あることに気が付き、笑った。
「あはぁ・・!マナが、使える!!」
考えられるとすれば、カナタ達が扉の中で何かをした可能性。
竜神の遺産を手に入れたのかもしれない。
だがロキにはマナが使えるようになったことの方が重要であった。
この状態なら白猫に負ける理由は無く、掌底を一撃当てるだけで白猫を自分の手下にすることも出来る。
何より、遺産を手に入れたカナタ達が現れれば、それを奪ってしまえば済むのだから。
「突然雷を使った時には驚いたけど、もう君にチャンスは無いよ」
ロキは雷を纏い迫る白猫の攻撃を正面から受け止めると、闇を纏った腕を白猫へ叩き込む。
「痛いなぁ・・・。
君を操るのは簡単だけど、少し痛い目に遭ってもらおうか」
ロキの体にあった、雷を受けて火傷したような傷は忽ち再生されて消え、それをみた白猫は自らの体に二本の尾を向けて放電する。
エキドナとの戦いで負った怪我が癒えて行くのを見たロキは、放電途中の白猫へ指を向けた。
「黒槍」
中空にて形成された六本の黒き槍。
それはロキの指の動きに合わせて白猫の四肢、そして二本の尾を貫くと、傷口から白猫の体を侵食するように広がり、自由を奪ってしまう。
ロキは動かぬ白猫へゆっくりと歩いて近づくと、二本の尾を引き千切って投げ捨て、脚を折り、透き通る紫紺の瞳のへ腕を突き刺す。
片目を失った白猫は声も挙げず残った方の瞳で近づくロキを真っ直ぐに見据えている。
「止まれ・・・」
その大剣に纏われたのは黒い炎。
巨大な黒い炎は放電現象を起こしつつ雷鳴を轟かせている。
「・・・君もしつこいなぁ」
アステリオスは蹌踉めきつつも、黒き雷火・・・、不破雷火を纏った剣をロキへ振り抜く。
剣速はこの上なく遅く、カナタでも避けられそうなほどだ。
ロキはそれを腕の甲で受け止めーーーーーー
「なっーーーー!」
られなかった。
アステリオスの剣はそこに何も存在せぬかのようにロキの腕を切り落とすと、その先にある首を目掛けて進み続ける。
突然の出来事に驚き目を見開いたロキは、首に迫る剣を辛うじて躱すと、アステリオスから距離を置いて睨みつけた。
「なんだ、それは?」
「さぁな」




