手に入れた未来
3話連続投稿してます。
主人公視点
荒牧君とお別れをして、王子とも決別した。私はまた一人。でも寂しくはなかった。王子がいなくなったおかげで私を遠巻きにしていた人たちが少しだけ歩み寄ってくれた。大雅もフラフラとしながらそばにいたりする。
私はもう海を自由に泳ぐことはできないし、歌もあのころより上手くは歌えない。でも、あのとき人になって生きていたよりも苦しくない。もう溺れるような思いをしなくていいと思うと息が楽にできる気がした。
「今帰りか」
下駄箱で靴を変えていると後ろから大雅に声をかけられた。
「あ、うん。大雅も帰り?」
「まあな」
「じゃ一緒に帰ろ」
「おう」
「ね、寄り道しない?」
「どこに?」
「アイス食べたい」
「じゃあ駅前か、ショッピングモールか」
「あのね私いいところ見つけたの。商店街のはずれにあってさ」
「へえ」
「何味がいいかなー」
「アイスはバニラ一択だな」
「私はチョコとかストロベリーがすき」
「女子ってそういうの好きだよな」
「ガリゴリ君もすきだよ」
「あれ食うと夏って感じがする」
「わかるー」
たわいない話をしながら歩く。大雅の身長は見上げるほど高い。そのぶん足の長さも違うのに歩くペースは一緒なのだ。こういうささいな部分を発見するたびに胸がきゅっとする。
その大きな手をいつか繋いで歩いてみたい。
ふと視界に入ったそれを見て思ってびっくりした。これじゃまるで私、大雅が好きみたいじゃないか。
大雅ははじめて私に手を差し伸べてくれた。見た目は怖いのにいつも優しくて、あたたかい。妙に息苦しいところもないし、必要以上に気を使ったり使われたりすることもない。
私の話にくしゃっとした顔で笑ってくれる。今も、そう。
「……好きだなぁ」
「お?」
「え! 私今何を……」
「俺も好きだ」
「おおお!?」
「なんだその驚き方、うける」
「うけるじゃないよ! え、今なんて?」
「お前が好きって言ったから」
「あ、いいや、その、あ、アイスがね!?」
「ふうん。俺はお前が好きだよ」
「え!? ええええ!?」
「驚きすぎ」
そこまで言って、パニックになっている私に大雅はさらに爆弾を落とす。
「お前が生まれる前から、な」
私はぽかんとしてしまう。冗談には聞こえない。けど。
「なんつってな。俺は今のまぬけな顔のお前が好きだよ」
きっとその答えがすべてなのだと、心のどこかで思った。
「……じゃあ、手、繋いでくれる?」
それが私の未来だ。
握られた手のひらは、今まで感じたなによりもあたたかくて、愛おしいと思った。
二人を包む夕日は赤く赤く、あたりを染めて、ついでに私までも染めていったのは、きっと大雅にも気づかれてた。
──悲劇の結末をたどった人魚姫はこうして、幸せになりました。
おしまい。
ここまでお付き合いありがとうございました。