最終話
《王都の大聖堂》
瘴気により長年苦しめられていたこの国はロザリモンドという稀代の魔術師によって救われた。
聖女を探し出し、その番である神の御使いを召喚したのだ。
その功を讃え、王は退位し彼女に女王の地位を与えると宣言した。
ただし、王の血脈を継ぐために彼女の婚約者だったダリオン殿下が王配として彼女を補佐することになったのだった。
瘴気の収束、女王戴冠、女王と王配の婚姻という3重の喜びに民は歓喜した。
戴冠式は瘴気の収束から一週間というタイトな日程ながら、王配ダリオン殿下が采配を振るい、その準備は滞りなく進んでいった。
「ロザリモンド様がダリオン殿下をお好きなのは有名だったから、良かったわね。」
「しかし、ロザリモンド様から逃げ回っていたと有名だったダリオン殿下も、こうもお変わりになるとは。」
「婚約されてからは、見違えるように政務に軍事に積極的になられていたようだし。聖女探しにも一役買ったみたいだな。この国も安泰だな。」
沿道の人々が喜びに湧き上がる中、戴冠式と結婚式を終えたロザリモンド女王と王配ダリオン殿下が馬車に乗ってパレードをする。
にこやかに手を振る終始ご機嫌なダリオン殿下と緊張にこわばるロザリモンド新女王陛下が仲良さげに言葉を交わしていた。
今日この日、ロザリモンド・バルタインはロザリモンド女王として永遠にこの国を担っていく事になったのだった。
「ローザ。手を振ってあげて。みんな祝福しているよ。」
にこやかな微笑みでロザリモンドを見つめるダリオンに連日の徹夜の疲れは見えない。
「ダリオン、魔王は神の御使いではないわよ。ばれたら?」
魔王召喚がバレたら天使だとか煙に巻いて、国外に逃げてやろうと思っていたロザリモンドだったがまさかダリオンがこんな大嘘を吐くなんて思いもよらなかった。
「ローザ、あんなに神々しい男はいないさ。それに禍々しかった魔王城も今や白亜の城として評判も良い。我が国の観光資源となりうるんだ。魔王城より神の城のほうが通りが良いだろう。」
そうなのだ。魔王は荒れ果てていた魔王城を綺麗にしてコリンヌと住み始めたのだ。
ロザリモンドの命により赴任したと言って。
そして、付近で暴れていた魔獣を家畜として片っ端から城に集めたおかげで周辺の魔獣被害がなくなったという。
長年魔獣に命を脅かされていた付近の住民が今や彼らを神と崇めているのも無理はない。
「民をたばかるなんて。」
だが、騙すのは。
「数百年前、勇者は何をした?そのせいで何が起こった?また新たな勇者が現れないように情報操作をするのも施政者として大事な役割だよ。」
そうなのだ。勇者が魔王を封印したせいで、瘴気のバランスが崩れてこの国は大迷惑を被ったのだ。
二度とこんな事がおきないように名前を変えるのがベストだということはわかる。
だからと言って。
「でも、私が女王なんて。」
ロザリモンドが皆を騙して王権を簒奪したようではないか。あの時サインなんてせずに逃げておけば。『針千本』が裏切らなければこんなことには。己の失態を恨む。
「王冠が重くて逃げられないだろう。」
ダリオンが悪い笑みを浮かべた。その翳りのある美貌に少しどきりとしながらもロザリモンドは女王としてこの国に縛り付けられることになる未来を憂えた。
「ダリオン。」
ダリオンが怖すぎる。もう駄犬でも忠犬でもない。狼ですらないわ。私の可愛い駄目ダリオンを知能を兼ね備えたフェンネル級の魔物にしたのは誰?
「ロザリモンドはいつでも俺から逃げられるだろう。我が国はまだ弱小国。他国がロザリモンドを狙ってくる可能性もある。だが、王ならば他国も手を出せまい。」
ダリオンが理詰めで考え出したわ。誰か『ツクヨミ』のお馬鹿なダリオンを返して―。
でも、どうしてなのかしら。このダークなダリオンも素敵って、ときめいてしまう私がいるのよ。
それもこれもダリオンが格好良いのが悪いのよ。
ロザリモンドの心の声は届くことなく、彼女は王宮という監獄で推し活第二弾を楽しむことになるのだった。
ダークダリオンという新たな沼にハマって。




