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6話 アンノウン もう一つのアナザーストーリー

ゴールデンウィーク、

俺は吉良の家で数学と物理の集中講義を行なっていた

もちろん、タダではない。


報酬は40万円、プラス、ストラディバリを1か月、無償レンタルが条件だ。

吉良は家に余っている商品券で良いか?と聞くので、金券ショップでの手数料を考え、2割増で引き受けている。



実際教えてみると、吉良は中々頭が良く、理解も早い。


実家は元々外食チェーンで成功した家で、現在ではそれを売却して、

不動産業をしている。


奴が建築科にいるのもそう言う理由だ。


今日のプログラムを終えた吉良が、

愛用のストラディバリで

サーン・サーンスの「水族館」を即興で演奏するのを聴きながら、


お勧めだと言うコロンビアコーヒーをいただく。

奴の話では、最近、実家が始めたビジネスで。

世界でも上位5%の豆を使っているとの事だった。


これまで飲んだどのコーヒーよりも美味い、

その浅煎りのワインの様なコーヒーを飲みながら

音楽とも合う良いチョイスだ。もしここで吉良が情熱大陸を演ったら、

ブーイングするところだと思う。笑


リビングからテラスに出ると、水の流れる音がする。


家の目の前の山からは滝が落ちて来ており、ロッジ風の家がキャンティレバーで

滝に向かってリビングが張り出すデザインだ。


かつてバブル長者の別荘だったモノを、吉良の父親が買い取ってリノベーションしたらしい。

前のオーナーがフランクロイドライトのファンだったかは不明だが、

俺から見てもここは

滝のもたらす、複合周波数をはじめとして

フォーカスをコントロールするのに、都合の良い条件が整っている。

おそらく、これから吉良は化けるだろう。


親父サンいろいろ、分かってらっしゃる。

丹羽哲郎みたいな大物感は伊達じゃない。


庭をしばらく散策してから、吉良にいとまを告げると、

ホンダGB250クラブマン・スクランブラー改にまたがり、Bellのモトクロスヘルメットを被る。

この1996年式のGBは、バイクショップのショーウィンドウに飾ってあったモノを“発掘”した。

唯一の弱点とも言える単気筒エンジンの振動対策として、自作のフレームダンパーを取り付けてある。


川沿いにバイクを走らせ、県道を抜ける。

リニモの終点・八草駅からグリーンロードに入り、県立大学を越えると、

自宅目掛け、一気にアクセルを開いた。


家のガレージのシャッターを開けると

白のアルファロメオジュリア2000GTV

とBMW 320iツーリングが見える。

俺はアルファの後ろのスペースにバイクを停めた。


リビングでは、

母の渚がさっきとは別のストラディバリを手にして頬擦りしていた。


「小林旭の昔の名前で出てるでしょ?

あれ、私の方が先なのよ」


……と、本人は軽くネタにしている。

そういう母だ。


やれやれだぜ。


俺と目が合うと母はニヤリと笑った。

何かリクエストはないかと言うので、

ラストタンゴインパリをリクエストする。


バイオリンを聴きながら、

俺は吉良の家から貰ってきた上位5%の豆で、

二人分のコーヒーを淹れる。


母の好物のキングドーナツも添えた。


すると、どこからともなく猫が現れ、

さも当然だという顔で、

母にご相伴している。


元々、母はフクロウが欲しかったらしく,

近くのペットショップにも行ったのだが

エサが冷凍ネズミとわかって、

保護猫を飼い出した。


白い猫だ。

名前はヘドウィグ。


人見知りで、

いつも窓辺から外を見ている。

きっと警備員のつもりなのだろう。


母の猫だが、

なぜか父にだけすりすりする。


唯一の問題は、

全身をくまなく舐めた直後の舌で、

父の顔をぺろりとやることだ。


親父は、ヒャッとのけぞる。


それでもヘドウィグは、

何事もなかったように、

父の肩に乗る。


俺的には、


母がストラディバリにお茶をこぼさないかと同じく

彼が無垢材の階段で爪研ぎをしないかが、

少し気になっている。


その時、

俺の携帯が鳴った。



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