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外伝 アギト再び(改)

7月の八ヶ岳山麓。

山梨県北杜市にある、自然に囲まれたロッジだ。

庭には、等間隔に植えられた欅が、風に葉擦れの音を立てている。


建物は角ログハウスだが、

いわゆる「山小屋然」とした素朴さはない。

カリフォルニアの都市郊外に見られる、

クラフツマンスタイルの住宅だった。


屋根勾配は緩く、

深い軒が大きく張り出している。

広い屋根付きテラスには、四角錐型の柱が規則正しく並び、

全体は自然の中にありながら、どこか人工的な洗練を帯びていた。


そこへ、

ワインレッドのアウディのSUVが、砂利をほとんど鳴らさずに停まった。


降りてきたのは、

マスタードカラーのポロシャツを着た如月蜜と、

赤いノースリーブシャツにサングラス姿の赤井彗。


赤井が玄関脇のブザーを押す。

ほどなくして、扉が静かに開いた。


現れたのは金髪の若い女だった。

年の頃は二十代前半。

白いワンピースが、山の光を柔らかく反射している。


赤井が何か言おうとした瞬間、

彼女は、かなり流暢な日本語で言った。


「コンニチハ。

『アギト』ガ、オマチシテマス」


蜜と赤井は、四十畳ほどあるリビングへ通された。


B&Oのスピーカーから、

シベリウスのヴァイオリン協奏曲が、低く澄んだ音で流れている。


革張りのアルネ・ヤコブセンのエッグチェアに腰掛けているのがアギト。

その向かいにも、同じエッグチェアに身を沈めた金髪の女性がいる。


そして、部屋の中央には――

人が中に入れるほどの巨大なアメジストドームが鎮座していた。


紫水晶の内部では、

同じく金髪の美しい少女が静かに瞑想している。

呼吸は浅く、規則的で、

外界との境界線が曖昧に見えた。


アギトはヘンリーネックのTシャツ姿。

首元には、エメラルドのチョーカーが下がっている。


三人は姉妹だった。

揃って、現実離れした美貌を持っている。


アギトは蜜たちに席を勧め、

何でもないことのように言った。


「二キロ先くらいから、蜜の波動を感じてた」


そう言って、口角をわずかに上げる。


「ロングノーズでFFのアウディか、

曲がらない、止まらない。

そこがいかにも赤井らしい、

だが俺もやめられない止まらない、カッパえびせんは最高だ。笑」


「意外と涼しいところね」

蜜が言う。


「ああ、標高が100m上がると気温は0.8℃下がる。

この辺りの標高は1000m位だから、東京よりは7℃から8℃低い筈だ。」


「ああ、紹介するよ、俺の恋人達さ」


最初に出てきたのが長女のアンナ。

次がリュドミラ。

そして、アメジストドームの中にいるのが、マリアだ。


三人ともウクライナ人で、

カトリック教徒だという。


赤井が、遠慮なく聞いた。


「博物館から盗んできたんですか?

そのアメジストドーム」


アギトは、鷹揚に頷いた。


「まさか、

パイカルじゃあるまいし、南米で鉱山を丸ごと買ってな。

掘り出して、売っぱらった。

日本円で二億で買って、五億で売れたよ。

この家は、その上がりで建てた。

コスパ最高ォ、だろ」


赤井が肩をすくめる。


「何と言うか……相変わらずですね。

美女三人とも、先輩の彼女ですか?

まるで デレク・フリント じゃないですか」


「戦争で家を焼け出されてな」

アギトは悪びれもせずに笑った。

「バルトワインを買いに行ったついでに、引き取った。

ウチもカトリックなんでね」


蜜が、アメジストドームに視線を向けた。


「でも、こんなアメジストがあるって、どうして分かったの?」


「ああ……『アガルタより愛を込めて』じゃないが」

アギトは軽く天井を見上げる。

「シューマン共振とやらが、分かるようになってね。

ほら、ユリ・ゲラーも油田を探り当てたろ?

まあ、似たようなもんさ」


「まあ……呆れた」

蜜はため息混じりに言う。

「でも、あなたのことだから、

『空中元素固定装置』を地底から持ち帰ったって言われても、信じるわ」


アギトは肩をすくめた。


「ところで、世捨て人の俺に、

国会議員の先生が、何の用だい?」


「ええ」

蜜は真っ直ぐに言った。

「安芸元首相の頭に、潜ってほしいの」


「安芸サン?

確か、先日撃たれたな」


「亡くなってから、それほど時間が経っていない。

脳内には、まだ記憶が残っているはずよ」


「なるほど」

アギトは淡々と続ける。

「ヘミシンクじゃ、

死ぬってのは肉体から魂が離れて、

別の波長世界へ移動するって習ったがな」


「そう。でも、脳には残留思念が残るわ。

それが崩壊するまでのタイムリミットが、あと二日」


「……安芸さんは、党内にいるスパイについて、

決定的な証拠を掴んでいた」


「なるほど」

アギトは一拍置く。

「グローバリスト側か、人民解放軍側か,日米地位協定かは知らんが……

どちらにせよ、

国家レベルのリスクだな」


「ええ」

蜜は静かに頷いた。

「それは同時に、

あなたの“退屈な休暇”の終わりでもあるわ」


アギトは、楽しげに笑った。


「悪くない。

愉快じゃないか。

So beautiful!」




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