表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/110

8-2 嵐の七夕

 二日後の七夕。


 彦星と織姫の再会を邪魔するかのように、空は朝から厚い雲に覆われていた。


 駿は果奈と並んで帰り道を歩いている。


「この辺って、七夕の日あんまり晴れないよね」


「言われてみればそうかも。小さい頃、毎年短冊に願い事書いて笹に吊るしてたけど……大体曇りか雨だった気がする」


 果奈は空を見上げた。


「ねぇ駿。もし今、願い事するなら、何お願いする?」


 少し考える。


 本当なら――

 「果奈との関係がずっと続きますように」

 そう言うのが1番しっくりくる。


 でも、それじゃ当たり前すぎる気がした。


 だから、わざと軽い調子で言う。


「果奈の弁当が美味しくなりますように、とか」


 言った瞬間。


 果奈がぷいっとそっぽを向いた。


「……冗談だって」


「ふーん」


 明らかに拗ねている声。


「明日、お弁当作ろうと思ってたけど……やっぱりやめようかな」


 その言葉に、胸がぎくりとする。


「ごめん。言い過ぎた」


 少し間を置いてから、続ける。


「でも、果奈の弁当は普通に食べたい」


 気づけば言葉が少し真剣になっていた。


「果奈が頑張って作った弁当、ちゃんと食べさせてほしい」


 最後だけ、なぜか敬語になる。


「……お願いします」


 果奈がちらっとこちらを見る。


 そして、小さく笑った。


「そこまで言うなら、作ってあげてもいいけど」


「ほんと?」


「でも今回は私一人で作るから、美生と一緒の時みたいに上手くいかないかも」


「大丈夫だよ」


 即答だった。


「今までいっぱい練習してたじゃん」


「ほんとに?」


「うん。もし失敗してても分かるよ」


「何が?」


「果奈が頑張ったってこと」


 少し沈黙。


 それから、果奈がふっと笑う。


「じゃあ、駿をギャフンと言わせるくらい美味しい弁当作ってみせるんだから」


「楽しみにしてる」


 七夕の願いは、もうすぐ叶いそうだった。




 ——その少し前。 


 美生はスーパーで買い物を済ませ、袋を手に外へ出た。


 すると、人だかりが出来ているのが目に入る。


 気になって近づくと、そこには大きな笹が立てられていた。


 子供たちが短冊に願い事を書いて、楽しそうに吊るしている。


 そういえば、今日は七夕だった。


 少し迷ってから、ペンを取る。


 短冊に書いたのは、


『将来の夢が叶いますように』


 そこまで書いて、手が止まる。


 まだ余白が残っていた。


 しばらく考える。


 頭に浮かんだのは――


 駿君と果奈ちゃんの姿だった。


 少しだけ迷ってから、もう一行書く。


『みんなが幸せでいられますように』


 これでよかったのか、少しだけ考える。


 けれど、それ以上は何も書かずに短冊を笹へ吊るした。


「……叶いますように」


 小さく呟き、その場を離れる。


 袋を持ち直し、駿君の家へ向かった。



 夕飯を食べて、結ちゃんに勉強を教えたあと。


 帰り道を歩いていた。


 夕方にはなかった風が、急に強くなる。


 そして、ぽつりと雨粒が落ちた。


 気づいたときには、雨脚は一気に強くなっていた。


 急いで家へ向かるが、すぐに服は濡れてしまう。


 風も雨も、どんどん激しくなる。


 まるで――


 笹に吊るした願いを、空が拒んでいるみたいだった。


 濡れた髪を押さえながら、空を見上げる。


 厚い雲の向こうに、星は見えない。


 強い風に揺れて、どこかで笹が大きく鳴った気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ