3-10 掲げた目標へ
朝のミーティングが終わると、駿は顧問の今江先生に呼び止められた。
「今江先生、三日も休んでしまってすみませんでした」
頭を下げる。
グラウンドの隅で風が鳴っている。
「大会が近いんだから、体調管理はちゃんとしろよ」
低い声。
だが叱責というより、確認に近い。
「……でも、元気そうでよかった」
その一言で、胸の奥に残っていた重さが静かにほどける。
「ありがとうございます」
顔を上げると、コートの白線がいつもよりはっきり見えた。
ストローク練習の後、ラリーの相手は1年の内田祐希。
中学生の時、全国大会手前まで行くほどの実力者だった。
「浅村先輩、復帰したばかりですけど、いつも通りで良いですか?」
「ああ、頼む」
鋭いフォアがクロス深く突き刺さる。
速い。
半歩遅れた。
ラケットの先が空を切る。
「くっ……」
「少し落としますか?」
「そのままでいい。もう1本」
呼吸を整える。
高く跳ねるトップスピン。
踏み込みを一瞬早める。
体幹を残したまま振り抜く。
ボールはネットの上を薄く越え、相手コートのラインを舐めた。
ラリーが続く。
一往復。
二往復。
三往復。
足の裏がコートを掴む感覚が戻る。
白線の距離感が、正確に見える。
最後はセンターへ叩き込んだ
「最後の浅村先輩、凄かったです。休んでる間、練習してました?」
「してない。ただ……今日はやけに身体が軽い」
「そうなんですか。て事は休んでいた間、何かあったんですか?」
祐希が核心に迫ろうとしたとき、祐希の肩に手が置かれる。
「祐希、試合形式いくぞ」
「え、今からですか?」
「いいから来い」
連れていかれる直前、隆二が一瞬だけこちらを見る。
それだけで十分だった。
個人戦、続いてダブルス。
自分と隆二は自然と同じ位置に立つ。
一年の頃から変わらない並び。
「前、任せた」
「任せろ」
ポイントを重ねる。
だが、甘いリターンが一本
そこから、ミスが積み重なる。
結果は三勝二敗。
上位二ペアには及ばなかった。
「細かいミスを無くせば、勝機はある」
「確かに…そこを少しでも無くしていけるように互いに頑張ろうな」
互いの拳を軽く当てる。
音は小さい。
けれど確かだった。
帰り道。
「最近一緒に帰らなかったの、早川と帰っていたかからなのか?」
「……うん。黙ってて悪かった」
「別にいいって、仲睦まじいんだな」
胸の奥が、少しだけ痛む。
からかわれているのに、否定できない自分がいる。
隆二が空を見上げた。
「正直、怖かった」
「お前が来なくなって。次に会ったら、どう接すればいいか分からなかった」
風が吹く
「でも、名前呼んだら返事したでしょ」
小さく笑う。
「あれで救われた」
それ以上はいらなかった。
「ありがとな」
「さっき、俺が果奈に告白して、かっこいいって言っていたけど、互いに話せない雰囲気の中、話を切り出した隆二もかっこいいと思うよ」
「揶揄いの続きか?」
「いや。本気で思ってる。あの空気で話を切り出せるの、俺には無理だ」
二人で笑う。
いつもの距離。
でも、どこか一段近い。
「また明日」
「ああ。絶対メンバー入ろうな」
夕焼けがコートの白線のように地面を染める。
影が並び、少し重なり、やがて分かれる。
それでも、伸びた先は同じ方向を向いていた。
負けた悔しさも、
揺れる感情も、
全部抱えたまま。
それでも進む。




