3-9 ライバルであり、最高の友
次の日の朝。
目覚ましが鳴る十分前、駿は自然と目を覚ました。
◆◆◆
カーテンの隙間から差し込む朝日が、静かに部屋を照らしている。
天井を見上げながらゆっくり息を吐く。
昨日と同じように、胸の奥に淀みがなかった。
ある程度の準備を終わらせて朝食を食べていると、結が眠そうにしながら起きてきた。
「兄さん、おはよう。今日は部活行くの?」
「流石に今日は行かないとな。部内戦も近いし」
「気持ちは吹っ切れた?」
「吹っ切れた。改めて心配させてごめん」
「ほんとそうです。兄さんは元気が一番なんだから」
口調は相変わらず棘があるけど、その棘の奥にある優しさくらいは分かるようになっていた。
そして、全ての準備を終わらせて家を出た。
学校に着き、部室に入ると、そこには隆二の姿があった。
ロッカーは近く、普段なら何気なく話しながら準備をする距離だ。
けれど、互いに言葉を発することが出来ず、静かな空気だけが流れる。
ロッカーを開ける音。
ラケットケースを持ち上げる音。
そんな些細な音だけが部室に響いていた。
やがて隆二が先に準備を終える。
そして――。
深く息を吸う。
その姿を見た瞬間、何か俺に話そうとしているのだとすぐに分かった。
「浅村」
そう呼ばれた瞬間、思わず肩に力が入った。
「どうしたんだ、隆二」
隆二が勇気を持って話しかけてくれたのだから、無視しちゃ駄目だと思い、何もなかったかのように返事に応じた。
「実は、浅村が早川の手を引いて走って行くところ見ていたんだ……なのに、浅村の力になれなかった。挙句にその前は2人が付き合ってるのに、自分勝手な頼みをしてしまって……」
隆二が頭を下げて謝ってきた。
「本当にごめん」
その姿を見て、少しだけ目を閉じ、この数日を思い出す。
怒りもあった。
苛立ちもあった。
けれど今となっては分かる。
隆二も苦しかったのだ。
「謝る必要ないよ。そもそも俺が隆二に言ってなかったから、知らないのはしょうがないし、俺もあの時は感情的になりすぎた。ごめん」
自分にも非があったと認め、同じように頭を下げて謝った。
数秒の静寂が流れ、隆二と同じタイミングで顔を上げ、目が合う。
その瞬間。
どちらともなく笑っていた。
「あースッキリした。浅村とずっとギスギスした関係で居るのは無理だわ」
「俺もだよ」
不思議だった。
ほんの少し前まで話しかける事すらできなかったのに、今は自然に会話ができている。
たった数分前まであった壁が、いつの間にか消えていて、本音を言葉にすることは大切なのかもしれない。
そう思った。
話を続けていると、隆二がとある質問をしてくる。
「話変わるけど、一つ聞いていいか?」
「いいけど、何?」
「どっちから告ったんだ?」
俺と果奈が付き合っていると知ったとはいえ、隆二は果奈に告白しようとするほど、想いを寄せていたのもあり、そこら辺の事情は気になるみたいだった。
「俺から告白した」
「そうなんだ……」
隆二は少し遠くを見る。
その横顔には、まだ消えきらない感情があり、きっと果奈への想いは本物だったのだろう。
だからこそ簡単には整理できない。
それでも。
隆二は前を向こうとしている。
俺にはそう見えた。
「告白する時、緊張したのか?」
「めちゃくちゃした」
思い出すだけで苦笑いが出る。
あの頃は毎日が勝負だった。
「色々と苦労があったんだな。全然、俺よりもかっこいいじゃん」
「それ、揶揄って言ってる?」
「普段だったら冗談でもそんなこと言わねーよ」
会話が盛り上がっていると、隆二が練習の時間が迫っていることに気づく。
「そろそろコートに行くか。久々の練習だからって、手は抜かないからな」
「ビシバシ頼む」
二人で部室を出た。
朝の空気が気持ちよく、コートへ向かう足取りは軽かった。
数日前まで、立ち止まっていた。
悩んで。
苦しんで。
逃げて。
それでも。
ようやくまた歩き出せる。
空を見上げると、青空がどこまでも広がっていた。
その景色が少しだけ眩しく見えた。




