1-1 全ての始まり
※長編作品となりますが更新頑張ります。よければブクマお願いします!
「早川さん……俺と、付き合ってください」
放課後の教室。
上野高校2年4組には、もう俺たちしか残っていなかった。
夕陽が窓から差し込み、机の影が長く伸びている。その静けさの中で、浅村駿の声だけが、震えながら落ちた。
早川果奈は、一瞬だけ目を見開いた。
それから、茶色のポニーテールを揺らしながら、ゆっくり俯く。
彼女は何も言わない。
けれど、机の端を掴む指が、かすかに震えているのが見えた。
教室の時計が、かちり、と音を立てる。
その一秒一秒が、やけに長く感じられた。
——逃げたい、と思った。
でも、ここで言葉を引っ込めたら、きっと一生後悔する。
「……入学式の日、覚えてる?」
自分でも驚くほど、声は静かだった。
「道に迷ってた俺に、早川さんが声をかけてくれて。
あの時から、ずっと……気になってて」
息を吸う。
「気づいたら、好きになってました」
沈黙が落ちる。
夕陽が、彼女の横顔を照らしていた。
——長い、長い数秒のあと。
「……付き合っても、いいよ」
小さな声だった。
けれど、確かに届いた。
顔を上げた果奈の頬は赤く染まり、少し困ったように微笑んでいる。
でも、その瞳は、まっすぐ自分を見ていた。
「実は……私も、浅村君のこと、前から気になってた」
「……本当?」
「うん」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
世界が、少しだけ明るくなった気がした。
「ありがとう。よろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくね……駿」
名前を呼ばれただけで、心臓が跳ねる。
こうして、自分と早川果奈の恋は始まった。
——この時は、まだ知らなかった。
この選択が、
誰かを傷つけ、
大切な関係を壊し、
それでも戻れなくなる未来へ繋がっていることを。
夕陽に染まる教室で、
静かに、けれど確かに、物語は動き出していた。




