第100話 五階層
彼らはそのまま弱い魔物の群れで連携方法を確認した。
さすがはベテラン冒険者だけあって、『烈風の斬撃』のメンバーはすぐに動きを飲み込み、トーリが声がけをしなくても行動を先読みして攻撃できるようになった。
「遠距離担当がいると、こんなにも戦闘が整うのだなあ」
大剣使いのマグナムがしみじみと言った。
「そうだな。ちょっと強い魔物にも試してみたくなってきた」
「わたしも。下に行こうよ」
デリックとリシェルはやる気だ。イザベルも「まだ余裕がある」と頷いた。
というわけで、五階層に降りてみた。
斥候のリシェルとトーリが身を潜めながら進み、前方の敵を確認する。
リシェルは魔物の集団をトーリに確認させると、そのまま背後に下がって、後方にいる仲間のもとに戻るよう合図をする。
すぐに呼ばれると思っていたメンバーたちは、リシェルに「なにがあった?」と尋ねた。リシェルはトーリに「魔物たちが変なの、わかった?」と尋ねた。
「はい。ゴブリンの中に剣を持っているものがいましたね。粗末ですが防具もつけていました。それに、木の杖を持った身体の大きなコボルトもいました。あと、コボルトのアーチャーらしきものも確認しました」
トーリの話を聞いたメンバーは、驚いた表情だ。
「よく見ているわね、その通りよ。この階に出るコボルトは、ナイフ持ちか、たまに当たりが出ても片手剣持ちなんだけど、弓を持っている変異種がいたよね。ゴブリンも棍棒ではなくて剣を持っている個体がいたし、なにより危険なのは木の杖を持ったやつ、つまり魔法を使うメイジコボルトがいる点よ。戦闘力が上がっているから、ゴブリンとコボルトだからといって油断はできないわ。遠距離攻撃をしてくる魔物が、五階層なのに出てきているのはとても異常なことだから、他にもおかしな現象があるかもしれない」
シェリルの話を聞いたデリックは「ああ、異常なことだし、かなり手強そうな敵だな」眉をひそめた。
「俺たちは防具もそれなりにいいものをつけているから、コボルトの矢やメイジコボルトの魔法ではかすり傷もつかない。これは中層でも耐えられる防具なんだ。だが……この先はトーリには危険すぎる」
パーティーリーダーは、トーリもリスも軽装であることを気にしているのだ。ダンジョンに入場する冒険者は、最低でも軽い革の鎧くらいは身につけているのに、いくら身軽な斥候でもシャツにパンツにベストはありえない。
けれど、トーリは「問題ありませんよ。これもダンジョン中層にまで対応している、魔法が付与された服なんです」と笑った。
「おしゃれを追求するマギーラ・ジェッツさんが作ったので、普通の服に見えちゃうんですけどね、とんでもない防御力があるんです。ベルンもですよ。可愛いんですけどかなり堅い装備なんです」
「す!」
リスが『その通り』と胸を張り、おしゃれなベストを見せつけた。
「ちなみに値段もとんでもなくて、金貨がざくざく消えちゃいましたよ、あはは」
「冒険者歴がまだ浅いのに、マギーラ・ジェッツの防具を手に入れたのか!」
マグナムが驚いて大きな声を出したので、リシェルに「しっ!」と口を塞がれてしまった。
「なので、狩っちゃいましょうか。僕が爆発矢の大きいやつを打ち込んで、その後に連射します。爆発が収まったら近接でヤりましょう」
にこにこしているが殺意の高いエルフである。
「す」
リスも『俺の剣で首狩り祭りだぜ』と可愛いのに殺意が高い。
「爆発矢の大きいやつって、もっと威力が大きいのを射てるの?」
「はい。ゴブリン相手だとオーバーキルになっちゃうので、小さめの爆発に抑えてました」
「うわあ……」
「せっかくだから、本気の攻撃をしてみるのもいいかもな。ダンジョンの壁は、隠し扉がある場所でもなければ崩れないから大丈夫だ。ただし、トーリは後衛に徹して前には出るな」
「わかりました。最初は後ろ専門でやります」
「すー」
リスは少し不満そうだ。
というわけで、トーリの作戦が採用されることになった。
角を曲がると、トーリは魔法矢を放つ。
先ほどまでの矢と違い、先端がソフトボールくらいの大きさの光の玉のような矢だ。
「シッ!」
射られた矢は尾を引いてまっすぐに飛び、後ろで杖を構えていた大きなコボルトの胸に当たった。
その途端、周りを巻き込んで派手に爆発した。十五、六匹の大きな群れは、その一発で壊滅状態になり、身体の一部を吹き飛ばされた魔物たちは、もう立ち上がることはできなかった。
「連射矢は必要なさそうですね」
トーリは弓をおろした。
「うわあ、なんてえげつない威力なんだ」
マグナムが呆れたように言った。魔物が次々と力尽きて、魔石を残して煙と消える。リシェルが群れに近寄り、まだ息のある魔物に丁寧にとどめを刺して回った。
「リシェルさん、すみません。僕とベルンでお掃除すればよかったですね。魔石を拾っておきます」
トーリとベルンは、砂浜で綺麗な貝殻を拾う子どものように、楽しそうに魔石を拾った。
「あっ、これは大きいね。魔法使いのコボルトの魔石かな?」
「すっ、すっ」
「本当だ、ゴブリンの魔石も大きくて綺麗だね。やっぱり普通のゴブリンとは違うんだね」
「す」
「うん、透き通ってるね。質がいいみたい」
トーリの手のひらに乗った魔石は形が良くて色も美しく、倒した魔物たちの強さを物語っていた。
「トーリ、今の矢はトーリの全力なんだな?」
デリックが、念の為に尋ねる。
そして、返ってきたのが「いえ、もっと大きくできるんですけど、それで攻撃するとゴブリンが飛沫になりそうで……そんなのを吸い込んじゃったら嫌でしょ?」という言葉だったので、彼は無言で頷いた。
魔物たちは、杖や剣、弓を落として消えたので、「これはいい値段で売れるかもな」とマジカバンに収納すると、彼らは先を目指した。




