第101話 六階層
トーリたちがそのまま五階層を回って、いつもならいないはずの魔物たちをなんとなく連携しながら倒していると、いくつかの他のパーティーと出会った。
皆、異常な現れ方をする魔物を減らそうと、力を合わせている。
「デリックたち、火力に余裕がありそうだな。ここは俺たちがやっておくから、『烈風』は下に行ってくれるか?」
浅い場所で活動している『山の雄叫び』のメンバーにそう頼まれて、『烈風の斬撃』のリーダーはちらりとトーリの顔を見たが、やる気満々のにっこり笑顔とリスのサムズアップを返されたので「そうだな」と頷いた。
「では、俺たちはこのまま地下六階への階段まで近道を進むぞ。念の為、イザベルはトーリのフォローを続けてくれ」
「了解した。トーリはわたしが守る」
試験中なので、トーリは冒険者ギルドからの預かりものなのだ。パーティーの名にかけて、無事に地上に帰さなければならない。
「ここは安全地帯だ。この先何が起きるかわからないから、武器と防具が万全か、調整をしろ」
「了解」
六階への階段で、念の為に装備の点検をする。
『烈風の斬撃』が使っている武器は、浅い層の魔物相手に刃こぼれなど起きない高品質なものではあるが、ここで生き延びるためには慎重すぎるほど警戒しながらの行動が必要なのだ。
もちろん、彼らのマジカバンには予備の武器が用意されてる。
トーリも半透明のナイフの刃をよく確認した。
「す」
リスも『武器ヨシ!』と指差し確認をした。
準備が整い、彼らは階段を降りて六階に足を踏み入れた。
「『烈風』か!」
四人組のパーティーに声をかけられた。特に怪我はしていない様子だが、体勢を整えるために階段に来たのだろう。
「ここはどんな具合だ?」
「この階にミツノオークが出ているから、気をつけてくれ」
「まさかのミツノかよ、ヤバいな……」
デリックは難しい顔をした。
トーリは『ミツノですか? 三つの角があるオークってことは、かなり強い魔物のはずです』と思い、イザベルに視線で尋ねた。
「そうだな。ミツノオークは九階に単独で現れる魔物だ。そして、ヒトツノ、フタツノ以上に手強い。ちなみに十二階層では群れで来る」
(やっぱりそうですか)
イザベルが情報を提供してくれた冒険者に「単独か?」と尋ねた。美人エルフと話した男は少し頬を赤くしたが、さすがにここではデレデレするわけにはいかないようで「それが、ゴブリンを引き連れていたんだ。連携らしきこともしていたし、かなりおかしなことになっているらしいから気をつけろ」と真面目な答えが戻ってきた。
「俺たちが戦ったのは、ミツノとゴブリンが六匹の群れだ。しかも、ゴブリンは剣を持っていた」
「剣持ちゴブリンか。厄介だな」
「浅い層専門でやってるパーティーだと、危険な相手だ」
本来ならば、五階までは棍棒を持ったゴブリンと剣を持ったコボルトしか出ないし、浅い層の手強い敵はせいぜい普通のオークなのだ。
デリックはメンバーに注意喚起する。
「ミツノの取り巻きがゴブリンだけとは限らない。メイジコボルトと組まれたらかなり手強くなるぞ。それに、ミツノオークが複数現れることも覚悟して進んだ方がよさそうだな」
「了解」
「トーリ、ミツノオークはかなり固いぞ。第一射の火力を上げろ」
「了解」
トーリも笑顔を消して答えた。
六層では、ミツノオークが多く現れた。
トーリは遠慮なく強火力の矢を放ったが、一撃で倒すことはできなかった。
「さすがはミツノですね」
額に三本のツノを持つオークは、顔面に爆発矢を受けてさすがにふらついているものの、倒れることはない。だがダメージはあるため、前衛の攻撃で苦もなく倒すことができたので「トーリ、ナイスだ」と褒められた。
「弓使いがいると助かるな」
「そうね。雑魚が全部片づくから戦いやすいし」
肝心のミツノオークは倒せなくても、爆発に巻き込まれたゴブリンたちはほぼ全滅する。たまに革の鎧を着たゴブリンが混ざっていて、そのような個体は忍び寄るリシェルにサクッと倒されていた。
「弓の先制攻撃は、このくらいの火力でいいですか?」
「おいおい、まだ上がるのか?」
「威力は今のままですが、二発連続で打つことができます」
「いや、二発はいらないな。問題なく倒せているし、このまま進もう」
「わかりました。怪我をしている人はいませんよね?すぐに治せるので言ってくださいね」
一瞬、間があったが、マグナムが「そういやトーリは治療院でも働いているんだっけか。なんでもできる奴だなあ、末恐ろしいわ」と言うと、なぜかイザベルが「そうなのだ、トーリは素晴らしいエルフの若者なのだ!」とドヤ顔をした。
「す!」
リスまでドヤ顔をしたが、モフモフなので可愛いだけであった。
六階を回ってせっせと魔物退治をして、幸いなことに異常な個体は再生しないことがわかったので、さらに下まで行くこととなった。
「おそらく、中層でやってるパーティーが上に上がって来ているだろう。これはスタンピードではなさそうだが、一気に掃除をしておいた方がよさそうだ」
デリックの話によると、このまま放置すると魔物の発生がランダム化してしまい、使いにくいダンジョンになる恐れがあるらしい。
ダンジョンは冒険の場所ではあるが、魔石やドロップアイテムといった貴重な資源をもたらす宝庫でもあるのだ。ミカーネンの都市もダンジョンができてから急速に発展したが、それも領主のダンジョン管理が上手くいっているからである。
「念のために、階段で装備の点検だ。それから七階に行くぞ」
「了解」
デリックは「初めてのダンジョンで、七階まで潜る奴なんていない。それができるのは、実力があり、装備にきちんと金を注ぎ込んできたからだ。子どもなのにたいしたものだぞ」とトーリを褒めてから、「だが、慣れていないのに深く潜るのは危険が伴う。ここからは絶対に前に出ず、イザベルから離れるなよ」としっかりと釘を刺したのであった。




