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09  王子は自分の色に染めたがる(1)


レオトニールやルフィナの父ロペス侯爵が調べても、犯人らしき手がかりが全くつかめず、ルフィナは父が万全の警備体制を敷いた屋敷に帰った。


帰る事には、勿論レオトニールとロペス侯爵の間で一悶着あったのは言うまでもない。


レオトニールに帰るなと何度も言われた。

しかし、あまりに頻繁にレオトニールが塔に来るものだから、結婚前に傷物にされてはと心配した父が押し切った。


二人の間にどんなやり取りがあったのかは知らないが、ルフィナとしてはホッとしていた。


日に日に濃厚になるキスとレオトニールの目のギラつきに、乙女の警報装置が鳴り響いていたので、脱出できて本当に良かった。


帰宅前夜は、レオトニールが部屋に来て駄々をこねまくっていた。

「ねぇ、本当に僕を置いて帰るつもりなの?」


「君は、僕とロペス侯爵とどっちが大切だと思っているの?」


「君がここから去った後、僕は一人っきりになってしまうんだよ?」


「もしかして、ここから出たい理由は他に会いたい奴がいるのか?」


ルフィナは辛抱強く質問の一つ一つ、丁寧に答える。


最後の方はアルカイック・スマイルを崩さず、目だけは半眼になったが耐久した。



帰宅後、ロペス侯爵の尽力により、ルフィナの回りは何事もなく日々平穏に過ごせている。

ただ、変わった事は数ヵ月に一度だったレオトニールと会う日が頻繁になったと言う事だ。


既に王立学園に在籍しているレオトニールは、かなり忙しい筈なのにわざわざ時間と作ってルフィナに会いに来た。

レオトニール曰く、

『ルフィナを補充していないと勉学も仕事も捗らない』と・・・


少々引く意見だけれど、公務も頑張って遅い時刻に来るレオトニールには感謝している。

でも、やはり学校に行けないのは不満だった。


他の貴族の令息や令嬢は13歳の年には学校に通っており、自由に町にも出掛けている。


しかし、ルフィナは15歳になるのに、屋敷で家庭教師の教えを受けているのだ。

そのうち父から『皇太子妃教育も陛下から打診されているから、受けないか?』と言われ、『前向きに検討する』と言った翌日からそれは始まった。

未だ婚約者候補のままだと言うのに、王太子妃教育も始まってしまったのだ。

ただ、それが婚約を了承したと、返事になった事には気付きもしなかった。


この王太子教育を受けると承諾した次の日に、レオトニールが屋敷に来て、王立トリスタン学園の入学を許してくれた。


「学園に行く前に、社交界デビューがある。これには絶対に出席して欲しい」


社交界へのデビューは、小さい頃から憧れていた。だから、これに欠席する気はない。

「はい、必ず出席します。それと・・学園の入学を許可をして頂き、本当にありがとうございます」

この時、レオトニールが口の片端だけを上げて笑ったが、ルフィナは気にもしなかった。



社交界デビュー。

両親はこの日の為に、有名なデザイナーに発注しドレスを作ってくれた。身に付ける宝石も全て用意してくれたのだ。


自宅に来たデザイナーに、ドレスの色の希望を言うと『既に濃いグリーンの布地に銀の刺繍が入っているのを考えている』と言われ、ルフィナの意見は全く聞いて貰えなかった。


宝石店の店主にも『宝石の色も形も決まっている』と言われた。

有名なデザイナーに、素人が口を挟んではいけないのだと思い、素直に黙ってプロの言う事を聞いていた。


その日に乗る馬車もいつも乗る馬車ではなく、豪華な馬車を用意したと父が言う。


ルフィナは会社員時代の事を思い出した後は、お金の使い方に『もったいない』と言う意識が生まれていた。

だから、『そんなにお金をかけなくてもいいから、いつもの馬車で送って欲しい』と父にお願いしたが、その話をすると躱されてしまった。


当日のエスコートも父に頼んでいるが、その話もはぐらかされてしまう。


その横でマリーが含み笑いをしている。レオトニールの手下だと分かってからも、マリーはルフィナの侍女だ。レオトニールの言う事ならば命掛けで使命を遂行するが、その使命はルフィナの命を守る事も含まれている。

使命の大体が、ルフィナの情報をレオトニールに伝える事なのだが・・

とにかく、幼い頃から信頼していたマリーを罷免する事はルフィナには出来なかったのだ。


そのマリーが手に取っているドレスやアクセサリーは、どれを取ってもレオトニールに直結する色だったが、どこまでも鈍感なルフィナは当日まで知らずにいた。



社交界デビューの当日。重い雲に覆われた灰色の空。遠くで雷も轟いている。

ルフィナは朝からマリーを筆頭に侍女軍団に頭から足の先まで綺麗に洗われ、マッサージまで受けている。

マッサージの施術中に、屋敷がざわめき慌ただしくなる。


何が起きたのだろう?と思ったがマリーがにこやかにルフィナの意識をマッサージに引き戻すように声をかけた。

「お嬢様、お背中のマッサージを念入りにしたいので俯せにお願いします」

マリーに言われるまま俯せると、グッと力を込めてマッサージをしてくれる。気持ちが良くて張り詰めた神経がほや~とほどけた。


その後着替えとヘアアレンジとメイクが終わる。


普段化粧をしないルフィナは、鏡に写った自分を二度見する程美しくなっていた。


「どうですか?」

「・・・マリーって凄いのね。こんなに私を綺麗に変身させてくれるなんて」

「・・お嬢様は本当にお可愛らしいです。今日はきっと数あるお嬢様方の中で一番輝いていらっしゃるでしょう」


マリーも身内バカになっている。

でも、マリーに褒められて自信が付いたルフィナの背筋が伸びた。


身支度が整いの父が待っているシッティングルームに行く。

ドアを開けるとソファーに座っているレオトニールが見えた。

こちらを振り返って私を見るレオトニール。

彼は目を瞪ったまま、動かない。


ルフィナはルフィナで、どうしてここにレオトニールがいるのか分からずに戸惑っていた。


「殿下におかれまして、ますます麗しゅうございます」

ルフィナが我に返り挨拶をしても、レオトニールは座ったまま動かない。


両親もレオトニールが全く動かないものだから、目配せをしてお互いにどうしたものかと動揺していたが笑顔を作り続けていた。


ルフィナに至っては、せっかくマリーが付けてくれた自信が一気に下降して、伸ばした背筋と肩が下がっていた。


「これはダメだ」

やっとレオトニールから出た言葉に、両親共々固まった。


「殿下? 我が娘の姿の何がダメなのでしょうか?」

父の笑顔はもはや鬼瓦の形相でレオトニールに尋ねている。


「今日の社交界のデビューは中止しなければいけない。こんな姿を他の男に見せるなんて、危ない。それにあの笑顔がいけない。誰だ、ルフィナに似合うドレスを送ったのは・・僕か・・。そうだ、今日は仮面舞踏会に変更だ。否、例え仮面を着けても彼女の色香が漏れてしまう。他の男がどっと詰めかけるだろう。その場合の排除は仕方ない。手段を選んでなどいられない・・・」


父はレオトニールがルフィナの容姿を批判しての言葉ではないと分かると、ぶつぶつ言い続けるレオトニールを無視してルフィナを優しく抱きしめた。


「私の小さな姫は本当に美しくなった。自慢の娘だよ。今日はエスコート役を殿下に奪われてしまったが会場で見守っているよ」


いつも優しい父にデビューの日はエスコートをして貰いたかったので残念だった。

「私はお父様の娘で本当に幸せです。今日もお父様の面目を潰す事のないように努めて参ります」


父は「そんなに肩肘張らずに楽しんで来なさい」と言ってくれる。


ここで漸く何か分からない葛藤と戦っていたレオトニールがルフィナの傍にきた。

「ルフィナを驚かそうと思って色々と用意していたのに、僕が君の美しさに驚かされてしまったよ」


先ほど残念なまでにぶつぶつと独り言を言っていた人とは思えない程、しっかりとルフィナの腕を取って自分の腕にかけた。その仕草は流石に堂々としていて完璧だった。


「さあ、ルフィナ。行こうか」


二人で歩き出す姿を両親が見守ってくれる。

それにマリーも笑顔で送り出してた。そして、隣にレオトニールがいる。 ルフィナは再び自信を取り戻し背筋を伸ばした。


「殿下、素敵なドレスをありがとうございます。それとこのアクセサリーも殿下が用意して下さった物でしょうか?」


先ほどレオトニールがぶつぶつと独り言を言っていた情報をから察して、ドレスやアクセサリーのお礼を言った。


「う~ん。そうなんだけど、秘密にしておいてダンスの時に明かして驚かせたかったな・・まさか正気を失うほど美しいなんて、やはりこのまま城に閉じ込めたい」


(いえいえ、私も社交界にデビューさせて下さいね)

レオトニールが途中で王城に引き返さないか不安だったが、会場に無事着いた。

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