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10  王子は自分の色に染めたがる(2)


馬車から会場の入り口を見ると、暗雲垂れ込めるこんな日だが、沢山の美しく着飾った晴れやかなデビュタントが集まっている。


当然ルフィナもその入り口から入るものと思っていた。

だが馬車は車寄せの場所よりもっと奥に入っていく。


そしてデビュタントが一人もいない場所で止まった。

そして出迎えの人たちが大勢待機している前で、恭しく馬車の扉が開かれた。


馬車のすぐ近くまで赤い絨毯が敷かれている。

先にレオトニールが降りる。

そして、ルフィナに手を差しのべた。やはり王子様だ。この一連の動きがとても優雅で様になっている。


レオトニールの手を取って馬車から降りると、出迎えの使用人達がざわついた。


これだけ豪華なドレスはまたとないだろう。

流石に驚かれるに違いない。アクセサリーも一目見ただけでも天文学的な数字の金額なのではとルフィナは気が引けた。


だが、侍女や使用人が驚いていたのは、その高価なドレスやアクセサリーのではなく、ルフィナの美しさに驚いていたのだ。

それに、ルフィナは全く気が付いていない。


ルフィナは王族の休憩室に通されて、パーティーが始まるまでソファーに座って待っていた。

だが、この王族関連の方々がいるべき部屋に自分がいても良いのかと不安になってくる。


「私もデビュタントの皆さんと同じ会場の入り口から、入らなくて宜しいのでしょうか?」


人の多さから弱気な気持ちが大きくなっていく。手持ち無沙汰から、膝の上に置いた手で美しいドレスの刺繍をなぞっていた。


「今日からルフィナは皆と入り口から入る事はないよ」


ルフィナはそれってどういう事なのかしらと首を傾げた。

その仕草の可愛らしさに微笑むレオトニールは、話を続ける。


「それから僕から離れないで。僕以外でダンスをして良いのはロペス侯爵だけだからね」


「・・・あの、もし他の方がダンスのお誘いをしてきても受けてはいけないという事でしょうか? でも公爵様や賓客のお誘いがあった場合、私からお断り出来かねますが・・・?」


侯爵家のルフィナが公爵家の方のお誘いを断れない。

しかし、レオトニールはあっさりと「そこは大丈夫。でも今日に限って隣国のレイモン・デラカーザ王子が出席しているんだ。あの王子だけが厄介だ」と空を睨む。


レオトニールが眉を寄せて不機嫌そうに考え込む。

そう言えば、デラカーザ王国の第二王子が我がコルト王国に留学中だと聞いていた。


確かレオトニールと同い年で17歳で、未だに婚約者も決めずにふらふらしていると聞く。

かなりの美形で女癖が悪いと噂されているが本当のところは知らない。会った事のない人物を噂するほどルフィナは暇ではなかったからだ。


今まではレオトニールから逃げる事を、最重要課題として人生を送ってきたのだ。

少々の美形の王子がどうしたと言う話は全く興味がなかった。万が一隣国の王子と踊るなんて事になった場合、ややこしい事態が発生するだろう。

そのややこしい発生源を見ると、にこやかに微笑んでいる。


頭を巡らせたルフィナは、メモに用件を書いて、マリーに渡した。

マリーは私の意図を理解し、すぐにそのメモを持って出ていった。


会場内では、今日の主役達が司会者に名前を呼ばれ一人一人紹介されていた。

壇上の国王陛下は、少々雑に頷いていたが、誰も気に止める人はいなかった。


「そろそろこちらに移動をお願いします」

会場のスタッフがレオトニールと私を呼びにきた。


会場の舞台の様に高くなっている舞台袖で、一先ず出番を待っていると、直前に侍女がルフィナの化粧直しや、最終のドレスの乱れがないかチェックし始めた。


最後の一人の紹介が終わると、会場は静まり返っている。

会場のライトが消えて暗くなる。

ルフィナは次に何が起こるか、分からずじっと聞き耳を立てていた。


「では、最後に今年デビューされますレオトニール殿下の婚約者であらせられますアルフレッド・ロペス侯爵御息女、ルフィナ・ロペス様です」


ざわつく会場。


(司会者の台詞が変な事を言っていたが、どういう事でしょうか?)


ルフィナは事の成り行きが分からないまま、レオトニールを見ると正面を見たまま口端を上げてニヤリと笑う。


「やっと婚約者だと紹介できた。さぁ、行くよ」


レオトニールに引きずられるように会場に入ると、スポットライトがルフィナとレオトニールを照らす。

会場がざわつきから感嘆の声に変わったが、戸惑いの中のルフィナは分からない。


「殿下、私が婚約者候補から婚約者になった話は聞いていませんでした。あの、いつ決まったのですか? 父や母には・・」


「皆が君を見ているよ。さぁ、僕の婚約者として背筋を伸ばして挨拶をして」


レオトニールに連れられて会場が一望できる壇上の中心に引き出されたが、一瞬でルフィナの顔が変わる。

ロペス侯爵家の恥とならぬようにと気を引き締め、微笑んでゆっくりと優雅にお辞儀をした。

ゆっくりとお辞儀は腹筋と体幹が必要なのだが、ルフィナはしっかりと人々を見据えて軽やかにする。


隣でそのカーテシーを見ていたレオトニールも感嘆するほど、ルフィナは美しかった。

(流石は前世、アルリーナ・モニク・バルテレミー王女様だ。お辞儀一つで人を圧倒し心を掌握する)


見惚れていたレオトニールは、自分の役目を思い出す。


「本日は陛下に代わり私が祝辞を述べさせて頂く。社交界デビューを果たされた皆さんおめでとう。我がコルト王国にとって皆は未来へと続く宝である。皆がこれからの王国を引き続き文化・伝統を守ってくれる事くを願う。そして、若い皆の力がこの国の発展の源になってくれる事を期待する。ここで私事ではあるが、報告したい。長年恋焦がれた彼女を漸く婚約者と紹介出来た事を心から嬉しく思う。今日、この良き日に新成人となった君達とこれから王国をともに盛り上げて行こう」


そう言うとレオトニールは、グッとルフィナの腰を引き寄せて、自分の物だとアピールする。


一方ルフィナはこれらの祝辞は陛下から賜るべき言葉なのに、レオトニールが行って良かったのかとヒヤヒヤする。

だが、横目で見た陛下は立ち上がる様子もなく気怠げに頷いているだけだった。

ルフィナは陛下の様子に違和感を感じるが、「前を向いて」とレオトニールに促され、笑顔で前を向いた。



《第三者の目》


その様子を一段下がった場所から、苦々しく見ている者がいた。

レオトニールがルフィナを引き寄せた時、その者はくっと唇を噛み締めると、壇上の二人を睨んだ。

いつもより投稿時刻が遅くなりました。

また、短くてすみません。

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