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37  王子は女神を放さない


「はははっははははははは」

ザイラが目を見開いたまま虚ろな表情で、笑っている。


「狂っている・・・」

メルクリオが眉間にしわを寄せて、まるで汚物を見る目付きでザイラを一瞥したが、彼女の回りの床の異変にハッとした。


ザイラの座りこんでいる床は、真っ黒い泥が(にじ)み出るのように広がっているのだ。

そこから、悪魔メフィストの弟子のサファレスが現れた。


「ふーん、いい具合に心が壊れている。長く契約していたが丁度今が食べ頃だな」

サファレスが長く赤い舌で、唇を舐める。


サファレスはルフィナを見ると目を細めスンと匂いを嗅ぎ、また舌舐りをした。ルフィナはレオトニールを奪われまいと強く抱き締める。


それを見て、サファレスが不気味に片方の口端をあげて微笑む。

「ルフィナ、お前は美しい極上の魂だ。だが、俺ほどの美食家も、たまにはゲテモノを食いたくなるんだよ。契約した奴の魂が醜い程壊れた時に、違った旨味が出ると師匠に言われてね。今回はゲテモノに挑戦したんだよ。だから、今日はお前の極上の魂は要らない。今度契約しに来るよ」


サファレスは長い指で、赤い髪の毛を耳に掛けて、笑い続けるザイラを抱えた。

立ち去ろうとする、サファレスにルフィナが叫ぶ。

「今契約して!! そしてレオ様を助けー」

だが、メルクリオがすぐにルフィナの口を押さえて、その先を封じた。


「今? 今、契約は出来ない」

サファレスはそっけなく答えると

出てきた黒い滲みの中に入っていき消えた。


ルフィナはメルクリオに向かって泣き出す。

「どうして、止めたの? ・・・もしかしたらサファレスがレオ様を助けてくれたかも知れないのに・・・」


メルクリオは、何とも言えない微妙な顔付きでルフィナを見た後、レオトニールに視線を移した。


ルフィナがメルクリオの顔が何を言いたいのか分からず困惑していると、抱き締めているレオトニールが動いたような気がして下を向く。


すると、レオトニールを抱き締めているルフィナの頬を、レオトニールの手が再び床から持ち上がり、優しく撫でる。

そして、少し体を起こして、申し訳なさそうに「ごめんね」と口が動いた。


ルフィナは今まで瀕死だったレオトニールが動き出した状況が飲み込めず、固まったまま自分の頬を擦るレオトニールを唖然と見つめている。

ルフィナが呆然としているのをいいことに、レオトニールが更に体を起こしてルフィナに口づけしようと顔を寄せる。

だが、メルクリオに思いっきり頭を叩かれて悶絶した。


この一連の行動を見て漸く、ルフィナが言葉を発することが出来た。


「これは一体どういう事ですか?」



メルクリオはルフィナに向き直り、済まなそうな顔をしている。

「いいですか、殿下! ルフィナさんにきちんと説明してからにしなさい。そういう行動は! ごめんね、ルフィナさん。レオトニールは大丈夫だから、安心して」


メルクリオのごもっともな意見を受けて、レオトニールは立ち上がり説明を始めた。


「背中の短剣は、偽物だよ。本物はメルクリオが持っている。ルフィナを騙そうと訳じゃないんだよ。ザイラが二度と僕達の邪魔をしたり、転生しないようにするには、魂を壊すのが一番だとハシム先生に教えてもらって、機会を探ってたんだ」


「まさか、サファレスもそれを狙っていたとは、思いもよらなかったです」

メルクリオが、苦々しい顔になる。

偶然とは言え、悪魔の所業に手を貸したのだから、後味が悪い。


「しかし、ルフィナがサファレスに契約を持ち出した時は焦ったよ」

焦ったと言っている割に、レオトニールはとても嬉しそうだった。


「慌ててルフィナさんの口に手を当ててしまった。ごめんね」

メルクリオがレオトニールの横から、手を伸ばして再びルフィナの唇を触れようとする。


「だから、ルフィナは僕の物だから! さっきルフィナが何度も僕を『愛してる』って言ったのを聞かなかったのかな?」

レオトニールがペシッとメルクリオの手をはたき落とす。

そして、すぐにルフィナを抱き上げてルフィナの額の傷を確認した。


「僕が後が残らないように、ルフィナの額の傷を治してあげるからね」


「傷?」

レオトニールの言葉に、自分が怪我したのを思い出し、現実に引き戻された。そこで、二人のやり取りを呆けたように見ていたルフィナは、漸くこの展開と自分の気持ちが追い付いた。


「・・・私はもう二度とレオトニールに会えないと・・・どんなに絶望したと思っているのですか?・・・胸が押し潰されるかと・・」

ふるふる震えるルフィナに、レオトニールは何度も謝った。


『許して欲しい』と懇願するレオトニールが可愛くて、愛おしくてルフィナは許してしまう。


そして、ついつい自分から、本当につい、うっかりレオトニールにキスをしてしまった。


本当にうっかりだった。

レオトニールの歓喜は、想像以上で、さらに執着心が突き抜けた。




◇□ ◇□ ◇□


今日も王宮の専属医師が、ルフィナの体調と怪我の具合を診ている。

「レオトニール殿下、ルフィナ様の額の傷はご覧の通り消えました」


王宮専属医師の丁寧な治療のお陰でルフィナの額の怪我は、跡も残らず完治した。

「ああ・・治ったね・・。でもまだ経過観察が必要だな」

レオトニールは医師に目で圧力を掛けて自分のいいように、治療の引き延ばしをさせる。


「・・・はい・・(すっかり治ってますが)殿下の言う通りです」


あの反乱の日から、二週間が経っているのに、ルフィナの怪我の治療を名目にずっとレオトニールは帰さず王宮に留めている。


しかも、自分の部屋の隣部屋にルフィナを置いているのだ。

そして、朝・昼・夕・夜・深夜それ以外でも理由を付けて頻繁に出入りするので、ルフィナは落ち着かない日々を過ごしていた。



今日も朝からひっきりなしに、ルフィナの見舞いと称して来ている。

「レオ様・・先程来られたばかりなのに、どうされたのですか?」

5分前にその扉から出ていったばかりのレオトニールが、再び入ってきたのだ。


驚くルフィナに、本当の事は隠してにこやかに近付く。

(ロペス候爵の使いがきて、娘を返せと言ってきた。ここで帰す訳にはいかない。もう怪我もすっかり良くなったんだ。今日こそは・・・!!)


「レオ様、すっかり完治しましたので、流石に私をいつまでもこの王宮に留め置かれるのは・・・無理があると思います。両親も心配しているので、そろそろ屋敷に帰ってよろしいでしょうか?」


「・・・大丈夫だよ。ロペス侯爵には君が恙無く生活していると報告している。そして、君の体調が良くなれば・・色々・・前に進んでも良いと許可を取った」

「だから・・」と傍に近寄って熱の籠った目でルフィナを見つめる。


コンコンコンコン。

「何だ? 後にしてくれ。今は否、今からとても大事な所なんだ」

レオトニールが返事するが、侍従が立ち去る気配もなく、もう一度ノックする。

「あの、ロペス侯爵がご令嬢をお迎えに来ています」


「どういう事だ?」

「まぁ、お父様が?」


訝るレオトニールをすり抜けて、ルフィナが扉を開けると、既にロペス侯爵が部屋の前にいて、扉の前の愛しい娘を抱き上げた。


「殿下、婚前交渉は絶対に許可を致しかねます。結婚までお待ちください」

と爽やかな笑みの中に怒りを織り混ぜて微笑む舅に、勝てる婿はいないだろう。


「・・くッ、これからだったのに・・・分かった。急ぎ結婚の準備をしよう」

レオトニールはこの後、皆が驚愕するほどの勢いで結婚の準備を突き進める事になる。


この時の王子を語る者は、後にも先にもこんなにも真剣に政務に取り組んだ殿下は見たことがないと首を振った。




◇□ ◇□ ◇□


反乱という僅かな綻びはあったが、それよりもルフィナを娶る事でコルト王国の二代巨頭の騎士団が強い結束で結ばれた。

これは元々の王家派のフェリカ・モロー率いる騎士団といずれ、騎士団長になるであろうのゲルタ・シリー家の騎士団が共に手を取ったのだ。


そして、魔法での守りも万全になる。魔法使いとしては最高峰の魔塔のトップに次代の王妃を尊敬し崇めるエレオノーラ・リッツ公爵令嬢が立つのだ。


つまり、これからリッツ公爵も常に王家支持の立場を取っていくだろう。


国全体が一枚岩になる、最高の結婚式が今から始まろうとしている。


場所はセルトゴール大魔聖堂。

この大魔聖堂は三本の塔を擁し、一本は聖堂の印があり、もう一本は魔塔の印がある。三本目の塔は聖と魔の融和を表す塔として、ひときわ高く聳えている。


王都の王城の2ブロック先にあるこの大魔聖堂の入り口に三つの扉がある。しかし一番大きな扉は常に閉まっている。この中央の扉を通れるのは王家の者だけだ。

その大扉が今日は開いている。


セルトゴール大魔聖堂の建物の中は、沢山の参列者が座って待っているのは、これから始まる結婚式の主役であるレオトニール王太子とルフィナ王太子妃だ。


多くの視線が見つめる中、二人揃って大魔聖堂の扉を進む。

二人が並び立った瞬間、扉の回りのユリの蕾のレリーフが、一斉に花を咲かせた。


これには大魔聖堂に詰め掛けた、市民から歓声と拍手が起こる。

中央大扉のレリーフのユリが花を咲かせるのは吉兆の証しなのだ。

その扉を進み建物内部に入ると、コルト王国の神話をなぞったステンドグラスの光が美しく二人に差し込む。


カルメン・マッキーニは自分が作り上げた最高のドレスを着たルフィナが真横を通り過ぎた途端に感激のあまり泣き出した。


ルフィナのウェディングドレスは、大胆に肩を出しているが、胸元の大きなリボンにより、可愛らしさを演出し、ボリュームあるプリンセスラインのドレスはルフィナの腰の細さと胸の大きさを美しく見せている。

誰もがその姿にうっとりし、老若男女が心奪われるようにため息をついた。


その横で王宮騎士隊の黒の儀礼服に金ボタン、ブルーのサッシュをつけたレオトニールは、この美しい花嫁がこんな沢山の目に晒されている事が苦痛だった。


だが、隣の花嫁と目が合う度に癒され幸せになる。


聖魔塔の神官が二人に問うた。

「二人はいつ如何なる時もお互いを敬い、共に生涯寄り添うと誓いますか?」


「「誓います」」


二人は見つめ合って微笑む。


この瞬間大魔聖堂の鐘が鳴り響く。それに追随した王都中の鐘が打ち鳴らされた。


ロペス侯爵は娘の幸せそうな顔を見て複雑な思いで、見つめている。その背中を妻のシェリーがポンポンと叩く。



大魔聖堂と王城は目と鼻の先の距離だ。

そこから、二人を乗せた馬車がゆっくりと進む。沿道を埋めつくした人々に手を振りながら、レオトニールは手を振り微笑むルフィナを見続ける。


「レオ様、私ではなく沿道の人々を見てください」

ルフィナがそれとなく注意するが、全く聞かない。


「今この美しいルフィナを見逃すなんて、バカのすることだ。これから僕は全てのルフィナを見逃さないと決めたのだ」


「・・・・」



王城に着き、王太子の住む新しい離宮の車寄せに着くと、レオトニールは、美しい妻を抱えてそのまま自分達の部屋に直行した。


「ここから、暫く誰もこの部屋をノックする事を禁止する!!」


妙な宣言をしてパタンとドアを閉める。


やっと待ち続けた愛しい女性を、最高に美しい姿でベッドに座らせる。

「ルフィナ、僕は最高に今幸せだよ」

「私もです。レオ様、愛しています」


「・・・ルフィナ、煽らないで。嬉しすぎて我慢が出来ない」


レオトニールがウェディングをそっと優しく脱がし、それに応じるルフィナ。

レオトニールは、壊れ物を扱うように口付けると、二人は蕩けていく。


レオトニールは待ち望んだ瞬間を迎え、愛しさで理性が吹っ飛びそうになったが、優しく激しく濃く深く愛しあった。




朝を迎え、朝が苦手なレオトニールをルフィナが優しいキスで起こす。

これが二人の毎朝の日課となる。それは二人の息子が大きくなっても続けられる事になるのだが、今朝はその記念すべき第1回目のおはようのキスだ。


「おはようございます。レオ。起きて下さい」


「・・・天使がキスをしてくれている? 違う・・僕の・・僕だけの女神だ」




最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

★『星』やブックマークがとても励みになりました。

ありがとうございました。


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