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転生爛漫 ~魔法が使えない魔王子の我儘異世界譚~  作者: 森 晶
第五章 冒険者編
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第47話 『交差点』

 拘束していた九人の普人族は開放すると刺青女が指示を出し、俺達とは別の方角へと向かっていった。お前らはこっちだと来い来い招く刺青女の後に続く事数刻。遠くから流れる大川が途中で二股に分かれ二つの川となり、暫くそれが続いた後に合流している。その二つの川に囲まれた場所に町はあった。


「※◇◇〇▽※。アズール」


 河川に運ばれた、もしくは削られた石を加工し、それを土台にした木造の家ってとこか。一回建ての平屋が多く目立つ。町の中心から少し外れた所に最も高い建物があるが、窓から見るに四階建て。二つの川にはちらほらと小舟が浮いており、どうやら魚を捕っているようであった。


「※×▽※〇〇※」


 顔を隠せと言われたので、ロングコートに元々付いているフードを深く被った。耳にガサガサとあたる感触を嫌うスコールが文句を垂れているが無視する。丘を下り川岸へと寄ると、刺青女は無人に見える小舟の内の一つに弩を構え、流れ作業のように矢を放った。吸い込まれるように飛んだ矢はスコンという音を立て船の内縁に刺さり、同時にギャーという悲鳴を響かせ黒髪の小柄な少年が飛び上がった。少年は慌てた様子で手に櫂を取り、こちらへと船を漕いで川岸に着けた。髪の色、そして顔の彫からして、この刺青女とは姉弟なのだろう。青い顔で、しかし抗議するかのように少年は櫂を振り回し怒りを表現しているが、姉と思われる刺青女は意に介さず船へと乗り込んだ。


「※〇、×▽※〇〇」


 俺達も乗っていいらしい。少年は不思議そうなものを見る目で俺達を見つめているが、乗船拒否されることはなかった。









 荒くれ者共が集う、と言うからにはそれなりの、つまり劣悪な環境を想定していたのだが、ものの見事に裏切られた。道端にごみが散乱しているようなこともなく、地べたに座り込んでいる者も服装はしっかりしており、浮浪者には見えない。目につく住人は全て普人族であり、ガタイの大きい男が多い。前で歩く魚面は嫌われ者の亜人族の一人である筈だが、町の連中は気にしていないよう……いや、無視しているようだ。害が無い事を認知しているが、関わるつもりは無いということか。

 特に寄り道するでもなく真っ直ぐと進み、遠目に見えていた高い建物に到着した。中からがやがやげらげらと喧しい声が聞こえてくる。入口と思われる鉄枠の木扉に立つ、見事に顎の割れた筋骨隆々の大男に刺青女が二言ほど話すと、大男は頷き、俺達を中へと(いざな)った。

 外に漏れるほどの大音量で騒いでいたのは……なるほど、荒くれ者共とはこいつらのことか。品の無い笑いを上げ、むやみやたらに机椅子を鳴らし、酒と体臭が空気を汚している。そして皆一様に首に青いスカーフを巻いている。俺達を襲った連中はこいつらの仲間だったようだ。


「あぅ」


 突如隣でこけたアリンを抱きとめると、周囲から笑い声が響いた。見れば半歩後ろで禿げ髭デブの三拍子そろった醜い男がニヤニヤと笑っている。足引っ掛けやがったのかこの野郎。いいだろう。その喧嘩買ってやるよ。


「り、リオ。ワタシは平気ですから」


 アリンの静止を流し、未だ下品な笑みを浮かべるデブへと近寄る。ひでえ悪臭だ。風呂入れや。


「※××◇※、※×▽※〇〇※?」


 そうだよ。買ってやるってんだよ。さぁ、まずはテメエのもんを見せやが、れっ!


「! あぅあぅっ、ティア、何するんですかっ、何も見えないですっ」


「見なくていーの。全くこれだから男ってのは油断ならないのよ」


「アッヒャッヒャッヒャ!! 一口山豚(ポークビッツ)!!」


 ヤイヴァを含む男共は大爆笑し、デブは俺にずり降ろされた下着を慌てて履き直しながら、顔を真っ赤に染め腕を震わせ、怒りに満ちた目を向けるデブ。哀れな奴よ。我が身に宿りし大いなる力に気づかぬとは。刮目せよっ、そして恐れおののくがよいっ。ペンデュラム召喚!!


「えっ? きゃっ」


「な、何ですかっ? 何が起こったんですかっ」


「ちょっとリオ!!? 何やってんの!!?」


「わーお」


「どれどれ……おぉう、艦首波動砲(バトルシップキャノン)……」


「×▽※〇〇☆◇☆っ!!? 〇☆※〇☆※!!」


「▽※〇※☆☆☆※※!! 〇☆◇!!」


「××!!? 〇◇〇!!? ※☆※☆◇◇!!」


 世界へと晒された創造神(意味深)はこの場にいる男達を戦慄させ、一つ振れる度にデブは仰け反り、後退る。腕を組み堂々たる姿で胸を張り威圧すれば、とうとう膝をつき、手を地に這わせ、深く項垂れるのであった。


「……早くしまいなよリオ」


 はいはい。一応コートで隠しているので荒くれ者達以外(覗き込んだヤイヴァを除く)には見られて無いはずだ。……ティアが一人鼻息荒く、視線を俺の下半身へ集中させている。そういうのに興味を持つ年頃か。獣のような欲が瞳の中で疼いている。なんか、ちょっと怖い。

 生唾を飲み込む荒くれ者共を尻目に、半目をした刺青女はさっさと上がれと階段を指さした。




 ごつごつと粗い石階段を上がり二、三階を過ぎ最上階である四階。高級感のある工芸品達が、とてもその機能を発揮しているとは思えない程雑多に並び、部屋を満たしていた。まるでそれが有名だから、高いからという理由だけで入手し、それだけで満足しているかのようだ。宝石の付いた小さな装飾品は飽きられたのか捨てられたのか、床に転がり鈍く光っている。

 奥の少し高い台座には青く長いソファが設置されており、(へり)の肘掛けに上半身もたれかからせ、だらりと寝そべる女がいた。こいつが荒くれ者を束ねる首魁か。


「あ゛ーーーー※※▽※〇※☆ーー……」


 どうやら二日酔いでグロッキー状態らしい。床に転がる空の小樽から葡萄酒が溢れている。茶がかった金髪は荒れたい放題。濃い翡翠色の瞳は血走りクマが出来ており、体内を巡る毒素に辛うじて抗っている。はだけた下着だけの扇情的な格好も、周囲を漂う負のオーラが掻き消し台無しである。


『はぁ。※○ー、※×☆ー』


「ん?」


 耳元でくぐもった声が響くと同時、左腕に巻き付いたままだった枝が発光する。呆気に取られる内にそれは形となり、そこに現れたのは。


「……なんだこのモコモコした生物は」


 手足の短い二頭身の茶色い毛玉が、背中についた小さな羽をハチドリのようにプーンと羽ばたかせ、二日酔い女の元へ飛んで行った。


「なんか、随分愛らしい姿の、その、人? ですか? 喋りましたよね」


「木の枝の姿に擬態してたっつーこたぁ精人族か? こっちの亜人共は一体全体どうなってんだよ」


 新たな疑問が生まれ困惑する俺達を他所に、小さな精人は二日酔い女の背中に手を当て魔法を使った。みるみるうちに顔色が良くなり、先程とは打って変わってソファから飛び上がり、腰に手を当て高笑いをする頭領。


「ハァーーハッハッハ!! ▽▽※〇※☆〇※☆っ!!」


「〇※☆※、▽※〇☆」


「あぁん? ※※▽※〇※、☆※☆※※?」


 刺青女が件の手紙を渡し、怪訝そうな顔をしながらも頭領はそれを受け取り、ざっと目を通すとフンと鼻をならしながら俺達を睨んで頭巾を取れと指示してきた。


『大丈夫かしら? 急に襲って来たりしないわよね?』


『それなら最初っからやってるだろ』


 顔が割れている以上ここで渋っても意味は無い。魚面の水人族、そして謎の精人族を受け入れている理由は不明だが、先の様子から手荒にされる可能性は低いだろう。俺が躊躇いなく脱いだのを見て、ヴァン達も恐る恐る顔を晒した。


「…………!!」


 なんだこいつ? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔して。やっぱ魔人である事は不味かったか?


「(これは……ティア、前途多難ですね)」


「(ひっじょーに不愉快だけど、リオがこんなの受け入れる訳無いわ)」


「(どうだかねぇ。まぁとりあえず、寝床と食い扶持に困ることはなくなったんじゃね?)」


 おい、その微妙な反応はどういうことだ……っ、いつの間に間合い詰めやがったコイツ!? 敵意が無いから油断しち……って、抱きついてきやがっただと!?


「▽※〇※☆▽※〇※☆※▽※〇※☆♡♡♡っ!!」


「酒くせぇっ!! うわベトってしたし! 下着にゲロついてんじゃねぇか!! はっ、なっ、れっ、ろっ!!」


「そういうことか。でもいつかこんな日も来るかなって思ってたし……頑張ってね、リオ」


「女難の相」


「おいっ! 傍観してねえでこいつを引き剥がすの手伝ってくれ! そこの下っ端二人も手伝えっつーのっ!! 目を逸らしてサムズアップすんじゃねぇ!!」 


 がっしりと抱きつき胸を押し付け唇を近づける下着女に全力で抵抗するも、仲間達も、刺青女達も、誰も俺を助けてくれなかった。









 リオ一行がアズールに到着した同日。遠く離れた東の地、古びれた小さな町で、魑魅魍魎達の阿鼻叫喚が響き渡る。


「せいっ! はっ! やぁっ!!」


 まだ成人に満たない金髪碧眼の少女が町を駆け、噴水を跳ね飛沫を飛ばし、屋根を飛びかい蒼い剣線を踊らせていた。瞬く暇すら与えぬ裁きの剣は、ただ一体の深淵体(アビス)をも残す事なく冥府へと送る。町の住人はその舞とも見れる美しい姿に歓喜し、声援を送る。

 戦う少女を後ろから眺め、満足そうに頷く白い髭を蓄えた老人。その背後から忍び寄る深淵体(アビス)。気が付いたのかどうか、老人が振り向くと深淵体(アビス)へと青白い雷光が迸り、ボロボロと崩れ去った。


「アーロン、サボるの禁止」


「儂の出る幕でもなかろう、アレス。ほれ、今日のアンジーはいつも以上に技のキレが良いみたいじゃて。しっかり観察しておかんとの」


 頬を膨らませ、動かぬアーロンに不満を漏らすのはアレスと呼ばれる小柄な少年であった。手に持つ赤樫の長杖で動けと突くも、アーロンはぴくりともせず、顎髭を撫でながら頷くばかりだった。


「…………」


「む? ヴァネッサ、もう終えたのかの?」


 いつからそこにいたのか。アーロンの右背後に音無く出現した女性は柔和に微笑み、胸に手を添え目を細める。


「アーロン殿、こちらも今しがた完了した」


「おお、ノバディア。無茶な事を押し付けて申し訳無かったの」


「我輩であれば、あの程度容易い」


 細身であり、異様に背が高い全身甲冑は見た目通り重い金属音を響かせる。何百枚とありそうな流線形の、まるで羽を折り重ねて作られたかのようなその鎧からは、男とも、女ともとれる声が漏れた。


「うむうむ。みなしっかりと力を付けたの。これなら、魔神を倒すことが出来るじゃろう」





 屋根の上に降りた立った少女はぐるりと回り、周辺の深淵体(アビス)を一掃した事を確認し、深く小さく一呼吸を入れ、その手に持つ大剣を見上げる観衆達へと掲げた。


「我が名は勇者アンジェリオナス!! 世に蔓延る一切の悪を討滅する守護人っ、この身は人々を悲しみと涙で覆わんとする闇を切り裂く天剣なり!! 亡き父と母より授かりし唯一無二のこの体とっ、神より授かりしこの剣に誓おう!! 人々が何も恐れる事無くっ、自由に、平等に暮らせる平和な世界を必ずもたらすと!!」





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