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異世界スキル整備士  作者: なるかめ
第3章 国家整備編

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第16話 ヴァルドの記憶

壊れるものを、直す。


それが整備士の仕事だと、信じていた。


どれだけ歪んでも、

どれだけ壊れていても、

繋ぎ直せば、戻せると。


だが――


「それは本当に、“直している”のか?」


壊れかけた世界の中で、

ひとりの男が、その前提を否定する。


繋ぐのではなく、切る。

守るのではなく、選ぶ。


整備という行為そのものを揺るがす、

もう一つの答え。


これは、正しさがぶつかる物語。


崩壊の跡は、静かだった。


帝国中枢の広場。

本来なら人と音で満ちていたはずの場所は、今は焼けた石と崩れた建物だけが広がる空間になっている。


瓦礫の隙間から、淡く光る回路が浮かび上がる。

細い線が絡まり、どこかで詰まり、どこかで逆流していた。


カイトはその光を見つめながら、小さく息を吐いた。


「……止めた、はずだろ」


確かに崩壊は止めた。

だが――終わっていない。


直したはずの回路が、まだ歪んでいる。

まるで無理やり押さえ込まれているように、どこか軋んでいた。


そのときだった。


ギシ、と瓦礫が踏みしめられる音がした。


カイトは顔を上げる。


黒い外套の男が、瓦礫の上に立っていた。

風もないのに、外套だけが静かに揺れている。


その男は、崩れかけた回路の一部に手を伸ばしていた。


嫌な予感が、背筋を走る。


カイトは思わず叫んだ。


「やめろ!それ以上触るな!壊れる!」


黒い外套の男は、ゆっくりと振り返った。


その目には、驚きも怒りもなかった。

ただ、静かな確信だけがあった。


「……もう壊れている」


淡々とした声だった。


カイトは歯を食いしばる。


「違う、まだ繋がってる!整えれば戻る!」


男は首をわずかに傾げた。


「繋がっているように“見えている”だけだ」


そして、回路へと指先を落とす。


「お前の整備は、壊れたものを“延命”しているだけだ」


その言葉に、カイトの胸がざわついた。


「延命でもいいだろ!救えてる命がある!」とカイトは言った。


声は強かった。

だが、自分でもわずかに震えているのが分かる。


男は一歩だけ近づいた。


「その延命が、次の崩壊を呼ぶ」


「そんなはず――」


カイトが言いかけた瞬間、男は静かに言葉を重ねた。


「ある。だから私はここにいる」


その声には、否定の余地がなかった。


男はそのまま、回路に触れた。


次の瞬間――


バチン、と乾いた音が響いた。


光が、断ち切られる。


「なっ……!」


カイトは目を見開いた。


回路が“壊された”。


だが――


暴走は起きない。

むしろ、さっきまで不安定だった光が、ぴたりと止まった。


空気が静まり返る。


カイトは信じられないものを見るように、呟いた。


「……なんでだよ」

「壊したのに、安定してる……」


男は手を引きながら答えた。


「止めただけだ」


「止めた?」


カイトは理解できずに問い返す。


男は瓦礫を見下ろしたまま言った。


「暴走した回路に流れを与えるな」

「一度“無”に戻せ」


そして、わずかに目を細める。


「再起動は、それからだ」


その言葉は、あまりにも自然だった。


カイトは唇を噛んだ。


「……そんなの、ただの破壊だろ」


男は、静かに首を横に振った。


「違う。選別だ」


「は?」


カイトは思わず声を上げた。


男は淡々と続ける。


「残すべきものと、切るべきものを分ける」


「全部を繋ごうとするな」

「それは優しさではなく、怠慢だ」


カイトは言葉を失った。


(……本当にそうなのか?)


(俺は……直してるつもりで……)

(壊れるのを先延ばしにしてるだけじゃないのか?)


男が小さく言った。


「顔に出ている」


カイトは顔を上げる。


「……何がだ」


男はカイトをまっすぐ見た。


「“気づいた顔”だ」


その言葉に、息が詰まる。


男は続けた。


「お前はもう分かっている」

「自分のやり方が、万能ではないことを」


カイトは何も言えなかった。


視界に浮かぶ回路が、今までと違って見える。


整っているようで、歪んでいる。

直したはずなのに、どこか無理をしている。


カイトは低く問うた。


「……お前、何者だ」


男は一瞬だけ目を伏せた。

まるで何かを思い出すように。


そして、静かに口を開いた。


「……ヴァルドだ」

「昔は違う名で呼ばれていたがな」


その声には、わずかな重みがあった。

ただの名乗りではない。

過去を切り捨てた者の響きだった。


カイトはその名を繰り返す。


「ヴァルド……」


その瞬間――


視界に浮かぶ回路が、かすかに震えた。


ほんの一瞬、流れが乱れる。

まるでその名前に反応したかのように。


(……なんだ、今の)


ただの名前じゃない。

何か意味を持った“識別名”のような――


ヴァルドはそのまま言葉を続けた。


「元・整備士だ」


「……!」


カイトは息を呑んだ。


「誰よりも繋いだ」

「誰よりも直した」


そして――


「誰よりも壊した」


その言葉は、重かった。


「……どういう意味だ」とカイトは問う。


ヴァルドは遠くを見るように言った。


「中途半端な整備が、崩壊を広げた」


「救ったつもりで、全てを壊した」


カイトの胸が強く締め付けられる。


「だから私は、やり方を変えた」


沈黙が落ちる。


カイトは拳を握る。


「だからって……壊すのかよ!」


ヴァルドは即答した。


「壊さないから壊れる」


カイトは叫ぶ。


「人がいるんだぞ!」


ヴァルドは一歩も引かない。


「全体を救うために、個を切る」


「そんなの救いじゃない!」


ヴァルドは静かに問いを投げた。


「では聞く」


「お前は何人救った?」


カイトは言葉に詰まる。


「……ッ」


「では、何人“次の崩壊”に回した?」


「それは……」


答えられない。


「答えられないか」


「なら、お前はまだ“選んでいない”」


ヴァルドの声が静かに染み込む。


「整備とは選択だ」


「繋ぐか、切るか」

「残すか、捨てるか」


「全部を救うという選択肢は――存在しない」


「……違う」


カイトはかすれた声で言う。


「違わない」


「それを認めた時、お前は“整備士”になる」


カイトは叫んだ。


「俺はもう整備士だ!」


ヴァルドは静かに首を振る。


「いいや」


「お前はまだ、“直しているだけ”だ」


その言葉が、胸に刺さる。


ヴァルドは背を向けた。


「いずれ分かる」


「繋ぎ続けた先にあるのは、“崩壊の連鎖”だ」


「その時、お前は選ぶことになる」


「壊すか――見殺しか」


カイトはかすれた声で言う。


「……そんな選択、しない」


ヴァルドは振り返らないまま答えた。


「するさ」


「お前は“見える”のだから」


「見える者は、選ばされる」


「逃げ場はない」


その言葉を残し、ヴァルドは静かに姿を消した。


風だけが残る。


カイトはその場に立ち尽くした。


視界には、歪んだ回路が浮かんでいる。


直せる。

だが――


それだけでいいのか。


カイトはうつむき、呟いた。


「……直すって、なんだ」


風が、静かに吹く。


「繋ぐことか」

「止めることか」


そして、最後に。


「それとも――」


カイトは目を閉じた。


「……壊すことなのか」


答えは、まだ出ない。


だがその問いは、確かに残った。



第16話 完

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第16話は、物語の大きな転換点です。


カイトはこれまで、

「壊れたものを直す」という信念で進んできました。


ですが今回、

初めてその“前提”そのものが問われます。


ヴァルドの思想は、極端です。

しかし同時に、否定しきれない現実も含んでいます。


・すべては救えない

・繋ぎ続けることで歪みは蓄積する

・選択しなければ、いずれ崩壊する


では――


整備とは何か。


繋ぐことなのか。

止めることなのか。

それとも、壊すことなのか。


答えは、まだ出ません。


そして次話では、

カイトは仲間と再び合流します。


ですが――


同じ景色を見ているはずなのに、

同じ答えにはならない。


その“ズレ”が、少しずつ表面に現れていきます。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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