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ガンテツ 滅亡のパラドクス  作者: ちみあくた


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エピローグ 1



 今は昔の物語……


 俺がまだ高校生だった37年前の話だ。


 その頃、俺らの国は正体不明のテロリストやら、黒くウネるエイリアンやら、鋼の怪物やら、得体のしれない敵に襲われ、存亡の危機に陥っていた。

 

 何とか生き延びて、西暦2000年の正月を迎えた後も復興は捗らない。

 

 怪物同士の戦場になった東京もさる事ながら、Jガイアを崩壊させた海底火山の噴火と、それに伴う天災で、東北全域に大きな被害が出ている。

 

 更に24世紀から得た教訓によりアビシューム掘削を自粛。


 ベクターαが残した「この世界線の人類は2050年を越えられない」という不吉な予言も効いたのだろう。戦乱の拡大に繋がりかねない防衛装備の輸出規制を再度強化し、村正、正宗等、次世代VCの技術流出を阻む取り組みに出た際は、一時、他の大国と軋轢を生じたものの……

 

 いざとなれば日本人はしぶとい。

 

 アビシュームを殆ど使用しない疑似ハイ・スチームエンジンをギャロップ社が開発し、 政府との共同プロジェクトで民生用VFの技術革新を成功させた事もあり、GDP世界第一位のポジションを取り戻すまで五年も掛からなかった。

 

 その後の三十年、日本は世界の枠組みが変化するのに伴い、欧米との太いパイプを維持しながら、アジア諸国とも協調路線をとって地域全体の経済成長を導き、新たな繁栄を築き上げている。

 

 そして、そんな歩みの裏側に葬られる真実もあった。

 

 日本政府の最終調査報告で、大鋼人と大鋼獣の死闘は侵略者の同士討ちと発表され、その見方が定着したのだ。

 

 所詮、歴史は勝者が作る物。さもなくば、後の時代に権力を掌握する者が都合よく書き換えていく。


 でも、あの時は、おそらく止むを得なかったのだろう。

 

 日本の高度経済成長を支え、安全保障の要でもあるアビシュームの存在が、いつの日か人類滅亡の引き金を引くかもしれない……なんて、国民にどう伝えれば良いのか?


 アビシュームの採掘量削減に伴う経済的混乱は不可避だったし、恐慌レベルの経済的パニックを引き起こすリスクもある。

 

 それに、何を言おうと結局は後の祭り。


 何しろ大鋼人や『繭』、それに事件に関わった主役達が皆、宇宙に漂う大光輪を潜り、別の次元へ旅立ってしまったのだから。

 

 後に語られる歴史はどうあれ、少なくとも俺は忘れない。


 徐々に消滅していく大光輪の輝きを見上げ、万感の想いを込めて別れを告げた日、大事な人の面影と共に……






 そこまで書いて、54才の誕生日を迎えたばかりの黒岩真希は、400字詰め原稿用紙を傍らのごみ箱へ投げ込んだ。

 

「あ~、アホか、俺は? 何度、書いても臭くなる!」


 真希は、重油の匂いがする床へ仰向けにひっくり返った。


 ここは大田区根黒島に再建された黒岩製作所の備品倉庫である。

 

 時は令和19年6月。父の跡を継いだ後、真希は昔と同じ倉庫の二階にこじんまりした書斎を設け、暇を見つけて執筆活動に勤しんでいる。


 何事も見切りが早い性分のお蔭でプロの小説家になる夢へ拘らなかったが、37年前の記録についてだけは投げ出せない。


 あくまで手書き。今や骨董品と化しつつある原稿用紙を何度も書き直す内、気が付いたら、当時の轍冶と同じ年頃になってしまっていた。


「……何とか、俺が死ぬまでに完成するんかなぁ、コレ?」


 ごみ箱一杯の丸まった紙を見て、真希はやるせない溜息をついた。特に難しいのは、GANベクターとの戦いを終え、家族がそれぞれ次の道を模索する下りだ。


 真希は目をつぶり、今やセピア色に染まりかけた記憶の回廊へ足を踏み入れる。






 2000年の元日早々、『繭』のメディカル・ルームで妊娠の事実が明らかになった時、黒岩美貴の心はもう決まっていた。


 消滅間際の大光輪を通り抜け、阪田由久と一緒に24世紀へ旅立つ。


 それは異質な存在に拒否反応を示しがちな当時の日本で、ヒューマノイドの阪田と異能者の自分、それにどんな力を持っているか知れない我が子が暮らす弊害を憂慮し、悩み抜いた末の結論である。


 何と言っても、本来、誕生する筈の無い子なのだ。


 美貴も阪田も生殖能力は失っていた筈で、変異を遂げた遺伝子同士が組み合わさり、相互に影響を与え合ったが故の奇跡だと言えるだろう。

 

 それに、いずれ危険な太陽制御に挑む事となる来宮七海=ナナを一人で故郷へ返したくはない。


「何ンかさ、もう、ここまで来たら戦友みたいなモンじゃん」


 そう言ってナナを強引に説得した美貴は、旅立ちの前夜、轍冶と光代が予想だにしていない行動に出た。


 大田区に設けた黒岩家の仮住まいへ阪田と共に押しかけたのだ。


 それも、女物の服を毛嫌いしていた彼女が、生まれて初めて着る純白のロングドレスをなびかせて、である。

 

 一目見るなり、真希は「似合わね~!」と叫んだ。

 

 下腹のふくらみが目立たない無難なデザインのシルクシフォン製ではあったが、確かに着こなしレベルは最悪だろう。

 

 あそこまで背筋をピ~ンと伸ばし、ド~ンと胸を張って腕組みしたまま、バ~ンと仁王立ちするドレスの女性は他にいない。

 

 でも、本音を言えば、意外に悪くないかも、と真希は思っていた。

 

 美貴の、美貴だけの、他の誰にも無い美の形……敢えて表現するなら「凛として」という感じだろうか?


 これまた似合わないフォーマルスーツでガッチガチに緊張した阪田を引きずり、美貴は轍治、光代がいる居間へ足を踏み入れざま、更に家族の予想を超える。

 

 何と、いきなり床へ三つ指ついたのだ。

 

「……お父さん、お母さん、長い間、お世話になりました」


 ハトが豆鉄砲を食らったって言うのは、まさにその時のオヤジの顔だ。


 狂犬娘、一世一代の神妙なセリフをぶつけられ、絶句したまま、その場へ凍り付く事、およそ1分30秒。


 見兼ねた光代が肩を叩くと、轍冶は一目散にトイレへ駆け込み、しばらく出てこない。

 

 やっと姿を見せた顰めっ面の目尻が少し潤んでいた事は、そこにいる誰も指摘しようとしなかった。






「何だよ! 一度くらい、娘らしい事してみたかったんだよ。悪ィか!? え、文句があんなら言ってみろ、コラァ!」


 誰も突っ込んでいないのに、真っ赤な顔で言い訳を連呼する美貴の姿に、亜紀は大笑いし、真希は必死で口元を抑えた。


 正月早々、フォーマルドレスを着た女にタコ殴りされるなんて、何が何でもカンベンして欲しい……


 何とか笑いの衝動を堪えきった真希に対し、意外にも阪田は平然と佇み、余裕の笑みを浮かべていた。


 いつも歓喜の絶頂で放たれる妻・必殺の右ストレートに最低三発は耐えられるよう、事前に腹筋を鍛えまくったのだと言う。


 努力の方向性を完全に間違ってるよ、あんた。


 内心、そう思ったものの、これも一つの愛の形。


 結局、四発目まで鳩尾に食らい、前屈みになったまま動けない阪田を美貴が肩へ担いで、二人暮らしの賃貸アパートへ帰って行ったのだが……


「どう、花嫁の父の心境?」


 美貴達を見送り、居間へどっかと胡坐を組んで何も言わない徹治へ寄り添い、亜紀は熱燗の酒を勧めた。


 それから一晩、じっくり両親と飲み明かしていたのも、過去にはありえない出来事だったと真希は思う。


読んで頂き、ありがとうございます。

あと一話でこの物語は終わりです。

黒岩家が選んだ未来の選択、見届けてやって下さい。

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― 新着の感想 ―
感動的に笑わせていただきました。 サイコーの演出です!!
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