2−29:研究成果発表会 (中編)
「……それでは皆さま、ヨハネス研究室所属のエリオス・ソリスです。最後の発表となりますが、よろしくお願いいたします」
――パチパチパチパチ……
予想通り、会場に居る人数に反して拍手は疎らだ。中には会場出口をチラチラと見て、早く帰りたそうにしている人さえ居る。
……研究成果発表会が始まってから、既に6時間近くが経過している。さすがに疲労を隠せない人も居て、会場はややどんよりとした雰囲気に覆われていた。このままだと、僕の発表もちゃんと聞いてもらえないかもしれない。
……だから、最初に一発ガツンといくことにした。格式高い音楽鑑賞会にもあるよね、寝ている観客を叩き起こすための音楽を奏でることがさ。それと似たようなことをしようってわけだ。
「発表に先立ちまして、面白い余興をご用意いたしました。それを皆さまのご覧に入れたいと思います。
……おいで、タロス」
――ガシャンッ!!
「「「「!!」」」」
舞台袖から、タロスが歩いて出てくる。壇上を照らすライトに反射し、白銀色に煌めくタロスボディを見て「ミスリルだ……」と誰かが言葉を漏らした。その人を中心として、ざわめきが少しずつ広がっていく。
そうして、僕の隣にタロスが立つ。僕よりも背が高いタロスは、今この瞬間誰よりも目立っていた。
「本発表の準備の片手間で作った、完全自律行動型ミスリルゴーレムです。材料は高純度ミスリルを使用し、一流の戦士に匹敵する戦闘力を誇ります。さあタロス、皆さんにご挨拶を」
――スッ
「「「「おお……」」」」
タロスが見事な礼を……あ、しまった。あれから礼のパターンを増やしたのはいいけど、十分に学習させてなかったから最上位礼のままになっちゃった。
……でもまあ、いいか。最上位礼を向けられてもそれほど違和感の無い方が、この会場にはいらっしゃるのだから。モニターを見てまさか、とは思ったけど……本当に来ているとはね。
「……さて、時間もありませんので余興はこれくらいにしておきましょう。私からは『高純度オリハルコン精錬の実現に向けた一考察』と題して発表させて頂きます。どうぞ、よろしくお願いいたします」
――パチパチパチパチ!!
最初とは明らかに違う音量の拍手が、僕たちに向けて降り注ぐ。つかみは良好、あとは僕がどれほどうまく発表できるかに懸かっている。
……タロスを紹介するのに、既に1分20秒もの時間を使った。残りの8分40秒で、元々10分でこなす予定だった発表を終えなければならない。
まあ、それも想定してプランBを組んでいるからね。議論の肉付けには必要だけど、省いても差し支えない内容はどんどん省いて話していこう。
「それでは、初めにこちらをご覧ください――
◇
「……以上で、私からの発表を終わらせて頂きます。ご清聴ありがとうございました」
――パチパチパチパチ!!!!
プランBをつつがなく遂行し、10分ちょうどで発表が終わらせた。タロスと2人並んで頭を下げると、発表前のそれに比べてさらにボルテージの上がった拍手を貰うことができた。
「それでは、発表者への質問を」
――バババッ!
司会者が質問時間の開始を告げると、会場にいる人たちのおよそ半数が手を上げた。グライスナー学長の両隣に着席しておられる方も、手をまっすぐに上げている。
……2人とも、とても眼光鋭い男性だ。片や極まった武による威圧感、片や研ぎ澄まされた知による威圧感……対照的な2人なれど、ただ者ではない雰囲気を醸している。
「では、最前列の右から5番目、ヒルパート教授からご質問を」
「うむ」
しかし、最初の質問者に指名されたのは最前列にいたエルフ族の女性だった。その女性は白衣を着ており、回復魔法を専門に扱う方なのだということが一目見て分かった。
……白衣は回復魔法の専門家が着るものだと、相場は決まっているからね。加えてエルフ族は風と光属性の魔法が得意な方が多いから、ヒルパート教授もおそらく光属性が得意な方なのだろう。
「素人質問で恐縮だが、私から1つ聞かせて頂きたい。今回エリオス殿が発表した、オリハルコンの精錬魔法……それは、一体どれほどの技量を持った魔法士なら扱うことができるのか。ごく一部の高位魔法士や天才にしか扱えないのであれば、魔法としての価値は大いに下がってしまうと思うのだがどうか?」
おっと、想定質問No.2が来たね。今までは王国中の知を結集してさえ、純度50〜60%の精錬が限界だったのだから……それを一気に80%まで高められる魔法は、相当高度なものだと考えておられるのだろう。
だけど、その点は既に確認済だ。前世の僕も、魔法研究狂いのわりに扱いやすい魔法を好む傾向にあったから、その辺の配慮は十分にしている。ドグラス本人はどんな複雑な魔法も制御できるほどの天才魔法士なのに、不思議なものだよね。
「はい、ヒルパート教授。今回発表したオリハルコン精錬魔法は、既に何名かに試して頂いております。ヨハネス教授は数分で習得でき、ヨハネス研究室に所属する地属性魔法士の方も全員がその日のうちに習得することができました。他の魔法の習得難易度と照らし合わせれば、一般的な地属性魔法士でも1週間もあればマスターできることでしょう」
「ふむ、なるほど。それほどまでに習得しやすいのであれば、魔法としての価値は非常に高いと言わざるを得ないな。
しかし、もう少し被験者を増やすべきだったのではないか? その辺りの説得力がいささか足りないように感じるのだが……」
おっと、なかなか痛い質問だね。確かに、新規魔法は最低でも数十人規模の治験を行い、習得難易度や発動のムラに関する各種測定を行うのが基本だ。しかし、この魔法に限ってはそれができない事情がある。
「本魔法は、習得難易度のわりに効果が高い。ゆえに1度魔法陣が広まってしまえば、習得者が限りなく多くなってしまいます。その中には、アルカディア王国に牙を剥くような存在も居るやもしれません。
非常に慎重な扱いが求められる魔法ゆえ、被験者をいたずらに増やすことはできませんでした。本来はヒルパート教授のおっしゃる通り、被験者を増やしてより精度の高い測定結果を発表すべきでしたが……今回の発表においては、機密性を重視した結果となっております」
「うむ、そうか。そこまで考えているのであればいい。ありがとう、私からの質問は終わらせてもらう」
そう言って、ヒルパート教授は着席した。
その後も、多くの方々からの質問が相次ぎ――
「……では、グライスナー学長の左隣に座られている方。ご質問をどうぞ」
「うむ」
いよいよ質問時間が少なくなってきたところで、最初からずっと手を上げていた方のうち武の気配を強く纏う方が指名された。
……司会の人も苦笑いしている。多分、あの方が誰なのか知っているのだろう。僕もこの前の授与式で、ほんの一瞬だけそのお顔を拝見しているし……そも、軍事系貴族家の一員として知らないのでは、大変な失礼にあたる方だ。
このアルカディア王国の軍務の頂点に君臨する、軍事系貴族家の中では最高の地位に就く方……まさか、こんな所でお会いになるなんてね。
「さて、エリオス殿は既に気付いていることと思うが……私はギルベルト・フォン・ガルドゥーン。アルカディア王国4公爵家の一角であり、近衛騎士団にて副団長職を務めている者だ」
そういってガルドゥーン公爵様は猛々しい笑みを浮かべた。
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