2−27:魔法界の革命
「ほうほう……これはまた、凄いものを作ったね」
ミスリルゴーレムを連れて教授室まで赴き、早速できあがったものをヨハネス教授にお見せする。超高純度ミスリルを大量に貰うための条件が"できあがったゴーレムを見せること"だったので、その約束を早速果たした格好だ。
――スッ
「礼の所作も随分とスムーズだね。これ、本当に遠隔操作しているわけじゃないんだよね?」
「はい、全てゴーレム自身が考え、実行していることです」
「ふむ……」
ヨハネス教授については、例の魔力パターン記憶によって礼を尽くすべき相手として登録している。なのでミスリルゴーレムは右手を軽く握って胸に当て、上半身を前に45度傾けて頭を下げる。それをヨハネス教授は、感心した様子で見ていた。
……ただしこれ、聖騎士団式の礼ではない。ヨハネス教授は気付いてないようだけど、実は近衛騎士団式の礼だったりする。
しかも最上位礼だ。ただでさえ身分の高い近衛騎士団員が王族方、しかも国王陛下や王太子様に対してのみ行う、最上級の礼を示す所作だ。こんな礼を、なぜミスリルゴーレムがしているのかと言えば……どうやら、前世の僕があえてやったことらしい。
自律行動魔法には、最低限の自動学習機能……武技や所作などの行動パターンを学習し、その情報を蓄積し行動を最適化していく機能が付いているのだけど、戦闘に関わりが無いものは全て対象外のようなのだ。もちろんマナーや礼といったものも対象外で、あらかじめ登録された所作を必要な時に実施するよう設定されている。
……そこでドグラスが手を抜いたみたいで、複数パターンを用意するのが面倒だからと最上位礼のみ実装したようだ。こういう上位の所作は、国や時代が変われどそこまで大きくは変わらないからね。ドグラス自身が元侯爵家の人だったこともあって、これならどこでも通じると考えたのだろう。
だけど、この部分は要改善だ。誰彼構わず最上位礼などしていたら、近衛騎士団や上位貴族に目を付けられかねない。さっき魔法陣をいじってた時はすっかり忘れてしまってたけど、どんな所作が登録されているのか改めて確認する必要がある。
「………」
……実用性を徹底的に突き詰めようとすれば、やっぱり魔法の研究が必要になるんだね。僕は僕、ドグラスはドグラスだと思っていたんだけど、結局は魔法の研究を楽しいと思っている自分がいる。そこは魔法の研究を続けたくて転生した、前世の僕の思惑通りってところかな。
狙って転生したわけじゃないのは、ドグラスの記憶を引き継いでいるので分かっている。寿命がもうすぐ尽きようとしていることが、ドグラスには分かっていて……もはや精査している時間は無いからと、転生先を一切指定せずに魔法を行使した。それがたまたま僕のところへとやってきて、こうして知識や技術を有効活用させてもらっている。
それでも状況が状況で、僕もまた魔法研究の世界に引きずり込まれていっているような気がするな……まあ、研究の成果としてできることが増えていくから、全く悪くはないんだけどね。
「……ふむふむ、見れば見るほど興味深い魔法だね。術者が遠隔操作しなくとも自動で動くゴーレム……これは、魔法界の大革命だよ」
「……大革命とは、さすがに大袈裟ではありませんか?」
「いえいえ、決して大袈裟なことではないよ? 魔法士の操作から完全に離れて、自ら考え動く魔法……いかなる時代のいかなる天才魔法士も、そのような魔法を実現させたことは無い。魔法は魔法士が操作し制御するもの、という常識から脱却できていないのです。
その常識を覆し、新たな常識を生み出した魔法が目の前にある……これを革命と呼ばずして、なんと呼ぶのでしょうか?」
「………」
……そういえば、前世の僕が自律行動魔法を開発したのは森の洋館に引きこもってからだったっけ。世の中の動きには疎かったし、自分以外の魔法士にもほとんど興味が無かったから、いかにとんでもないことを成し遂げていたのか全く自覚してなかったんだね……。
「……だけどね、おそらくこれは地属性魔法だけでは実現できない。これは複合属性魔法だね?」
「正解です、ヨハネス教授。ちなみに、どの属性との複合だと考えておられますか?」
「間違いなく闇属性だね。かの属性は、人の精神と密接な関わりがある属性……自律行動魔法を作るとなれば、それは闇属性以外では実現できないと考えます。どうでしょうか、エリオス君?」
「……さすがですね」
さすがはヨハネス教授、地属性以外の属性が持つ特性も完璧に把握しておられるようだ。得意属性以外は全然知らない、という魔法士も結構多いんだけどね……王国における魔導探求者の頂点、王立魔法士学校の教授ともなればそれくらいは覚えておいて当然というわけだ。
「しかし、まさかエリオス君がそれほどの実力を持った闇属性魔法士だったとは。地属性魔法だけでもとんでもない実力なのに、私もびっくりしましたよ」
「闇属性魔法は、僕にとっては切り札なんですよ。だから、あまり表沙汰にはしていません」
「……切り札、ですか」
ヨハネス教授が、やや驚いたような表情で僕を見る。
「もし僕が、今後長く軍属としてアルカディア王国に貢献し続けることができたならば……ほぼ確実に、僕は相手国からマークされることでしょう。その際に僕を"地属性だけの魔法士"だと認識してくれれば、相手はそのように対策してくるはずです」
「……属性認識を誤らせて、その隙を突くということかい?」
「はい。だから僕は、王立魔法士学校の試験も地属性魔法士として受けました。使っている魔法もほとんどが地属性ですし、かのヘキサグラムを返り討ちにした時も闇属性魔法は使っていません。
……ゴーレム魔法だけは、通常の遠隔操作版でも闇属性魔法を使っていますがね」
「ほうほう、なるほど。ということは、ゴーレム魔法そのものが闇属性との複合属性魔法だったと、そういうことなんだね。それは誰にも真似できないわけだ……魔法陣の擬態も完璧過ぎて、全く気付きませんでしたよ」
ヨハネス教授は、地属性のみの単属性魔法士だ。ゴーレム自体を作ることはできても、簡易な人工知能による補助が無いのでうまく遠隔操作することができない……というより、そもそも遠隔操作自体が実は闇属性魔法によるものなので、遠隔操作自体が実行不可能だったりする。
「この魔法だけは、絶対に敵国には盗まれてほしくないですからね。だから擬態は念入りに行っています」
「私でさえまんまと騙されたのですから、その完成度はお墨付きということだね。
……分かりました、とても貴重なものを見せてもらい、ありがとうございます。ですが、もう魔力が切れかけているのでしょう? 発表会の準備も順調に進んでいますし、今日は早めに休んではいかがですか?」
……さすがはヨハネス教授、気付いてたんだね。僕がミスリルゴーレムを作るのに、魔力のほとんどを使ってしまったことに。
本当はこの後、少しだけ発表会準備を進めるつもりだったんだけど……ここは、ヨハネス教授のお言葉に甘えて休ませてもらおうかな。
「ありがとうございます。誠に勝手ながら、そうさせていただきたいと思います」
「いえいえ。魔法の真髄の一端を見せていただいたのですから、これくらいは許可させてください」
そう言って、ヨハネス教授はニコリと微笑んだ。
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