2日目の仕事と実験 その3
一部にエロやグロ、個人の主義主張があります。
ご注意下さい。
報酬を目的にしたとはいえ助けたのは自分、まずはいろいろと説明した上で協力を仰ぐべきだろう。
鎧武者の前にマント1枚だけの女性が4人座っている…壮絶な絵面だ。
「我が名はアダム…汝らの助けの声を聴いて馳せ参じた…そうだな、救済者とでもしておこう。」
我ながらよく回る口だ。
「アタシの名前を何で知ってるのか分からないけど一応、マルダっていいます。冒険者をやってる…やっています。ゴブリンの討伐で来たんだけど返討ちにあって…ここにいる…います。」
慣れていないのだろう、がんばって丁寧な口調で喋ろうとしているのが見て取れる。
残りの3人は近隣の村から拉致されてきた村娘だった。
それぞれ、レッタ、フルー、イロエと名乗った。
「さて、我ながら勝手だが助けた汝らには報酬を払って貰う。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、下さい!」
マルダが身を乗り出しながら慌てて意見してくる。
マントを纏っていてもその下は一糸まとわぬ状態だ。
身を乗り出しながら意見すれば嫌でも見えてしまう。
「少し落ち着け、そして自分の服装を思い出せ。」
自分の姿を思い出したのか少し赤面したままマントを引っ張り自分を覆い隠しペタンと座る。
「言いたいことは大体予想出来る。払える物が無いとかそんなところであろう。」
「私はギルドに行けば少しは貯えがある、あります。あん…あなた様が満足するとは思えないけど…それに他の娘は…」
「まずそこが大間違いだ、と訂正しておこう。今度は最後までちゃんと聞け。」
私はなるべく丁寧に分かり易く尊大に説明した。
「私は金品や奴隷欲しさに助けたわけではない。」
あからさまにほっ…とした空気を感じる。
「私が欲しいのは『信仰』だ。」
今度は露骨に「?」となっている。
アイテムボックスから親指サイズの神像を出して見せる、あまり大きなサイズでは持ち運びに苦労するしな。
「信じるか信じないかは任せるが、神に仕える身分でな…神に対する祈りを集める事を生業としている。」
思ったよりも難易度が低めな要求だったのか安堵した空気が流れている。
「この神像に対し、食前の祈り、祖先への感謝、豊穣祈願、要するに何でも良い。神に対する敬意がそのまま『信仰』となる。」
「はぁ…やり方は分かっ…分かりました。それにあん…あなた様が神に仕えている事も信じます。」
あら、思ったより素直に受け入れてくれたようだ。
「ゴブリンを消し飛ばした技…冒険者の特級ランク、人知を超えた英雄ですら出来ませんよ…。」
最高のレベルと装備による威力だ、簡単に真似されては困る。
「納得してもらえたのなら話は早い。神像を受け取るが良い。」
恐る恐る1人1人が神像を受け取っていく。
よし、これで救済と報酬の説明責任は果たした。
「各自、祈りを欠かさぬように。」
身を翻し、転移をしようとしたが――
「お待ちください!」
村娘B…じゃない、フルーだったかな?青髪が印象的な娘だ。
「どうかもう少しだけお待ちください!」
いわゆる土下座スタイルでのお願いということはビジネスマンとしては聞かざるを得ない。
足を止め、フルーを見る。
「何だ。」
「ゴブリンから助けて頂いたこと、傷を癒していただいたこと、非常に感謝しております。その上で恥を承知でお願いがございます。」
「…申してみよ。」
「私たちは着の身着のままで連れてこられました。村に戻るにしろ、近場の宿場まで向かうにしろ路銀も無く、冒険者様のように身を守る術もございません。
の垂れ死ぬかモンスターに襲われるか…祈りを捧げる前に死んでしまう恐れがあります。」
確かにマップを確認すると一番近い村まで徒歩で数日、言いたいことは分かった。
しかし、このフルー…今の自分たちの状況を把握したうえで相手に訴え、譲歩させるような発言…中々食わせ者かもしれない。
「お願いでございます。私たちをアダム様に同行させては頂けないでしょうか!お願いします!」
「「お願いします!」」
レッタ、イロエも空気を察したのか、並んで土下座スタイルになった。
「アタシは…最低限の武器さえあれば身は守れるけど、3人を護衛して村まで…ってのは無茶が過ぎる。」
これはマルダも何とか連れて行ってと促しているのだろう。
「…すまないが、」
もう最初の言葉だけで絶望感からか3人がビクッと震える。
私は管理者の間を経由での移動しかできない。
しかも社長曰く"管理者の間には管理者しか入れない"という事だ。
「我への同行は出来ん。しかしだ、汝らの言い分も理解できる。ここに放置して死なれては我の苦労も水の泡だ。そこでだ…」
― ― ― ― ― ― ― ― ―
アイテムボックスから収納袋(中)の袋を取り出し、食料をどんどん突っ込んでいく。
「マルダよ、汝の得意な得物は何だ?」
「私の職種は戦士…です、一通りなんでも出来ますが特にあげるなら槍…です。」
「参考までに聞こう。以前はどんな槍を使っていた?」
「鍛冶屋で買った銀貨5枚の鉄製のものです。」
設定では銅貨1枚が10円程度、100枚で一つ上の銀貨1枚だから…槍1本5000円…これはどうなのだろうか。
「…すまないが、我は冒険者の生活水準には詳しくない。その槍は高価なのか?」
「アタシにとってはとても高価でした、まだ青ランクですから日の稼ぎがショボいのもありますけどね。」
青ランク…冒険者の等級だろうが、下なのか上なのか分からん…。
ならばそれよりも上等な物で護衛に使えそうなスキル付いてて、過剰過ぎない物を選ぼうか。
これも実験の一環だ。
護衛に使うなら遠距離魔法か、支援魔法か…
お、これは良いんじゃないか?
ミサイル・スピア…投擲Ⅰが付いてるので投げるときに補正が付くので遠距離にも使える、それに所有者の元に戻ってくる機能もある。
参考までにただの鉄の槍が装備品レベル5、ミサイル・スピアが20だ。
ちなみに剣神・建御雷神シリーズは全て100だ。
普通の槍としての能力も単純に3倍近い、これなら何とかなるかな?
「では3人の護衛の先払いも兼ねてこの槍を送ろう。」
アイテムボックスから槍を引き出し、マルダに渡す。
「投擲補正の付いた槍だ、投げても自分で所有者の元に帰ってくる故、咄嗟の遠距離としても使えるだろう。」
1メートルほどの尖った円錐に安定翼のような翼が4枚付いたミサイル・スピアを受け取ってマルダが震えだす。
「こ、ここここんな!魔法武器!?英雄クラスの武器!?ほ、ほんとにアタシなんかに!??!」
「何、神に仕える者からすれば何でもない武器だ。気にせず使うが良い。」
はぁ…と槍を見ながらうっとりと吐息を零しているが…これでもやりすぎレベル?
あとは村娘3人だが、戦闘経験は皆無だから身を守ることに特化させるか。
というよりまずは服…よりも下着だがこれは、自分たちで選んでもらおう。
テーブルを出し、その上に下着と一般的な服をどさどさと出していく。
「これから好きな服を選べ、残ったものは収納袋に入れて後で使うが良い。」
やはり女性だ、こんなところでもオシャレに関しては抜け目がない。
あーでもないこーでもないと服を見ている…ついさっきまで槍を見ていたマルダまで参加していた。
逞しいものだ。
さてと、身を守れつつ過度過ぎない装備は…
障壁の指輪…敵意を持った攻撃を一定の威力まで無効化、装備レベル10
隠者の外套…隠ぺいⅠ・・存在を希薄にし、敵に狙われにくくなる 装備レベル11
防御はこんな所か、万が一の為に攻撃手段も何か無いかな。
赤髪、青髪、黄髪…それになぞらえて火、水、雷の杖でも持たせるか。
各属性のワンド、それぞれ発火、水球、落雷の能力を持ち、装備レベル13
「汝らにはこれを授けよう。」
障壁の指輪と隠者の外套はマルダにも与える。
魔法付きの装備はそんなに珍しいのかえ゛っ…と声を漏らしていた。
「収納袋の中に食料を入れて置いた、4人で1週間掛かっても食いきれないだけあるはずだ。それに各ポーションを少しと多少の金を入れて置いた。」
「フルーよ、これで問題は無かろう?」
「わがままを聞いて下さりありがとうございます。村に帰れた暁には家族総出…いえ、村の神として村民総出で祈らせて頂きます。」
「よきに計らえ、それではな。」
その場からシュッっと鎧武者の姿が消える。
この日を境に『救済の鎧武者』や『新たな神』を信奉する者の噂が徐々に世界へと広まってゆく。
読んでいただいてありがとうございます。
ブックマークや評価を頂ければやる気に直結します。
よろしくお願いいたします。