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愛しき乙女の断罪~幸せをあなた達と~


 どうも、お久しぶりです三笠広生です。大部遅くなってしまいましたが小話のちょっとした続きです。


 子供が生まれてから私は冒険者を止めた……という訳ではない。

 今でもたまに夫、カインと共に冒険へ赴くことがある。


 あれからもう一人、10歳になるリズリールの他に子供が生まれた。男の子のスピカという子が。


 因みに、乳飲み子と子供がいるため夫とは殆ど冒険に行くことは出来ないがいざというとき体が訛っていたら困るのでたまに知り合いに子供たちを頼んで一緒に冒険に出たりするのだ。


 ある日、カインの冒険者仲間とも一緒に依頼を受けていたのだが、その帰り道仲間の一人であるリヴェリアが尋ねてきた。


「ねぇ、エルリールさんは『変わりの景色』って知ってる?」


「『変わりの景色』?いえ、聞いたことがありませんね。初耳です」


 そう言った私を見て、得意気に鼻をふんすっと鳴らした。リヴェリアは金髪の女騎士のような格好をしているが外見と中身は違く、面白いことが好きで少々お転婆な18歳の年相応の女の子なのだ。なので私はその反応に乗っかるように少しだけおどけながら返した。


「ふふっ、どうぞこの無知な私に教えてください。リヴェリア」


 リヴェリアは得意気に語ってくれた。


 曰く、木に生った薄色の花が美しい時があると。

 曰く、太陽のような生命力の溢れた花が一面に咲き誇る時があると。

 曰く、木々が色を付け、山々の恵みが取れる時があると。

 曰く、白の結晶が地面に降り積もり周りが白銀に染まる時があると。

 それら4つの景色が巡っており、折々の時が流れているらしい。


「一度だけ、依頼で『白凍季(はくとうき)』の時に行ったことがあるんだけど、考えられないくらい寒かったわ。まぁ、準備不足や情報があまりなかったっていうのが大きかったんだけどね」


 『でも、景色はすっごく綺麗だった。吐く息も白かったし、周りも全部白かったの。でも何より驚いたのが静かだったの。降り積もった結晶を踏む自分達の足音しか聞こえないの』と興奮しながら語ってくれた。


 そのように聞かされたからなのか、落ち着いたら行って見るのもいいかなと思う。だが『白凍季』は子供がいるので無理だが、リヴェリアに行くならどの景色が良いのか尋ねたら、『薄付散季(うすづきちりどき)』と言われる咲く花弁が美しくも散り際が儚く、何処と無く寂寥感が生まれる光景が見所で、『灼命日輪季(しゃくめいにちりんき)』といったその時季に一斉に開花する花があり、黄色の絨毯があるような大量に花が咲き誇る風景が見られると言い、『山命染季(さんめいぜんき)』という山々が色づき、山に恵みが実る時など全部良いと言っていた。


 行きたいということが顔に出ていたのかリヴェリアは私の顔を見たあと、カインに大きな声で言ったのだ。


「カインー、『四季地』に行くわよ。皆も行くから準備しましょ。ね、エルリールさん」


 他の仲間たちは大体分かっていたのか各々返事を返していたが、カインはぽかーんとしていた。いや、カインだけじゃなく私もしていると思う。


「いや、あの……リヴェリア?一体どういうことなの」


「いやー、思ったんだけどね。エルリールさんが体が鈍らないように子供を知り合いに預けて私たちと依頼を受けているっていうのを知ってさ、色々大変な時期でしょ今。だからさ、子供がたちと一緒にリフレッシュしたほうがいいと思って随分前から計画していたんだよ」


 私の知らないところでそんな計画があったのか、と驚きはしたがそれ以上に嬉しかった。だから私は笑顔で、ありがとうと言った。


 そこから私たちが旅行に行くまでは早かった。案外、私よりもリヴェリアたちの方が乗り気だったのかもしれない。

 ただ場所は意外に遠かった。私たちだけなら問題はなかったが子供たちが一緒だったので御者(ぎょしゃ)を雇い、ゆっくりと目的地に向かうことにした。


 思えば、こんな風に旅を……強いて言えば誰かと一緒に旅行に行ったことなどなかった。


「ねーねー、りべりあー。りべりあはー……」


「こら、リズ。『さん』をつけなさい」


「カインさんはなぁ、いざって時はかっこいいんだがなぁ……」


「そうじゃなぁ……じゃがしっかりしたカインはあまり似合わんの」



 リヴェリアの膝の上に乗って蒼い色の布で結んだ髪を揺らしながら、無邪気に問い掛けるリズリール。それを笑顔で見守るリヴェリア。


 スピカを抱き、リズリールを叱るカイン。その隣で額を手で覆ってため息を吐くアズベルと豊かに蓄えられた顎髭を触りながら苦笑し、二人がカインのちょっとした不満を口にして、次には吹き出し笑い合っている。


「……ふふっ」


 そんな光景を見て、思わず笑みが溢れた。



◇◇ ◇◇◇


 目的地には大部時間が掛かった。だがこういったゆっくりとした時を過ごすのも良いと思った。


「んー、やっと着いたわね」


 馬車を降りたリヴェリアは伸びをして体を反らす。他の面々も腕を回したりしていて時折、コキコキと関節が鳴っていた。


「ほらっ、リズ。着いたわよ」


 寝ていたリズリールを起こす。眠たげな目を擦りながら馬車から出てきてリズリールは目を開け、そして驚く。


「うわぁ、凄い凄い!お母さん景色が紅いし、黄色いのもあるよ!」


「えぇ、そうね。とっても綺麗ね」


 リズリールが風景を指差しながら跳び跳ねている。それを笑みを浮かべながら見て、跳ねていたリズリールの頭を優しく撫でる。

 傍らにはいつの間にかカインがスピカを抱え、微笑みながら二人を見ていた。

 暫くそうしていたが、リヴェリアが宿に行こうと切り出した。何でも前に来たときに泊まった所なんだそうだ。宿代もそれほど高くなく、出される料理も美味しいらしい。それを聞き、リズリールはどんな料理が出るのかと楽しみになったらしくリヴェリアと一緒になって早く行こうと言い出した。

 そんな二人の様子が何処か可笑しくなって笑ってしまった。二人は何でいきなり笑い出したのか分からず首を傾げていたけれど。


 リヴェリアが言っていた宿は確かに他の宿とは何処か違っていた。他の宿は内装の明かりに水明石(すいめいせき)と呼ばれる水をを与えると石が光を放つ物で光を点していたが、ここでは『ろうそく』と言われる物を使い、明かりを灯していた。暖かみのある良い宿だと思った。


 提供された料理も今までにない変わったものだった。

 琥珀茸(こはくたけ)を使った汁物、石切魚(いしきりさかな)を焼いた主菜、五穀筍(ごこくたけのこ)という筍を使って炊いた『こめ』と言われるご飯など様々な料理が出てきた。どれも物珍しいものばかりで初めて口にするものだったがとても美味しかった。


 私はお酒は飲めないがグインがここのお酒を気に入ったらしく、たくさん飲んでいた。ここのお酒は水のように透明でとても香り高く、純粋に旨いのだという。アズベルやカインもグイン程ではないがお酒をたしなむ。

 所謂(いわゆる)、男子会だ。そして私とリズ、リヴェリア、スピカは一緒に『おんせん』といわれるものに入った。こちらは女子会というやつだ。スピカは男の子だが赤子なので許してもらえるだろう。

 何にしろ今のカインたちに任せておくわけにはいかない。酔っているかもしれないからスピカが危ない。


 『おんせん』はとても気持ちがいいものだった。広く温かい水の中に入るだけなのにこんなにも違うものなのかと思った。

 部屋に戻るとグインが(いびき)をかき、カインとアズベルが机に突っ伏して寝ていた。そんな光景を予想していた私とリヴェリアは各々を寝床に寝かせ自分達も床に着いた。


 疲れていたのかリヴェリアとリズリールはすぐに寝てしまっていた。

 私だけが起きている中、リズリール、スピカ、リヴェリア、カイン、アズベル、グインの寝顔を一瞥して思う。


 ――今、私は幸せなのだと。クスリと笑みを浮かべ、瞳を閉じた。

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