第九話 二万四十三番目の完成品。1-4
そうして目的の場所につく。
今回の標的は西に三十キロほどいった、日本でいう岐阜県にあたる、『胃埜筋』という名の辺境にいた。
まわりは草木ばかりなのにそこには不釣り合いな二百坪ほどの敷地に、大きめの一軒屋が寂しくそびえ立っていた。
城などとはほど遠いが、ここいらでは滅多に見られない大きな建物だ。尖塔も三つあり、特に中央にあるものは一際大きいのでよく目立っていた。
二人はそんな屋敷の正面に立つとまずブザーを探したが、そんなものはどこにもなかったので、無断で入ろうとしたら鍵がかかっている。
「どうしよカズマ?」
リスのように可愛く小首を傾げてレイナは問うた。
どうやら今回もいつも通り、和馬の方針に従うらしい。
和馬は一度だけ大きく息を吸うと、
「ちわーす! あなた……、えーと、ミイナ・レッド・ウルさん! あなたは何か知らんが悪いことをしたらしく、みごと処罰対象に選ばれたので、俺達がやってきました。鍵がかかっていて何かもういらいらするのでこのまま踏み込みます。覚悟しておけよボケ!」
そのまま、リゼットから貰ってきた書状を適当に読み、玄関を力一杯に蹴り飛ばして粗野に破壊した。
そしてずんずんとわざと音を立てながら、堂々と〝命の密度が濃い〟一番奥の部屋へと向かって歩き始める。
「今日の標的はドラキュラ伯爵だ。気を引き締めていけよ。てか気を抜くと俺達が干からびるからな」
「ドラキュラってC級モンスターでしょ?」
「それが違うんだなー。A級モンスターだ」
レイナには隠していた事実を、ここで和馬は発表した。
「――! それってまさか真祖……」
「当たりー!」
「銀の弾丸は!?」
「あるかーい! いつもの鉛の弾丸だ。でも今回はバッチリ決めてきたぜ! 左のベレッタには銃弾六発、新調した右のS&Wには銃弾二発だ!」
「それ全然マガジンに弾が詰まってないよー!」
和馬はレイナの顔が青ざめていくのを目の当たりにしても、飄々とした態度を貫いていた。
「今月はピンチなんだよ。でも大丈夫だって! こっちにも切り札がある」
「――!」
そう、彼には切り札があるのだ。
「知りたいか?」
「うん!」
「同じA級モンスターのベアウルフのお姫様。浅斬レイナがうちにはいる!」
そして地下強く握り拳をつくり和馬は言った。
「またわたしの超過負担きたよー!」
「大丈夫だ! バックアップはまかせろ!」
「正直銃弾八発じゃ、いてもいなくても変わらないよ!」
「じゃあ、俺うんこでもして待ってて良いか?」
「きてよ! 真祖でしょうが! まじで一人じゃやばいよ!」
「大丈夫。死ぬ時は一緒だ」
和馬本人は格好いい台詞を吐いているつもりだが、レイナには全く届いていなかった。
「そりゃーわたしが死んだらカズマも助からないからね。多分だけど」
「まだ死にたくないな」
「そうだね」
「じゃあ、一丁A級モンスターと相対してやるか!」
ここでようやくレイナも覚悟を決める。
「オーケー! わたしが前線だけど……」
「がははははっ! 細けえことはいいんだよ!」
和馬は右腕を豪快に掲げて笑った。
二人は和馬の勘を頼りに、目標がいる方向に奥へ奥へと進んでいく。
「同じA級モンスターだろ。気楽にいこうぜ!」
「いやいや……質が違うんだって。向こうは数がもう十人弱と言われててA級。わたし達ベアウルフはまだ二万人いてA級。ウォウルフなんか一千万人強いるから数だけでA級。カズマも知ってるでしょう」
右手に振り子のような動作をさせて、レイナは必死に否定した。
「もちろん。だが、浅斬レイナという特上のA級モンスターは俺しか知らない」
「いやん……もうカズマったら……なんて言うかーい! 多分向こうのが強いよ」
「『全加早速領域』で初っ端決めちまえ!」
「カズマは知ってるでしょ。所詮こけおどしだからね。真祖のドラキュラ相手に上手くいくとは思えない」
「だよなー。俺も思わん。まあ、今回は俺も奮闘するからお互い頑張ろうや」
「今回A級なんだから特別ボーナスでるんでしょう?」
「ああ、もう貰った。ほとんど弾丸に変えたよ」
もちろん和馬は嘘をついていた。
その内の九割は『DD』である。
しかしこんな稚拙な嘘でも現場の雰囲気に飲まれているレイナは違和感には気づかなかった。
「ちょっ! おまっ! わたしの分は」
「お前昨日俺ん家の冷蔵庫にあったプリン食べたじゃん」
「……食べたけど」
「勝手に食べるのはいけないことだ。名前も書いてあっただろ?」
「書いてあったけど……」
レイナが正直に答えたのを見て、和馬は満足そうに説教をする。
「だったら罰を受けなきゃな。『ごめんなさい』なんて誰でも言える。『土下座』なんて誰でもできる。
だがそいつの本当の気持ちなんてのは『誰にもわからない』。もう、わかるな」
「特別ボーナスいくらあったの?」
「三十」
和馬は即答したが、レイナはしばらく小さく可愛い口をポカーンと開けていた。
「プリンが一個、十五万レントかーい!」
「これでもう、俺のプリンを勝手には食べなくなるだろ」
「……うん。食べない。でも謝らないよ!」
「良いよ。謝られても一円にもならねえから。客からクレームが来たときはとにかく謝れ。なぜなら謝るのはタダだから。土下座でも何でもしてとにかく謝れってな」
「何それ?」
「俺が社会人だった頃に受けた研修で、そこの部長だったかがドヤ顔で言ってたクソみたいな言葉だ」
和馬の意外な過去にレイナは目を丸くする。
「カズマこの会社の前に何かやってたの?」
「俺にもいろいろあったのさ」




