表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/73

第四話 水瀬由紀の憂鬱。1-4

 …………カンナは絶句した。


 一人の少年が歩いてくる。

 それはカンナが心から崇拝する。愛しき主の姿だ。


 その後ろには由紀とセカイの姿もあったが、カンナの目には弘樹しか映さない。


 すぐにカンナは葵から手を離し、弘樹のもとへ走っていく。


「ヒロ様! 『Ω.オメガ』の瞳が! これでヒロ様が!? セカイさん、あなた……!」

「カンナ殿。ここからはヒロ様の命に、従うだけでござります…………」


 セカイは裸眼で『発動』の右目が赤色、『停止』の左目が青色になっている。

 そして弘樹はしっかりと、『Ω.オメガ』の刻印が映しだされた瞳でカンナを見やる。


「ヒロ様……。あの……」

「俺は盟約したんだ。ユキのヒーローになるって……。だからお前を選ぶことはできない」

「そーだそーだ! ヒロくんはあたしだけのヒーローなんだもん!」

「ユキ、いこう」

「うん! じゃあねー、カンナちゃん。にゃははっ」


 もうオメガの瞳に、カンナの姿は映っていない。


「……あう、あっあっ……」


 弘樹と由紀の会話に、カンナの心は壊れそうだった。


 ――このままではヒロ様が……、ヒロ様がわたくしのモトカラハナレテイッテシマウ。


「――――!」

 頭がそう認識した瞬間、カンナは無意識に祝詞を紡いでいた。



「じ……自我の領域の解放。我、神剣を創りし、聖剣、神槍、聖槍、全てを生みだす者なり也。わ……我は自身の魂を矛に変え、領域すらも神を崇める矛で構築しよう。『神恢しんかい領域』」



 この祝詞と共に、百本以上にも及ぶ。神剣、聖剣、神槍、聖槍、神斧、聖斧、神弓、聖弓の数多の神器が、一斉に広大な大地から出現する。そして、その全てが弘樹と由紀の進路を拒むように並べられた。


 その一本一本が、神をも恐れる神器だ。


「い、いかせ……ません。ここから先は……、いくらヒロ様でも!」


 すでに自分が何を言っているのかも、理解できているのか不思議なカンナだった。

 ただの本能で動いていた。


 ――ヒロ様! いかないでください! あんな女など見ずに――わたくしだけを見てください!


 カンナの願いはそれだけだった。しかし、弘樹は一切怯むことなく口を開いた。


「頼むカンナ。そこをどいてくれ!」

「嫌です! 我が手に収まれ冥譜の剣。『悲劇的結末カタストロフ』」


 大地に晒された神器から、一本の真紅の剣がカンナの右手に渡る。


「……破滅武器か、範囲は?」

「完全なる失敗作の神器……。人口の半分です。わたくしは一度これを使っておりますので、次はこの『アサイラム』が全壊します。もう――わたくしでも加減はできません」

「やめろ」

「わたくしに振らせないでください」

「やめてくれ」

「それは……命令ですか?」

「……命令じゃないよ。お願いだ」

「わたくしは……」


 完膚なきまでに、カンナは由紀に負けた。

『オメガ人』としての祝詞を、弘樹は紡ぐ。


「自我の領域の解放。我望む領域こそは、初めであり、また終わりである。創られしモノ、その全てに終焉を。『創焉そうえん領域』」


 そして弘樹がその手でカンナの左肩に触れると……。彼女の領域は完全に崩れ去る。

 さらに『領域』を証明する刻印も全て喪失した。


 それと同時に『Σ.シグマ』の『神恢しんかい領域』によって、その姿を見せていた百を超える神器が、初めからそこに存在していなかったように消滅する。


 その場に座り込み、カンナは力なく頭をさげた。


「壊滅しました……。先代から受け継がれし全ての矛が……」


 弘樹は祝詞を紡いだ後、由紀に駆け寄った。二人は南へと歩きだす。

 由紀は勝利の笑顔を、にやにやと浮かべている。


「お願いです。いかないでください……」


 カンナは機械的な口調で、ずっと頬を涙で濡らしながら口を開いていた。


「お願いです。いかないでください……」


 その言葉は――どれも一緒だった。


 弘樹は一度だけ振り返ると、録音機のように同じ言葉を繰り返すカンナの姿を確認する。


「カンナ。これで君は、もう俺なんかのために束縛されなくて良いんだ。これからは自分のために、自分で考えて、自分で決めろ。俺は……もういくよ」


「いかないで……、いかないでください……。ヒロ様……」

「…………」

「……ごめんな」

 ――謝らないでください! どうか謝らないで……。

 ――あんな今も笑っている女のところになんていかないで! 壊れた刃でも構わない! ずっと側にいさせてください! わたくしは……。

「――!」



「……ヒロ……さま…………」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ