第三話 モンスター・ホリック。1-8
それからも弘樹はカンナといろいろな話を言い交しながら庭を歩いた。
そしてようやく家の中へ再度入り、弘樹がいつも使用している二階の自室に辿り着くとカンナがノックもせずに部屋のドアを開ける。すると部屋には一人の少女が座布団に座っていた。
快晴の空を連想させる爽やかな青色の髪に鳶色の目をして、身長や髪の長さはカンナよりやや低め、短めの些さか癖毛のある少女だ。年も弘樹達と同じだった。
「綺羅さん。遅刻はしなかったようですね。隠れて窓から入ったようですが、今日だけは特別に見逃してあげます」
「恋人同士みたいな雰囲気だったから……さ。美剣**をまたせることなんてしないよ……」
「ちっ! 違います! そんなのではありません! ヒロ様にこの世界の説明をしていただけです! それに綺羅さん! わたくしは美剣カンナです!」
「なんで……名前を加奈と呼んだのがわかった……?」
「あなたのことですから。以後、心の中でもやめなさい! それよりお連れしましたよ。こちらがヒロ様です。さあ、ご挨拶を」
どうやらカンナはこの少女を、弘樹に会わせたかったらしい。
「良いよ……。****」
声が小さいので、よく聞こえない弘樹は複数ある座布団を――綺羅という彼女の横に寄せて座った。
「隣かよ。……良いけどさ……ふへへ」
「あ……駄目だった?」
「良いけど……。ってかさ……断ったらやばいって……わからない? わからないかなー?」
弘樹を視界に入れないで目を天井に向けていた少女に変わって、カンナが彼女の自己紹介をする。
「変な子で申し訳ありません。彼女は綺羅清美。『全能人』です。彼女の領域は『電』で、この『アサイラム』の根幹を任せている子です。先ほど説明しました十数名の『特禁人』を束ねて浮遊を維持している、管理人とでも思ってください」
「綺羅で良いよ……」
「ん?」
「名前……好きじゃないから」
「わかった。綺羅……さん。俺は沢村――」
「け……敬語もいらない……。綺羅は僕、カンナの僕……。だからあなたのことも全部聞く。沢村弘樹様でしょ。カンナは好きだから……気にならない」
吃音症みたいな口調だが、聞きとれるので問題はなかった。
「うん、わかった。それじゃ、お互いに敬語や様はなしな」
「……そう。ならそうする。カンナ……良い?」
呆れた様子のカンナだったが承諾する。
「ヒロ様の提案でしょう。ならわたくしが咎めることはありません」
「ありがとカンナ。カンナこそ『アサイラム』の姫……王であるのは間違いないので……そのカンナが弘樹を選んだなら従うよ……」
「……今までは『オメガ人』だったらしいけど、やっぱり君も今の『アサイラム』のトップは彼女だと思っているのか?」
「違います! ヒロ様こそが――」
「少しだけ……少しだけで良いから弘樹と二人で……。お願いカンナ」
「…………」
数少ない、カンナに意見を言える綺羅が彼女の言葉を遮断した。
「そうだよ……。カンナしか考えられない……。聲……聲が……『アサイラム』の聲をさ……、聞けるのカンナだけだし……綺羅や弘樹では無理でしょ。もちろん『Α.アルファ』の目を持つ子でも……だから綺羅は待つよ。どこまでも……ね」
「何かが見えたのですか?」
「うん……。カンナは少しだけ……遠くに、でも未来は一杯……。だから一割も当たらない。でも……少しだけ気をつけて」
「……わかりました。念頭に置いておきます。ありがとう綺羅」
「す……好きだから……。綺羅はカンナが好きだから……」
「『アサイラム』の聲か……」
何となく耳をすます弘樹だったが、案の定そんな聲は聞こえなかった。
「そうだ弘樹……。最後に良いもの……良いもの見せてあげる」
「良いもの?」
「両手を広げて……こう」
すると綺羅の両手から火花が散った。そして……。
「お別れの……握手」
と、握手を弘樹に求めてくるが、
「綺羅さん。このぐらいにしときましょうね」
笑顔でカンナがその手を握った途端、火花がやんで悲鳴が聞こえる。
「痛い! 痛い! 痛い! ごめん去るから! 顔見せやったから! スン……グス」
後は涙をぽろぽろこぼしながら部屋のドアを開けて、
「じゃあ……必要な時は呼んでカンナ……カナカナ」
と、弘樹の部屋からでていくのであった。
「個性的な子だな」
素直な感想を弘樹はカンナに述べると、彼女も少々苦笑いをした。
「はい、悪い子ではないのですが……。そうですヒロ様! もしよろしければ、ご入浴はいかがですか? わたくしはその間に料理をしますので!」
唐突にカンナは、半ば強引に風呂を勧めた。
だがいろいろと未知の体験に飛び込み疲れていたので、弘樹はその提案に文句はなかった。
「サンキュー。正直疲れていたんだよ。いろんなことをいっぺんに聞いてくたくただ。喜んで入らせて貰うわ」
「はい! ぜひ!! もうお湯は沸いていますので――どうぞ!」
こうして弘樹は風呂に入りにいこうと自室ドアを開けて閉める。そこで一人になったカンナは小さな声で呟くのだった。
「……ヒロ様の瞳には何が視えているのですか? そのオメガの視界には何が映っているのですか? そのオメガの瞳に――わたくしは映っていますか……?」




